ライアンはダーリング大統領の要請により、『一時的に』彼の副大統領になる事を引き受けた。だがその就任式が始まり、議会議事堂にライアンが入場しようとしたその時、たった一機の日航機が議会議事堂に突き刺さった…。
こうしてアメリカ合衆国は大統領、閣僚の大半、各省の長官の大半、最高裁判事全員、統合参謀本部の軍人、上下院の議員の大半が死亡するという、建国以来最大の危機を迎える事になる。
そしてほんの数分間副大統領だったジャック・ライアンは大統領となり、行われるはずだった副大統領の宣誓式の代わりに、大統領の就任の宣誓が行われたのである。
ジョージ・ワシントン以来誰も引き受けた事の無い任務を受ける事になったライアン。そしてそのころ中東では、最大の敵アメリカが弱体化した今、遂に全イスラム国家統一の野望を実現しようと、イランの最高指導者ダリアイが世界に放っていた仕掛けを動かし始めた。
『貴方は合衆国大統領になってしまった。さて、一体どうする?』
前作『名誉の負債(日米開戦)』を読み終えたとき、多くの人々は『これでライアンシリーズは終わりだ、これ以上シリーズが続いても駄作になるだけだ。もう続けないでほしい』と思った事だろう(そう思った人間の中に私も含まれていた)。
大体あんな目茶苦茶な状態にしておいてどう物語を続けるというのだろう。大統領という色々な事に雁字搦めに縛られた人物を主人公にして、エキサイティングな話が書けるというのだろうか。多くの人はそう思った事だろう(私も含まれていた)。
だが、この『大統領命令(合衆国崩壊)』は、名誉の負債の続編として登場した。私は『名誉の負債』を読み終えた直後に、札幌の書店の洋書のコーナーで"EXECUTIVE
ORDERS"というタイトルの、ヴィデオ付きのハードカバーを見つけており、この本の存在を知っていた。私の英語力ではそのヴィデオの内容が何なのかとか、どういったストーリーなのかという事は全然分からなかったが、辛うじてDEBT
OF HONORの続編らしいという事は分かった。
一体あの状態からどうやって物語を構築しているというのか?
興味が出てきた反面不安にもなった。良くある「ただ続けているだけ」という作品になってはいないのか?
だがこの本はそういった不安をものの見事に消し飛ばしてくれた。アメリカ合衆国大統領という、世界でただ一人だけに許される職業を、クランシーは見事に、そしてエキサイティングに描いているのである。
勿論物語はそれだけではない。中国は台湾海峡で不穏な動きを見せる。インドは相変わらずスリランカを狙っている。イラクでは大統領が暗殺された。国内外からテロリストがライアンを標的として動き出した。元副大統領はホワイトハウスに舞い戻る計画を立てた。そしてイランは最悪の生物兵器を手に入れた…。
アメリカ合衆国大統領というのはどんな職業なのだろう。忙しく大変な職業であろうというのは誰にでも想像が付く。しかし政府が崩壊し、仮想敵国がアメリカを直接狙いはじめた場合は?
それが描かれているのがこの物語である。この作品では。多くの事象を発生させて見事に一つに集束させるという、いつもながらのクランシーの見事な手腕を見せ付けられた。例えば『エボラ・テロ』などと書いてあるとどうしても2流パニック映画を連想してしまいがちだが、クランシーは科学的、政治的に見事な考察を行ったリアリティ溢れるストーリーを披露してくれる。
著者 | トム・クランシー |
訳者 | 田村源二 |
出版社 | 新潮社 |
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