アニメDVDのBOX売りはメーカーにとって諸刃の剣か

放送中、あるいは放送が終了したばかりのアニメは、DVD1枚あたり2~4話収録という形にてバラ売りで発売され、古い(DVD普及前の)アニメはBOX形式で発売されるというのが今までのパターンでした。ですが、もう古いアニメのDVDは出し尽くされてしまったのか、最近は「すでにバラでDVDが発売されているものが、あらためてBOXで発売される」というパターンが増えてきました。

アニメDVDの、BOX再販が増加中

角川、テレビアニメ9作品のDVD-BOXを各12,600円で再販

こちらによると、合計9作品のDVD-BOXが、2008年11月から2009年3月にわたって発売されるということになりますが、この各アニメのDVD第1巻と最終巻の発売日をまとめると、以下のようになります。

タイトル 単品DVD第1巻発売日 単品DVD最終巻発売日
トリニティ・ブラッド 2005年8月 2006年7月
Canvas2 ~虹色のスケッチ~ 2006年1月 2006年12月
N・H・Kにようこそ! 2006年10月 2007年9月
機神咆吼デモンベイン 2006年8月 2007年1月
護くんに女神の祝福を! 2007年2月 2008年1月
忘却の旋律 2004年7月 2005年6月
スクラップド・プリンセス 2003年8月 2004年8月
ムシウタ 2007年9月 2008年2月
ご愁傷さま二ノ宮くん 2007年12月 2008年5月

ご覧のように、単品DVD最終巻が発売されてからまだ1年もたっていないアニメもあります。

また上は角川書店の例ですが、他のメーカーも似たような傾向を出しつつあります。例えばアニプレックスは『鋼の錬金術師』のDVD-BOXを2009年1月に発売予定。メディアファクトリーは『創聖のアクエリオン』『ノエイン もうひとりの君へ』『巌窟王』『ARIA The ANIMATION』『ストロベリー・パニック!』『超重神グラヴィオン』『スクールランブル』などのBOXを発売。ジェネオンも『灰羽連盟』『苺ましまろ』など、ポニーキャニオンも『ローゼンメイデン』『ローゼンメイデン・トロイメント』『ジパング』、キングレコードは『D.C.~ダ・カーポ~』『JINKI EXTEND』『シスター・プリンセス&シスター・プリンセスRePure』など、ジーダスは『こみっくパーティー』『To Heart』、イマジカは『ToHeart2』『ToHeart~Remember my memories~』、そしてご存じのようにバンダイビジュアルは『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』などのDVD-BOXを後から発売することになりました。

これらのBOXは、純粋な「廉価版」として発売されることになったものもあります。ですが一部にはBOXにさらに新規特典をつけることにより「新しい特典が見たければ、すでにDVDを揃えていてもBOXを買わないとならない」という状況を作り出しているものさえ含まれています。

「後からBOXが出るのでは」と思われ買い控えが発生する?

言うまでもなくメーカー側としては、売り上げを上げるためには「既にDVDが出ているアニメを改めてBOXを出す」というのは手頃な商売です。ですがメーカーのこの行動は、ユーザーの間に「どうせあとからBOXが出るんじゃないの?」と思わせ、買い控えを起こさせているのではないでしょうか?

「それでも売れるものは売れる」「それでもマニアは買ってしまう」という意見もありますし、実際単品DVDが好調な売れ行きを示しているアニメ作品も多くあります。ですが、そこまで大人気とならないアニメの場合「せっかくだからこのアニメも買っておこう」ではなく「これはBOXが出たときに買えばいいから単品DVDは買わないでおこう」と思われるのではないでしょうか(「後から買った方がおまけの特典を貰える可能性がある」ならなおさらです)。そしてユーザーにそう思われたとして、あとからBOXを発売したとしても、本当にそのBOXを買ってもらえる保証はないのです。

しかも今後、現在のDVD-BOX商法の後に、「Blu-ray BOX商法」が始まる可能性だってあります。これは『ef a tale of memories. Blu-ray BOX』『新パッケージ版AIR Blu-Ray Disc Box』などの発売が示すように、既に始まっているのかも知れません。もう一つ付け加えると、Blu-rayでは日本と北米はリージョンが同じなので、同じアニメでも北米版を買えば日本でも簡単に再生可能(そして日本語音声がカットされている可能性はまずありません)。さらに北米では、すでにアニメのBOX売りが非常に普及しているうえ日本より安いのです。

また以前書いたように、地デジ(あるいはBSデジタル)での高画質放送+Blu-rayでの高画質保存が普及しつつある中では、「DVDの画質ではなあ」「どうせ後からBlu-ray BOXが出るんじゃないの」と思われることも多いでしょう(最近は、最初からBDパッケージも発売するアニメがかなり増えましたが)。実際、私も「どうせあとからBlu-ray BOXで発売するだろうからDVDは買わないでおこう。BOXが出なかったら……まあ別にそれならそれでもいいや」と思って、買うのを止めてしまったアニメ作品が複数あります。

「売れるアニメ」と「全く売れないアニメ」に二極化?

以上からまとめると、

  • 単品版がDVDでしか発売されないアニメはあまり売れなくなる
  • 単品版がDVDでしか発売されない「それほど人気が出なかった」アニメはもっと売れなくなる
  • かといって後からDVD(Blu-ray)-BOXを出しても、すでにユーザーに忘れ去られている可能性もあるし、「Blu-ray BOXも出るんじゃないの」と思われて、結局売れない可能性がある
  • 最初から単品版をBlu-rayで出したとしても「やっぱり後からBOXが出るんじゃないの」と警戒される

という可能性があることになります。

その結果、ユーザーに警戒心を抱かせてパッケージを手に取りにくくさせてしまい、また「売れるアニメ」と「売れないアニメ」の2極化をさらに進めることになるのではないでしょうか。ただでさえ「アニメの本数が多すぎる」とは何度も言われていますし、すでに「売れるアニメ」と「売れないアニメ」の差は大きなものになっています。DVD-BOX商売は、これに拍車をかけていることになります。

ですが、このBOX売り商法は止まることはないでしょう。すでに書いたように、各メーカーが次々とBOX売りを始めてしまっており、1社が止めてどうにかなる状況ではなくなっているからです。

ではメーカーは、どうすれば買い控えを阻止できるのか? 1つには、海外連続ドラマのDVDのように「最初からシリーズをまとめたBOXで売ってしまう」という手もあるでしょう。ですがアニメの制作費回収システムやアニメDVDの平均価格といった点を考えると、「最初からBOX売り」がアニメで実現する可能性は低そうです。

もう1つの手段としては、メーカーが「少なくとも○年間は、この作品をBOX形式などで再版することはありません」と宣言するという手もありそうです。ですがメーカーにそんな宣言をする勇気があるかというと、やはり難しいでしょう。結局メーカーは、どんな手を使っても利益を上げないとならないのですし、何らかの原因で約束を反故にせざるを得なくなったときのマイナスイメージを心配するでしょう。

アニメファンであっても、「次々と新しいアニメが放送されるので、放送されるものだけを見ればいい」というDVD離れが始まるのでしょうか。少なくともメーカーの方々には「DVDが出たらすぐに買うような熱心なファンは馬鹿を見る」ということだけはないように、ファンを裏切らないようにしてほしいところです。