特別企画「なんだか色々と聞いてきました」第2回『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG Blu-ray Disc BOX』の新技術って?(後編)

特別連載企画2回目記事。前編の続きとなっているので、先にそちらをお読み頂きたい。

じゃあスムージング技術をエンコードで使おうじゃないか~"SBMV Extend"

で、前編で紹介したCREASの"スムージング"技術をBD/DVDエンコードの段階で活用し「マスター映像にカラーバンディングがあろうと、どんなプレイヤーで再生してもカラーバンディングが出ないようにエンコードしたDVD/BDを作る」というのが、今回『攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG BD-BOX』で使用された"SBMV Extend"技術である。

SBMV Extend

ここで私は比較映像として、『攻殻機動隊S.A.C. TRILOGY-BOX』のカラーバンディングが発生している映像と、『攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG BD-BOX』の同じシーンの映像(SBMV Extendで制作された映像)を同時に見せてもらった(この時プレイヤーには双方ともPlayStation3を使用)。すると『TRILOGY-BOX』で出ていたカラーバンディングが、『2nd GIG BD-BOX』では綺麗に消えていたのである。一言で言えば、『2nd GIG BD-BOX』の色は「とても滑らかで美しい」のだ。同種の技術は今まで他にもあるにはあったが、その中でも(BDZ-EX200での効果と同様に)画面のシャープ感が消えるなどの副作用がほとんどないのが"SBMV Extend"の売りだという。

取材後、サイト掲載用に提供して頂いた比較画像
SBMV Extend適用前 SBMV Extend適用後
SBMV Extend適用前画像 SBMV Extend適用後画像
SBMV Extend適用前画像 SBMV Extend適用後画像

SBMV Extend適用後の画像では、グラデーションがなめらかになっているのが確認できるほか、副作用がほとんど現れていないのがわかるだろう。なお上の画像を拡大するとディザリングが発生しているのが見られるが、私が実際に見せて貰ったSBMV Extendのデモでは、かなり画面に寄ってもこのようなディザは感じられなかった。

SBMV Extend原理

「そもそも、かなり高性能なTVで再生しないと、カラーバンディングなんてわからないんじゃないの?」と疑問に思われる人もいるだろう。だが私の自宅の、24インチ 8ビット色(DeepColor非対応)ディスプレイ(LCD-MF241XBR)とHDMI接続したPS3で改めて『TRILOGY-BOX』などの映像を再生してみると、かなりのカラーバンディングが確認できた。一方で"SBMV Extend"は、「8ビットの色数しか出せないディスプレイでも、人間の目をごまかすような色の表示を行うことにより、10ビット相当の色調を表現できる」ものと言ってもいいらしい。

"HDリアリティーエンハンサー"で14ビット処理された映像を表示するハイビジョンテレビが、8ビットや10ビットのパネルでも、14ビット相当の階調表現を可能にします。更に、10ビットパネルのテレビに接続すれば、視覚上の階調を作り出す信号の振幅が1/4となり更に滑らかな画像を表示することができます。(SONY CREASにおけるSBMの説明より)

そのため24インチ程度の、DeepColorに対応していないディスプレイであっても"SBMV Extend"技術の効果は期待できると思う(自宅環境で『2nd GIG BD-BOX』の再生を試せたわけではないが)。もちろんDeepColor対応ディスプレイと対応プレイヤーを組み合わせて再生すれば、より美しい画面になるのだろう……私の"いい加減な目玉"で判別できるかどうかはわからないが。

ところでこのSBMV Extendが使用された商品が世に出るのは『2nd GIG BD-BOX』が最初ではなく、下記のリリースにあるように、実際には『舞-乙HiME Zwei COMPLETE』(10月27日発売)が先になるようである(こちらのリリースには神山監督のコメントも掲載されている)。

Press Release "マスター映像のカラーバンディングを低減する"SBMV Extend"をBDエンコードに採用"(091026)

以下の記事には、神山監督への直接インタビューもあった。

ソニーの新技術「SBMV Extend」で更に美しく進化した「攻殻機動隊S.A.C」シリーズを観る (1/3) - Phile-web

ちなみに、ディスプレイと再生機器をHDMI接続している場合、お互いの機器が正しく設定されていないと、そもそもまともな色が表現されないことがある。それについては4Gamer.netの以下の記事が参考になるので参照されたい。

4Gamer.net ― 【西川善司】HDMI接続,最後の手段

PS3でもスムージング技術が使えれば……

惜しむらくは、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX BD-BOX (1st GIG)』にこの"SBMV Extend"技術が間に合わなかったことである。そのため旧来のBDプレイヤーで『1st』のBDを再生すると、先に書いたとおりカラーバンディングが発生している箇所が見られる(特に「カラーバンディングはなんぞや」という話をたっぷり聞かされた今なら余計に気になる)。先に書いたように、最新レコーダーの「BDZ-EX200」でスムージング機能をONにして再生すればカラーバンディングは消えて見られるわけだが、レコーダーなんてそう簡単に買い換えられない。そこで「PS3の将来のアップデートで、スムージング機能を搭載してくれないかな~」などと思ってしまうわけで、その可能性をソニーの方々に聞いてみた。けれどもさすがにソニーはソニーでも会社が違う(PS3の担当者の方がいなかった)こともあり、返事は貰えなかった。PS3のAV能力はどんどん進化を繰り返しているため、どうしても期待してしまうのだが……。

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全巻購入特典をBD Liveで配信するのはいいのか悪いのか?

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX BD-BOX』『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG BD-BOX』の仕様としてもう一つ気になるのは、「全BOX購入者には、BD Liveで追加オーディオコメンタリーをダウンロード配信」というものである。正直なところ、私はこの特典には疑問を感じていた。まず1つに、オーディオコメンタリーは本編BDにそのままつければいいと思ったからである。『攻殻S.A.C.』はとっくに放送が終わっている作品だから「ネタバレありのコメンタリーを入れたいので、後から配信します」などと配慮する必要もない。それに、まさか「オーディオコメンタリーの収録が間に合わないので、後からの配信にします」というわけでもない(ちなみに『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』のBDは劇場舞台挨拶をBD Liveでネット配信したが、これはBDの発売日が早く、BDへの舞台挨拶映像収録が間に合わなかったからだそうである)。
この「なぜオーディオコメンタリーをBD Liveで配信するのか」という疑問点をバンダイビジュアルの杉山氏にぶつけてみたら、『攻殻』のBD Live特典はあくまで「全BOX購入者へのサービスとして提供するものだから」ということである。
杉山氏は「ダウンロード配信の実現により、特典応募の手間が軽減され、送料等にかかっていたコストが大幅に削減できた。その分、特典そのものにコストがかけられる」というメリットを語っていた。今まで、DVDなどの全巻購入特典といえば、各巻の応募券をハガキに貼るなどして投函し、応募する必要があった。更に場合によっては、特典の送料を応募者が負担しなければならなかった。だが『攻殻S.A.C.』BD-BOXでは、ネットに繋げさえすれば全巻購入特典を手に入れられるというわけである。「それでもやっぱり、形として残るものが手元に欲しい」という人もいるだろうが……。
また、私の『攻殻S.A.C.』BD Live特典についてのさらなる疑問点「ダウンロード期間が限定されている」ということについてだが、やはりダウンロードサーバを永久に維持してダウンロード可能を保証するというわけにもいかないので、期間をつけさせてもらったとのこと。そのダウンロード可能期間が2010年6月30日までというのが長いか短いかは、また意見が分かれるところだろう(ただ、一度ダウンロードしてプレイヤーのHDDに保存しておけば、2010年6月30日以降も再生可能である)。
ともあれBD Liveをどう活用していくかは、まだまだ模索中というところもあるのだろう。帯域や容量との勝負にもなってくると思うが、今後より多彩なオンライン特典が登場することを期待したい。

『攻殻』がらみの話は一旦終わるが、特別企画は「アニメ作品のBD化技術についても色々聞いてみよう」に続く。