とにかく凄い映画を見たので紹介したい。その名は『マレーナ』。
時は第二次世界大戦開戦直後のイタリア・シチリア島。ムッソリーニが、イギリス・フランスに対しての宣戦布告を告げるラジオ放送が流れ、シチリア島の人々が歓喜している頃であった。実際にはイタリア軍は連戦敗北となり、ギリシャに侵攻してはイギリス軍に撃退されてドイツ軍が尻拭い、アフリカに戦場を広げてはイギリス軍に撃退されてドイツ軍が尻拭い……というようにドイツの足を引っ張ることしかしていなかったのだがそれはこの映画の本題ではない。
シチリア島のある町に、マレーナという女性が住んでいた。とにかく美人でスタイルも良く、歩く姿はマリリン・モンローのごとくで(当時のイタリア人におけるモンローの知名度がどれくらいかは知らないが)、道ゆく男共の視線は釘付け。マレーナが道を歩いていると、とにかく全ての男共が彼女の方向を振り返り、視線誘導技術でも使っているのかというほどである。
少年レナートもそんな男共の一人だった。イタリアの学校制度がどうなっているか知らないが、中学生くらいの年齢だろう。思春期真っ盛りで性欲を持て余している彼は、同年代の子供と猥談に耽るようなお年頃だった。
ともあれレナートはマレーナに夢中で、マレーナが歩くところに先回りしては彼女を眺めていた。そしてこの映画では彼の股間が膨らむ様子がしっかりと描写されている。この町の他の男共も「マレーナはいいケツだ、やりてえ」と彼女に欲情し、一方女共は「マレーナはいけすかない、男と遊び歩いているんだ」と、マレーナの話ばかり。いくら戦時中とはいえこの町に他に娯楽はないのかというほど、マレーナの話しかしていないのである。
だがレナート君や、マレーナに見とれる町中の男共全員にとって不幸なことに、マレーナには旦那がいた。その旦那は軍人として戦争に行っていたのだが、だからといってレナート君は「この隙に!」とマレーナに話しかけるどころか手紙を書く勇気すらない。しかし諦めきれないレナート君はマレーナの後を追い回して彼女を眺め、彼女の家に覗き穴まで確保するなど、見事にストーカーと化していた。
そんな中、マレーナの旦那が戦死したという報が届く。町の人々によって葬儀が行なわれる中、マレーナは悲しみに暮れているため葬儀には出席できない。すると途端に人々は「今も男と遊び歩いているんだ」「すぐ新しい男を見つけるさ」と葬儀の最中に町の人々は噂話の大合唱。いつものように覗きにいったレナート君は、本当にマレーナが泣きふせっているのを目撃する。彼女の側に行き、そっと彼女の手を取って慰めたい……だがレナート君にそんな勇気はない。自分の妄想でマレーナを慰めるだけで、レナート君はただ覗きを続ける。
その後も町の人々は、この町は人口100人の集落かと思うほど、延々とマレーナの噂話を続ける。一方「僕が彼女を守ります」と(勝手に)誓ったレナート君は、 彼女の悪口を言う者の家の窓をこっそり石で割り、彼女の悪口を言う者の飲み物にこっそり唾を吐き、彼女の悪口を言う者のバッグにこっそり小便をし て、マレーナを守るため実にレヴェルの低い戦いを続ける。
その一方でレナート君、盗んできたマレーナの下着を頭にかぶってすやすやと至福の眠りを味わい、その様子を家族に見られて阿鼻叫喚。それにも懲りずレナート君は、マレーナのヌード姿を想像しては、盛大に自分のベッドを揺らして自慰にふけり家族から怒鳴られる。彼のズボンのポケットは、マレーナを覗きながら自分の股間をすぐ触れるようにいつも穴あき。マレーナを守る騎士のレナート君は、聖なる戦いにそれだけの報酬しか求めないのである。
一方マレーナは、あるイタリア軍中尉とつきあうようになっていた。マレーナの家に招待された中尉が帰ろうとしたところ、彼は「私はマレーナの婚約者だ!」と名乗る歯医者の男に殴りかかられる。だが今度は、その歯医者の妻だという女が現われて修羅場乱闘開始。歯医者の妻は本物であり、歯医者は勝手に「マレーナの婚約者」を名乗って中尉に殴りかかった色ボケであった。
ところが歯医者の妻が、マレーナを姦通の罪で訴えた。歯医者を誘惑して家庭崩壊に導こうとしたというのである。法廷には、マレーナのゴシップを至上の娯楽とする町の人々が大量に傍聴人としておしかけた。その中には勿論我らがレナート君もいる。
法廷で、判事からの男性関係についての質問とマレーナの回答があるたびに傍聴人からざわめきの声が。イタリア人は他人の性生活を覗き見るのがそんなに好きなのか。その法廷では、オペラ歌手のように腕を振り回し叫び上げ表情を変え、裁判官どころか傍聴人にまでアピールする弁護士が「彼女の唯一の罪は その美しさです!」とマレーナの無実を主張する。結局、中尉とは未亡人としての健全なおつきあいしかしていないし、歯医者との関係は事実無根だというマレーナの主張が通って彼女は無実に。だがこの騒ぎで中尉はアルバニアの僻地にとばされてしまっていた。
またも孤独になってしまったマレーナ。だが今度は、先の弁護士が弁護料のかわりにマレーナの体を要求。勿論レナート君はその様子も覗いていた。彼女が襲われようとしているところに、男らしく駆けつけてマレーナを助けるレナート君……ではもちろんない。一心不乱に覗こうとして木から落ち、怪我した足をひきずるのみであった。
そのまま弁護士はマレーナを我がものにしようと目論む。だが彼は、マレーナのことを
さてシチリア島は連合軍の爆撃を受けるようになっていたが、その爆撃でマレーナの父が死亡。生活が苦しい彼女は、シチリアに駐留するドイツ兵とつきあって助けを受けるようになり、更に自分の髪の毛を切って売る。ついでに短くなった髪も染めてみた。
すると更に町の男共は彼女にめろめろ。マレーナがタバコを口にくわえると、5~6人もの男が我先に彼女の煙草に火を付けようと駆け寄る有様である。一方町の女共は、彼女のことをあばずれだの売春婦だのとまたもや噂話。マレーナが、ドイツ兵相手に一日に何人もやっているという話を聞いた妄想力逞しいレナート君は、マレーナのくんずほぐれつの様を想像して気絶してしまった。
泣き叫ぶ母親によって教会に連れ込まれたレナート君は、神父に「悪魔がとりついている」と診断され、悪魔払いの儀式が敢行される。一方、レナート君のことを理解している彼の父親は「たまっているからだ、一発やらせてやればいいんだ」と、自分の息子を売春宿に連れ込んで一発やらせてやることに。マレーナによく似た売春婦を見つけたレナート君は、彼女に筆降ろししてもらって男になったのである。
さて、連合軍がシチリアに上陸した。シチリアでは、イギリス軍のモントゴメリーとアメリカ軍のパットンがそれぞれ、シチリア島北東のメッシーナ目指して猛烈な進軍レースを展開するのだが、それもこの映画の本題ではない。ともかく町に連合軍がやってくると、町の人々は拍手喝采で連合軍をお出迎え。かつて開戦に熱狂したイタリア人の変わり身の早さが示されている。一方マレーナは、ドイツ兵に協力したということで女共のリンチを受ける。フランスなどでは、ドイツ軍からの解放後に、ドイツ兵と寝たという女性が「対独協力者」「裏切り者」としてリンチされたという話が実際にあるが、イタリアで同じことがあったとは私は知らなかった。そもそもイタリア人にとってドイツ人は同盟国人ではなかったのか? まあ結局はもてない女のひがみであり、誰かが言っていた「女の嫉妬ほど恐ろしいものはない」ということの証明であろう。その恐ろしさの前に、男共は遠巻きに眺めるだけであった。
髪を刈られずたぼろにされ、もうこの町には住めないと悟ったマレーナ。彼女は電車に乗って去っていく。勿論レナート君は、マレーナを追いかけるどころか別れを告げることもできない。ただ小さくなっていく彼女の電車を見ているだけである。
マレーナがいなくなって心にぽっかり穴が空いたレナート君。彼女が好きだったのと同じレコードを海に投げ捨て(勿論彼女がそのレコードが好きなのは覗きで知った)、淡い(というにはあまりに生臭い)思い出と訣別を図る。だが、その後町に意外な人物がやってきた。何とマレーナの旦那である。彼は片手を失っていたが生きており、捕虜収容所から釈放されて終戦と共に町に戻ってきたのだ。
マレーナへの思いと訣別したはずのレナート君は、今度は旦那のストーキングを始める。旦那は勿論我が家へ帰ろうとするが、そこは既に空き家として避難民の溜まり場となっていた。旦那は近所の人々に妻の行方を尋ねるが、白々しく「知らないねぇ」と言われるのみ。しかも町の住民に嘲笑われ、殴られて倒れる始末。それを見ていたレナート君は旦那を助け起こす。ここで初めてレナート君、物語に関与。だがレナート君に、旦那と直接会話する勇気があるわけもなく、旦那に手紙を渡して逃げて行く。その手紙には「町の人々は奥さんを悪く言いますが、奥さんのことを覗き穴からずっと見てきた僕にはわかります。奥さんが本当に愛していたのはあなたです」と書かれており、更にマレーナが電車に乗って去ったことが書かれていた。それを見た旦那も電車に乗り、マレーナの後を追って去っていったのである。
やがて一年の時が流れた。世の中の
するとレナート君を含めた町の人々が仰天することが起こった。何とマレーナが、旦那と腕をしっかりと組んで町に戻ってきたのだ。するとレナート君、自分の彼女をほっぽってまたマレーナのストーカーに逆戻り。
市場に買い物に出てきたマレーナを、町の人々は「どういう神経なのだろう」と唖然として眺めているが、わざとらしくマレーナにサービスを始める。
市場からの帰り道、荷物を落としてしまったマレーナ。勿論その様子も覗いていたレナート君、マレーナに駆け寄って「手伝います」と声をかけた。レナート君、 生まれて初めてマレーナに声をかける。そして散らばった荷物を拾っているうちに、レナート君、生まれて初めてマレーナの手に触れる。だが我らがレナート君がマレーナそれ以上のことをする度胸もない。旦那と共に町に戻ってきて(一応は)平穏な暮らしを取り戻したマレーナに対し、レナート君の覗きの物語がこれ以上進展するはずもなかった。かくて映画も終了。
映画のコンセプトとしては、「青春時代の『憧れの女性』への思いというのを懐かしく描く」ということなのだろうが、イタリア人は全員、ガキの頃は猥談に覗き、大人になったらゴシップと浮気なのか? 戦争そっちのけでひたすら“町の美人”のゴシップに興じるシチリアのイタリア人。
イタリア人が戦争に勝てなかったわけが、この映画でよっくわかった。
ちなみにマレーナを演じたのは『マトリックス リローデッド』に出演したモニカ・ベルッチ。彼女はそんなに悪女用の女優なのかねえ。そういえば『パッション』にもマグダラのマリア役で出演していたが、マグダラのマリアも娼婦だったというじゃないか(聖人だけど)。
しま
この映画、深夜映画で観ました。録画してたんで、レナートくんの延々と続く覗き行為辺りは早送りで。○おろしも早送りで。
唯一、マレーナが、いつも一人で颯爽と(?)歩いていたのに、最後の最後で旦那さんと腕を組んで歩いていたときのみ、がくっ、とよろけたのが印象的でした。彼女が心を許して愛していた男性は、旦那さんだけだったんだなーと、そこだけが救いのような映画でした。
売春までした奥さんを追いかけて、また田舎世間デビューさせた男の度量といいますか、まーそれだけモニカ・ベルッチが魅力的だからか、そこはわかりませんが。
「コレリ大尉のマンドリン」という、スペイン出身のペネロペ・クルスの映画も、時代は一緒だと思いますが、勿論、興味はあるけど、未見です。登場人物が全員英語喋るらしいんで。
(当たり前か)吹き替えだと違和感ないのがいいですね。
「マトリックス・リローデッド」も未見ですが、悪女なんですか。モニカ姐さん。「アレックス」という○○シーンがあまりにもひどいという映画でも被害者らしいですが、そういうイメージの女優なんですかねぇ。
あれだけ女性から見てもバランスとれた健康的お色気なんですけどねえ。もったいないです。(何がもったいないのかはよくわからないですが。)
もるめねる
モニカ・ベルッチは、‘ミッション・クレオパトラ’(フランス映画)で、セザール/シーザー/カエサルにいつもぷりぷり怒っている女王様を演じていました。クレオパトラはやっぱり悪女のうちですか。
しま
悪女って、何をもって悪女ってラベル貼りするんでしょうね。
悪いことをした女性?男にとって都合の悪い女性。なわけないか。
「マレーナ」のヒロインは悪女ではないと思います。
マレーナも数年したらただのオバサンになっちゃって、魅力もなーんもなくなってたかもしれないし。ラスト市場でのおばちゃん達のサービス振りも、挨拶をきちんとしたので、彼女を「いっちょ仲間に入れるか」てカンジで対応を変えたのではと、私は思いました。
クレオパトラについては、エリザベス・テーラーのしか見てないですが、あれを見る限り、男運が悪かった可哀相な人と言う印象しかないですね。
フランス映画で、クレオパトラいつもぷりぷりだけだったんですか。なんだかもったいないですね。
あっそれから、もるめねるさんが、私ごときに問いかけたなんて、思い上がってないですから。
「マレーナ」は女優が美しいわりには話が覗きばっかりでがっくしきたんで、つい深入りしてしまいました。
ka
なにか暗喩してるのでしょうか?