野良犬の塒
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六本木ヒルズ 朝まで文化祭

2月13日に行なわれた「六本木ヒルズ 朝まで文化祭」について。例によって手早く上げることを優先したためほとんど校正をしておらず(しようにも仕事があるわ風邪で頭がふらつくわ)、例によって誤字だらけだと思うが。イノセンスは、丁度この日の昼に初号試写が行なわれたという事で(製作が遅れていたというよりは、ぎりぎりまでスタッフがクオリティ向上を目指していたと言うべきだろう)正に出来立てほやほや。そのフィルムを使って、まず2度の一般客への試写がヴァージンシネマズ六本木ヒルズで行なわれた。2度目の試写会の時には、押井氏も客席の隅の方に座り、観客と一緒に「イノセンス」を見ていたという。今まで100回以上も全ての台詞全てのカットを見ていたため、とても映画としてみられる状態ではなかったというが。

その後観客はヒルズの森タワーへ移動、一気に52階の展望フロアまで上昇する。そこで「朝まで文化祭」が行なわれた。会場は幾つかのエリアに区切られており、それぞれのエリアで時間ごとにイヴェントが行なわれる。色々な教室で時間ごとにイヴェントが行なわれる文化祭スタイルというわけだ。

会場で販売していた犬クッキーと、忘れ去られたように置かれていたバセットペーパークラフト(縫いぐるみはイヴェントとは何の関係もありません)会場では疲れた人々があちこちに座り、また飲食物の販売の所には列が出来ていて「ここは同人誌即売会の会場か」と思わせるような光景もしばしば。もっとも会場は本当に色々の種類の人がおり、私の想像以上に女性やカップルが多かった(開催者の目論見が成功したということだろう)。会場にはゴスロリ服から着物からオナベらしき人までとにかく様々。このイヴェントはイノセンス公開記念イヴェントとは銘打たれているものの、会場ではほとんどイノセンスと関係ないイヴェントも開催された。だが当然我々の興味は「押井守×川井憲次トークショー」にあるわけで、そちらのリポートを掲載する。今回は川井氏がいるということで音楽中心のトークショーという趣旨からか、まずトークショー開始前に二つの実験が行なわれた。

1発目 イノセンスのプロモーション映像に、紅い眼鏡のオープニングテーマを流してみるテスト
(意外と合う。イノセンスがアクション映画大作みたいに見える)

2発目 イノセンスのプロモーション映像に、思ひ出のベイブリッジ(*1)を流してみるテスト
(言うまでもなく……。昔の日活映画風? あの町は横浜だと問答無用で主張される)

それで「本日の実験……失敗」となったかどうかはともかく、それからトークショーが開始された。
押井「(何故紅い眼鏡の音楽に川井氏を起用したかについて)何故川井君だったかというと、ギャラが安かったからなんだけど(笑)。紅い眼鏡はとにかく予算がなくて、音響監督の斯波さんに『安く使えるけどうまい人がいるよ』と紹介して貰ったのが始まりです」
押井「(今回Follow Meを主題歌に使うことについて)僕は元々映画に主題歌を使うのは嫌いだったんですよ。うる星やつら オンリー・ユーという映画で、歌を3曲使わされたんです。しかも『これこれを使いなさい』ということで曲も指定されて、自分が関与できない。それで歌を入れてみたら、そのシーンで完全にドラマが止まっちゃう。それ以来大嫌いになって、実写映画では僕も挿入歌を使ったこともあったんだけど、アニメでは絶対に使わないというようにしていたんです。そうしたら鈴木敏夫という男が『どうしても聞いて欲しい曲がある』といって僕を連れて行ったんですよ。あまりにもしつこいので仕方なくついて行って、『Follow Me』を聞かせられたんですよね。その時に『おっ?』と思ったんですよ。これはいいかなと。僕の映画に欠落している部分をあの曲が補完してくれると思ったんです。しかしこれが鈴木敏夫のうまいやり方ですよね。CDを渡されただけでは絶対に僕は聞きませんでしたから。だけど、『使おうかな』と言うことを考えたときに頭を過ぎったのが、『川井君なんて言うかな』という事だったんです。今まで僕はずっと音楽は川井憲次オンリーでやってきたのに、それでこんな古典の名曲を今更使うということになったら、川井君怒っちゃうんじゃないかなと。それで僕から恐る恐る話してみたんだけど、なんて言ったんだっけ?」
川井「僕ですか? 『いいんじゃないすか?』ですね(笑)」
──プロモーションに流れているFollow Meと、本編に使われているFollow Meが違うことについて
川井「攻殻チックにしたいということで、(前作劇場版で使っていた)鈴と太鼓の音を入れたんです。入れたらどうなるのだろうか、本当に大丈夫なのだろうかという不安もあったんですが。この曲だけはアレンジは悩んで悩んで、本当にうまくいっているのかなと今でも思っているんですが」
──オルゴールの曲を、地下採掘場跡で収録したことについて(関連:「イノセンス」オルゴール録音大作戦!
押井「今回オルゴールの音を使うことになって、実際にオルゴールを作ったんです。だけどオルゴールはでかい音が鳴らせないから、スタジオでオルゴールの音を録音したテープを、採石場の中でスピーカーから出して、それを10本以上立てたマイクで撮り直しました。その採石場がむちゃくちゃ寒かった。丁度12月真冬で、タイツを履いてポカロンを持って行ったんだけどそれでも寒くて、『なんでこんなことやらなきゃいけないんだ』という気がしてきたんですが。しかもそういうことをやるのが初めてだったので成功するという確証が無くて、『もしこれが失敗したら後始末どうしよう、お金 かけてるし人も呼んで作業しているのに』と川井君と相談してました(笑)。でも実際にやってみたらすごく良くて、目を閉じたら音が目に見えるような気がした 」
──河口湖というのが、イノセンスの音楽のひとつのキーワードになっているようだが
川井「河口湖のスタジオにはトラックダウンしに行ったんですが、そこに可愛い犬がいたというだけです(笑)」
押井「アチャという犬で、ロビーに行くと寝て待ってるんです。宴会が始まるという雰囲気を感じると、先頭に立って部屋に案内してくれる(笑)。河口湖に行ってその子に会うのを楽しみにしています」」
──今回、特殊な楽器が使われたそうだが
押井「前作でも、素子がヘリで現場に急行する空撮のシーンでソロで鳴っている楽器なんですけど、僕たちはシャミレレと呼んでいるんですが、本当は秦琴しんきんという楽器です。中国の古代楽器で、中国の秦の時代にあったという伝説の楽器です。楽器自体が現存していなくて、学者さんが資料をもとに再現したそうです。僕は個人的にそのCDを3枚持っているんですが、今回どうしてもその音を使いたくなったんです」
──その幻の楽器をこの会場に持ってきて下さったそうですが?
川井「これです。『らんま1/2』の仕事の時、12,000円くらいで売っていたウクレレに三味線の弦を張っただけの代物なんで、だから『シャミレレ』なんですが(爆笑)」
押井「いや、目を閉じると音は秦琴にそっくりなんです(笑)。こんなおもちゃみたいなので同じ音を作ったといったら、学者の人が怒り出すというか泣いちゃうかも知れないけど(笑)。残酷ですけど、それが音楽ですね(笑)」
川井「僕がこれを弾いて音を録ったんですけど、前作では僕が弾いているときに、僕の服の衣擦れの音が入ってしまうというので、服を脱げといわれたんです。それで上半身裸になってやったんですが、まだ音がすると。それでズボンも脱いでパンツ一丁でやってました(笑)。映画だけ見た人の夢を壊すといけないので、ここだけの話にしておいて下さい(笑)」

それから、観客からの質問コーナーになったのだが、そこで「ガブリエル(押井氏の愛犬)の容態はどうですか」という質問があった。(以前DogWorldという雑誌に、ガブリエルがヘルニアを患って歩けなくなり、そのため押井家は2階建ての現在の家から平屋へ引っ越すという話が掲載されていた)
押井「去年の春先、ガブの腰が抜けちゃったんです、下半身が麻痺してしまって。バセットハウンドという犬特有の病気で、背骨が自分の体重で歪んでしまうんですね。下半身が麻痺してしまって、僕も心配で東京で仕事どころではなくなって、熱海の家に飛んで返りました。それで注射打ったりマッサージしたりしたんですけど『もう治らない』と言われて、犬用の車椅子を注文したりして大騒ぎだったんです。でも病気から3週間して車椅子が丁度届いた頃に、ガブが突然立ち上がったんです。未だによれよれ歩いていて、散歩にも行っていますよ。ガブの腰が抜けたままだったら映画は完成していなかったでしょう、僕も仕事どころではなくて監督首になっていただろうし(笑)。イノセンスに絡んで、ガブに撮影依頼がたくさん来たんですけど、休ませたかったので撮影は全てお断わりして、もう歳なんですが、現在は和やかな日々を熱海で過ごしてます。ガブのお陰でこの映画が出来ました、親孝行な子です。今回の映画で良かったことのひとつは、効果音で(バトーの飼い犬の)バセットの鳴き声や爪音を完璧に再現できたことですね。今回音はスカイウォーカーサウンドで録ったんですがそこがたまたま改装工事中で、工事業者が飼っていたバセットがいたんです。そのバセットの色んな音を録って編集して使いました。世界で初めてバセットの音響を完璧に再現した映画になりましたね。作画のほうも、バセットの仕草などを見事に再現しているし、バセットの音と動きに関しては世界一の映画という絶対の自信があります。『だから何だ』と言われたらそれまでですが(笑)。スタッフロールに"Ruby"と出ているのはその犬の名前です。写真も撮ってきたから、そのうち何かに載ると思いますよ」
次の質問、「劇中のコーラスはブルガリア合唱団のように聞こえるが、どうして民謡歌手で録ったのか」
川井「前作の音楽を作っているとき、まず太鼓の音を使うというのは決まっていたんです。だけど押井さんがそれにコーラスを乗せたいというので、僕が思いつきで『ブルガリアンボイスなんてどうでしょう』と言ったんですよ。そうしたら格好良いかなと。だけど調べてみたらブルガリア合唱団の人はプロの歌手ではなく、こちらから用意した譜面に従って歌って貰うというスタジオミュージシャンみたいな事は出来ないという話になって、じゃあどうしようということになったんです。それで『ブルガリアンボイスと日本民謡の 発声って似ているな』と思ったんです。それで『ガルキーバ音頭』というのを作るときに付き合っていた民謡歌手の人達を呼んでデモテープを作ってみたら、それが非常に良かったんです。『イノセンス』でもその人達にお願いしました。前回は3人の声を重ねて多く見せかけていたんですけど、今回は73人の声を4回重ねて録っています」
最後の質問「ゴーストとは一体なんですか?」
押井「原作者の士郎正宗さんの考えているゴーストと、僕の考えている僕のゴーストは違うと思います。僕が考えているのは魂とかspiritとは別のものですね。ゴーストとはあるといえばあるもので、UFOみたいなものですね。川井君とか川井君のスタジオの人はよくUFOを見るそうですが、僕は一度も見たことはない。音楽やる人は頻繁にUFOを見るみたいですが、それはUFOを必要とする人だからなんでしょうね。僕はUFOを必要としないから見ない。あってもなくてもいいけど、ある種の人にとっては絶対に必要で、精神とか魂とは違う、だからゴーストですね。証明できないところがみそです。別に科学的に言っているわけではないですよ。人間も昔は魂があったけどとっくに無くなっている気がする。人が言葉を覚えたときに、魂もゴーストもなくなったんじゃないかな。脳味噌とゴーストとは関係ないと思ってます。脳じゃなくても、失われたバトーの右手とかにもあるかもしれない。わかんないでしょ? 実は僕にもよくわかんないですし。要するに、自分が自分であることの最終的な根拠ですね。この映画を見て『凄かったけど、よく分かんない』とい思ってくれたら、やったと思いますね。映画館でもDVDででも何回でも見て下さい、そうすれば僕やガブの老後が安泰になりますので(笑)」

さて、この押井×川井トークショーと同時に会場の別の場所では、鈴木敏夫×糸井重里トークショーが行なわれていた。当然ながらその二つを同時に聞くことは不可能で(押井オタを隔離する政策か?)、私も鈴木×糸井トークショーのリポートを紹介するのは不可能なわけだが(さすがに私でも分身の術は出来ない!)、そちらのトークショーの模様が書かれていたサイトを紹介しておく。

ほぼ日刊イトイ新聞 - 六本木ヒルズ朝まで文化祭

原註

  1. パトレイバー2で、荒川が持ってきたヴィデオテープに収録されていたカラオケの曲。CDも発売されている。

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