『青の6号』BD化の技術を取材してきた その2 前田真宏監督インタビュー

『青の6号』BD化の技術を取材してきた その1からの続き。

前田真宏監督インタビュー 改めて高画質で『青の6号』を見て

映像を見せてもらったあと、アップコンバート作業に立ち会われていた、『青の6号』監督の前田真宏氏に話を伺った。

―1998年に公開された自分の作品を、改めて高画質で見返しての印象は?

前田 ぶっちゃけると、「色々やばいな」と思いましたね(笑)。正直なところ、CGIなど映像技術的な点は「しょうがない」という部分もあります。当時の技術で、僕らは誠実にやれるだけのことをやったという自信がありますし、その上で「できたのはこれです、すいません」という感じなんですが(笑)。そうじゃなくて自分自身の演出を見て「キャラがしゃべりすぎだよ」とか「しゃべるべきところをしゃべってない」とか「音楽入りすぎだよ」とか、監督としての自分の技量がやばいと思いましたね(笑)。『青の6号』は自分にとって初めての長編作品なので、凄く気も張っていたんだと思います。「ああしたい、こうしたい」とぎゅうぎゅうに詰め込んだので思い入れも強いんですが、反面反省点も多く「もう少しお客さんにわかりやすいい感じにしたほうが」とか「せっかく潜水艦ものなんだから」とか「キャラをこう設定したのであれば心情とかもうちょっと上手に表現したほうがいいんじゃないの? お前はさぁ」と、過去の自分に対して思いますね(笑)。
今思うと僕は『青の6号』の前に『YAMATO2520』という作品に関わって「新しいヤマトを作りたい」と思っていたけどうまくいなかったというわだかまりがあり、その結果『青の6号』で「こうしたい」という欲が強く出た気がします。
杉山
でも『YAMATO2520』も『青の6号』も、有名な原作を新しいデザインにして作ったというところは似ていますよね。
前田 ですね。有名な原作を新しいデザインにして、新しい入れ物に入れて作りたいと入れ込んでいたんですけど、「オレ流に、こんなことやあんなことをしたらカッコいいのに」とぎゅうぎゅう入れようとしてエゴが先立っちゃっているかなと反省はあります。反面、このように凄い綺麗な映像に整えていただいて、客観的に見ることができたのは良かったですね。何年かぶりに見たため、嫌なところも見える反面「自分はこういうことを考えて作っていたんだ」と感じ、感じ自分の作品じゃなくお客さんのように見ていました。その点は面白かったですね。

―制作当時、無意識だった自分の考えに気がついたという感じですか?
前田 そうですね。「随分生真面目だったなあ」と(笑)。それは若さ故の生真面目さでもあるんですが、どこかピュアな自分の気持ちに繋がっていたんだなと思いました。この作品は、1巻目のリリースが1998年だったんですが、世紀末の不穏な空気の中で作られたわけです。この少し前(1990~1991年)に湾岸戦争があって、一見丸く収まるように見えたけど次の火種が仕込まれていて、21世紀になった途端「戦争の世紀」と言われ、「色んなことがぐるぐるまわっている世の中で何を作ったらいいのか」という、自分の中の心の振れや不安が、こういう作品を作らせたのかなと感じさせました。「大げさな話にしちゃったなあ」と思いましたね(笑)。当時は「こんなのでいいのか」とか色んな人に怒られましたが(笑)、「こういうのを作りたい」と、当時の自分の力で正直に作った作品でもあるし、プロデューサーさんやメーカーさんのご理解もあって、自由に作らせてもらった幸せな作品だと思います。見返して、懐かしいと同時に恥ずかしい気持ちになりました(笑)。

―『青の6号』はデジタル最初期の作品ですが、当時と今のアニメ制作環境では特にどの点に違いを感じますか?
前田 ぱっと見で、やはりCGIの進歩は大きいと思います。今回映像をクリアにしていただいたお陰で、色々と目の前に突きつけられました(笑)。今、自分が関わっている仕事と比べると「随分遠くにきたんだな」と思います。今は当時よりもずっと踏み込んだことができるようになっているわけですね。ソフトウェア、ハードウェアの進歩ももちろんですし、作る人のセンスも「こうするとこういう答えが出る」というように経験が蓄積されていますから。色んなアニメや映画をご覧になったらよく感じられると思いますが、この分野は本当に進歩が早いと思います。

―視聴者が、画面を見て気がつきにくい面での大きな変化といったら何になりますか?
前田 そうですね……エフェクトも変わりましたしね。エフェクトの進歩は凄いです。今、僕の近くにいる、実写系の仕事もやっている人たちの作業を見ていると「こんなの作れちゃうんだ」と本当に思いますね。『青6』では波とか嵐の海面とか、海の上での爆炎に苦労しましたけど、「今はこんなにリアルなのが作れるんだ」と。カメラをシェイクさせてハンドカメラの揺れを再現とか、実写と見紛うばかりですよね。プラグインを使って調整しながらさくさく作っているのを見ると、凄く遠くに来た感じがします。
『青6』を見ていただけるとわかりますが、1話2話3話と進むうちに、煙や爆発などがだんだん進化しているんですね。当時CGディレクターを担当してくれた鈴木(朗)さんがずっと研究して「新しいプラグインが出たから使ってみる」とか「こういうやり方をしたらもっと本物っぽく見える」と工夫してくれていました。だから話が進むうちにだんだん進化しているんですけど、それに比べても今ではエフェクト系は凄く変わりましたね。
あとキャラクターも変わりました。もともと、制作する作品に『青6』という潜水艦ものをチョイスしたのは、「潜水艦と潜水艦の外は水中なので基本的にCGになる。逆に艦内では座劇、会話劇になるので、作画でやってもエアブラシなどを使ったレタッチによってイラスト的な質感を与えることで、CGとの違和感を埋められる」という見立てだったんです。僕が色々芝居を要求していく中で止まらなくなって、結局座劇にならずキャラが動いてしまっているんですが(笑)。ともあれ、今ならキャラをCGIで作ってやっていくということも夢ではない。演技を含んでかなりCGIでやれるような時代になっているところも凄く変わってきたなと思います。
杉山 『青6』のキャラクターの塗りについては色々実験しましたね。最初はCGゲームキャラの塗り方みたいに、グラデーションの影をつけるという話もありました。他にもトゥーンシェーディングとか、色々テストしてみたんですが、当時は納得のいく答えが出せなくて、キャラクターは手で描きましょうということになったんです。
前田 メカも大変でした。遠景用に作ったCGモデルはカメラを寄せるとディテールが荒くてもたないので、今だとアップ用の別CGモデルを用意するところなんですけど、『青6』の時は余裕がなかったので、手描きしてもらって特効(エアブラシ等)で仕上げるなどしていました(笑)。レンダリングに使えるメモリの容量も限られていましたし、前日セットアップしてレンダリング処理させて帰ったら、翌日にハングアップしていたということもありましたね(笑)。
劇中に出てくるグランパス(変形する小型潜水艇)にしても、「分離した部分が潜水パワードスーツになって動く」というコンセプトは作れるけど、合体分離のシーケンスという、本当ならメカ好きな人が一番みたい場面を様々な制約からCGで作ることができないんです。特にグランパスのシーンはいっしょに人間が映っていますからね。ですから最初、潜水艦から分離する場面はCGIだったのに、パワードスーツになった途端に必死に作画した絵になっていて、今見ると「うーん」と思ってしまいますよね(笑)。

―当時は、変形合体するロボットをCGでやるなんてとても考えられませんでしたね。
前田トランスフォーマー』なんて夢のまた夢でした。あれを見たときは「なんじゃこりゃー!」と口あんぐりでしたね(笑)。
杉山 そういえば、台湾軍の隊員募集の動画、見ました?

前田 ええ、見ました。「かっこいいなあ、俺は(台湾軍には)入らないけど」と(笑)。ああいう映像ができるようになっちゃったんです、作り続ければできるものなんですね。

―今から『青の6号』を見る人に、注目して欲しい点などはどこでしょう?
前田 今回、BOXとして発売されますので、全部通して見てほしいです。特に1話、2話は自分の演出の「まずー」な感じをお客さんに押しつけるようで申し訳ないですが(笑)、全体としてひとつの物語として作ったので全話を通して、孤独ではぐれた男がどこに帰還するのか、何を失うのかというお話を見てほしいです。当時の自分なりに頑張って本気になって作った作品ですから。

―このように、古い作品を新たに美しい形で見てもらえるのはやはり嬉しいでしょうね。
前田 嬉しいですね。その一方で、今まで見えなかったミスが見えてくるというドキドキもあります。「あーっ! 途中で画像素材が切れているのがばれてるぅ~! らめぇ~!(本人発言ママ)」みたいな(笑)。制作当時OKを出したカットなのに、マスクが途中で切れていることが今回初めてわかってしまって「うわぁ~!」でした(笑)。でもそういうところはキュー・テックさんの職人技できっちり直していただきましたので、安心して見てください。本当に頭が下がります(笑)。

『青の6号』BD化の技術を取材してきた その3 痛戦闘機のどうでもいい話から「SDデジタルアニメの福音」の話までへ続く。