その後観客はヒルズの森タワーへ移動、一気に52階の展望フロアまで上昇する。そこで「朝まで文化祭」が行なわれた。会場は幾つかのエリアに区切られており、それぞれのエリアで時間ごとにイヴェントが行なわれる。色々な教室で時間ごとにイヴェントが行なわれる文化祭スタイルというわけだ。
会場では疲れた人々があちこちに座り、また飲食物の販売の所には列が出来ていて「ここは同人誌即売会の会場か」と思わせるような光景もしばしば。もっとも会場は本当に色々の種類の人がおり、私の想像以上に女性やカップルが多かった(開催者の目論見が成功したということだろう)。会場にはゴスロリ服から着物からオナベらしき人までとにかく様々。このイヴェントはイノセンス公開記念イヴェントとは銘打たれているものの、会場ではほとんどイノセンスと関係ないイヴェントも開催された。だが当然我々の興味は「押井守×川井憲次トークショー」にあるわけで、そちらのリポートを掲載する。今回は川井氏がいるということで音楽中心のトークショーという趣旨からか、まずトークショー開始前に二つの実験が行なわれた。
1発目 イノセンスのプロモーション映像に、紅い眼鏡のオープニングテーマを流してみるテスト
(意外と合う。イノセンスがアクション映画大作みたいに見える)
2発目 イノセンスのプロモーション映像に、思ひ出のベイブリッジ(*1)を流してみるテスト
(言うまでもなく……。昔の日活映画風? あの町は横浜だと問答無用で主張される)
それで「本日の実験……失敗」となったかどうかはともかく、それからトークショーが開始された。
押井「(何故紅い眼鏡の音楽に川井氏を起用したかについて)何故川井君だったかというと、ギャラが安かったからなんだけど(笑)。紅い眼鏡はとにかく予算がなくて、音響監督の斯波さんに『安く使えるけどうまい人がいるよ』と紹介して貰ったのが始まりです」
押井「(今回Follow Meを主題歌に使うことについて)僕は元々映画に主題歌を使うのは嫌いだったんですよ。うる星やつら
オンリー・ユーという映画で、歌を3曲使わされたんです。しかも『これこれを使いなさい』ということで曲も指定されて、自分が関与できない。それで歌を入れてみたら、そのシーンで完全にドラマが止まっちゃう。それ以来大嫌いになって、実写映画では僕も挿入歌を使ったこともあったんだけど、アニメでは絶対に使わないというようにしていたんです。そうしたら鈴木敏夫という男が『どうしても聞いて欲しい曲がある』といって僕を連れて行ったんですよ。あまりにもしつこいので仕方なくついて行って、『Follow
Me』を聞かせられたんですよね。その時に『おっ?』と思ったんですよ。これはいいかなと。僕の映画に欠落している部分をあの曲が補完してくれると思ったんです。しかしこれが鈴木敏夫のうまいやり方ですよね。CDを渡されただけでは絶対に僕は聞きませんでしたから。だけど、『使おうかな』と言うことを考えたときに頭を過ぎったのが、『川井君なんて言うかな』という事だったんです。今まで僕はずっと音楽は川井憲次オンリーでやってきたのに、それでこんな古典の名曲を今更使うということになったら、川井君怒っちゃうんじゃないかなと。それで僕から恐る恐る話してみたんだけど、なんて言ったんだっけ?」
川井「僕ですか? 『いいんじゃないすか?』ですね(笑)」
──プロモーションに流れているFollow Meと、本編に使われているFollow Meが違うことについて
川井「攻殻チックにしたいということで、(前作劇場版で使っていた)鈴と太鼓の音を入れたんです。入れたらどうなるのだろうか、本当に大丈夫なのだろうかという不安もあったんですが。この曲だけはアレンジは悩んで悩んで、本当にうまくいっているのかなと今でも思っているんですが」
──オルゴールの曲を、地下採掘場跡で収録したことについて(関連:「イノセンス」オルゴール録音大作戦!)
押井「今回オルゴールの音を使うことになって、実際にオルゴールを作ったんです。だけどオルゴールはでかい音が鳴らせないから、スタジオでオルゴールの音を録音したテープを、採石場の中でスピーカーから出して、それを10本以上立てたマイクで撮り直しました。その採石場がむちゃくちゃ寒かった。丁度12月真冬で、タイツを履いてポカロンを持って行ったんだけどそれでも寒くて、『なんでこんなことやらなきゃいけないんだ』という気がしてきたんですが。しかもそういうことをやるのが初めてだったので成功するという確証が無くて、『もしこれが失敗したら後始末どうしよう、お金
かけてるし人も呼んで作業しているのに』と川井君と相談してました(笑)。でも実際にやってみたらすごく良くて、目を閉じたら音が目に見えるような気がした
」
──河口湖というのが、イノセンスの音楽のひとつのキーワードになっているようだが
川井「河口湖のスタジオにはトラックダウンしに行ったんですが、そこに可愛い犬がいたというだけです(笑)」
押井「アチャという犬で、ロビーに行くと寝て待ってるんです。宴会が始まるという雰囲気を感じると、先頭に立って部屋に案内してくれる(笑)。河口湖に行ってその子に会うのを楽しみにしています」」
──今回、特殊な楽器が使われたそうだが
押井「前作でも、素子がヘリで現場に急行する空撮のシーンでソロで鳴っている楽器なんですけど、僕たちはシャミレレと呼んでいるんですが、本当は
──その幻の楽器をこの会場に持ってきて下さったそうですが?
川井「これです。『らんま1/2』の仕事の時、12,000円くらいで売っていたウクレレに三味線の弦を張っただけの代物なんで、だから『シャミレレ』なんですが(爆笑)」
押井「いや、目を閉じると音は秦琴にそっくりなんです(笑)。こんなおもちゃみたいなので同じ音を作ったといったら、学者の人が怒り出すというか泣いちゃうかも知れないけど(笑)。残酷ですけど、それが音楽ですね(笑)」
川井「僕がこれを弾いて音を録ったんですけど、前作では僕が弾いているときに、僕の服の衣擦れの音が入ってしまうというので、服を脱げといわれたんです。それで上半身裸になってやったんですが、まだ音がすると。それでズボンも脱いでパンツ一丁でやってました(笑)。映画だけ見た人の夢を壊すといけないので、ここだけの話にしておいて下さい(笑)」
さて、この押井×川井トークショーと同時に会場の別の場所では、鈴木敏夫×糸井重里トークショーが行なわれていた。当然ながらその二つを同時に聞くことは不可能で(押井オタを隔離する政策か?)、私も鈴木×糸井トークショーのリポートを紹介するのは不可能なわけだが(さすがに私でも分身の術は出来ない!)、そちらのトークショーの模様が書かれていたサイトを紹介しておく。
原註