最近航空マニアの間では、ある戦闘機の話題で持ちきりです。それがF-15SEで、日本もこれを導入する可能性が高いと言われております。
以前、退役するF-4E/Jの代わりとなる、航空自衛隊のFX(次期主力戦闘機)選定問題について少々書いたことがありました。FX候補には何種類かの機体が挙がって空自が調査を行っておりますが、簡単にまとめると、
機種名 | 利点 | 欠点(問題点) |
---|---|---|
F-22 | ステルス性能、戦闘能力、機動性能、速度など、性能がずば抜けている | 米議会が輸出を許可していない。仮に許可されたとしても日本でのライセンス生産は困難。価格が高い。 |
F-35 | ステルス性能を有する。国際共同開発で多くの国への導入が予定されているため、日本への導入も問題ないであろう | 日本はJSF計画に参加していないため、開発が完了したとしても日本への導入は後回しにされると思われる。 |
タイフーン | NATOでの運用を前提にされているため日本での運用も問題ないと思われる。日本でのライセンス生産も恐らく可能。RCSが比較的低い(ステルス性能が多少ある) | 航空自衛隊は欧州機を主力戦闘機として採用したことがない(戦闘機以外では採用経験あり) |
F/A-18E/F | 現在米海軍主力戦闘機として運用されており、実績がある。日本への導入も容易と思われる | もともと艦上戦闘機(空母艦載機)であり、日本には要らない能力があってコスト面などで不利 |
F-15FX | 日本では長くF-15Jを運用しているため生産、整備など様々な点で有利 | 基本設計がもっとも古い |
ラファール | 航空自衛隊にはフランス製戦闘機の運用経験が無い |
こんな感じです。ラファールの利点がありませんが、正直これは「当て馬」であって、採用される可能性はまずないと言われています(ラファールが駄目戦闘機というのではなく、他の機種を差し置いて日本で採用するほどの利点がないという意味)。
一方、日本の周辺国の状況について触れますと、まずロシアはT-50 PAK-FA、中共はJ-14(殲14)という戦闘機を開発中であり、それぞれステルス性能を有していて、F-22、F-35に匹敵する性能があるとされています(ただし詳細、真偽は不明)。
そんなわけで日本としては、
- F-4EJの代わりを性急に見つけないとならない
- "質"で対抗しないとならない日本としては、優秀な戦闘機が欲しい
- 日本の仮想敵国がステルス機を導入しようとしているらしいので、それよりも優位に立てる戦闘機でないとならない
- FX候補の中で、もっとも性能が高いF-22は輸入が困難
- F-35は開発が遅れていて、いつ導入できるか解らない
というディレンマに陥っている状態なわけです。
そんな中、突如現れたのがF-15SE (Silent Eagle)です。
ボーイング社が発表したこのF-15SEは、F-15の機体をベースとしながらも、レーダー波吸収塗料の採用、垂直尾翼への傾斜角導入、空対空ミサイルをコンフォーマル(機体内埋め込み方式)にすることで、低RCSを実現。その結果、F-35と同等のステルス性能があるとされており、運動性も向上しているとのことです。
Video: Boeing unveils the "stealthy" F-15 Silent Eagle - The DEW Line
こちらの画像を見ると、エアインテイクにも低RCS実現のための処理が施されているようですね。航空ファン 2009年6月号の記述によると、インテイクの基本構造は既存のF-15と変わらない可能性が高く、レーダー吸収塗料などでRCS低減を行っているらしいとのこと。
F-15SEは、既存のF-15が搭載可能な兵装はすべて搭載できるとされています。コンフォーマル型ウェポンベイには空対空ミサイルが合計4発しか搭載できませんが、F-35のコンフォーマル型ウェポンベイも合計4発しか搭載できませんので、不安ではありますがやむを得ないのでしょう(ただF-35は機体が小さい。F-22は合計8発搭載可能)。コンフォーマル型ウェポンベイに搭載できない兵装は、ステルス性を犠牲にして外部パイロンに搭載することになります。
ボーイング社は2010年第1四半期までに飛行テストを実施する予定としており、スムーズに進めばF-35よりも早い導入が可能となるでしょう。また日本にとっては、F-15が元になっている機体であるため運用面での安心感もありますし、それでステルス戦闘機を獲得できるなら目っけ物です。ボーイング社の言うことがどこまで額面通りかを差し引いて考える必要はありますが、F-15SEが空自FXの最有力候補の一つとなることは間違いなさそうです。
ちなみに『機動警察パトレイバー2 the Movie』には、「イーグル・プラス」という戦闘機が登場します。これは、F-15の運動性能向上とステルス性向上のため改修された機体で、水平尾翼が斜めになっている点はF-15SEと同じです(ただしイーグル・プラスのほうはもっと傾斜角が大きい)。またイーグル・プラスには推力偏向ノズルが搭載され、さらにカナード翼が4つも搭載されています。でもこれらはF-15SEにはありません。
最近の風潮では「カナード翼は低RCS化の邪魔でコストも上がる。運動性能もCCV技術で確保できる」ということのようで。実際、F-2からもカナードはなくなりましたし。メカデザイナーにとっては、お手軽に「かっこよくできる」「従来機との違いを強調できる」ため、カナードはよく使われるようですが……。
一方運動性向上のためには、F-22のように推力偏向ノズルがあったほうが確実にいいのですが、これを搭載するとコストがかなり上がると思われる(開発期間も延びる)ためF-15 SEでは採用されなかったのでしょう。ただF-15 SEは、搭載するエンジン次第ではF-22なみのスーパークルーズ能力を獲得することも可能なのではないでしょうか。
ボーイング、ステルス性を向上させた「F-15 SE」を発表 - Technobahn
F-15の新型機、F-15「ストライク・イーグル」のナゾ - Technobahn
なおボーイング社は、顧客として日本を意識しているのは間違いありませんが、F-15FXとF-15SEとの関係は不明です。現在までに発表されたF-15FXの仕様では、ステルス性については触れられていませんでした。
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