ネットのエントロピーは常に増大する

エントロピー

〔entropy〕 物質の系の熱力学的状態を表わす量で、その系の乱雑さの度合。エントロピーが増大すると〔=物体の機械的利用価値が減ってエネルギーが熱に変わっていくと〕すべての現象は死滅に近づくと考えられている。

Shin Meikai Kokugo Dictionary, 5th edition (C) Sanseido Co., Ltd. 1972,1974,1981,1989,1997

本来の言葉は“宇宙のエントロピーは常に増大する”というものだが、これは宇宙は常に混沌・無秩序の方向に向かっている、というような意味である。

例えばガラスのコップがあったとする。このコップを作るのに必要とされるエネルギーは、コップを破壊するのに必要とされるエネルギーより常に多い。従って世の中は常に混沌・無秩序の方向へと進む。
ビッグバンは1つの“点”から始まったとされているが、その点は秩序が究極だった状態と考えられる。すべてのエネルギーがその一点に集約されていたからだ。だがそれから宇宙は膨張するに従い、秩序は次第に混沌へと向かった。混沌(ゆらぎ)があったからこそ、宇宙には星のある場所とない場所が作られ、そこに生物が生まれたわけだが、宇宙はさらに混沌の方向へ向かっていき、エネルギーも減少する一方。最後には宇宙には何も残らなくなってしまう……というような原則のことである。……確か。詳しいことはスティーヴン・ホーキングの本でも読まれたい。

エントロピーと宇宙の熱死
エントロピーの法則

で、これはネットにも言えるのではなかろうかという気が私はしている。ネットは常に膨張し続ける。だがそこに一定の“秩序”を与えることは不可能。何しろ管理者がいないからだ(甲殻機動隊などというネット上のすべての表記を一括置換するコマンドがあったら、と何度思ったことか!)。デッドリンクや間違った情報は常に増え続け、ネット上に残る。例えば特定の言葉について調べたいと考えたとしても、その言葉を含んだWebページは常に増え続けるが、勿論その中で有益な情報が含まれたページの割合は圧倒的に低い。それどころかspam、アダルトサイトによるロボット検索エンジンだましの増加は続き(参考 Wired News - ポルノサイト、ブログ乱立で検索ランクを押し上げ - Hotwired)、どーでもいいような内容のWebページも増え続ける(私自身もどーでもいい文章を書いている一人だが)。その結果、一つのページに有用な情報が存在する確率はどんどん下がり、必要な情報をWebで得られる確率も下がる。従って、“ネットのエントロピーは常に増大する”のだ(ここでのエントロピーとはあくまで“乱雑さ”の意味で使っているが、本当のエントロピーは熱量の意味を含む)。blogの流行と乱立は、このエントロピーの増加に多く寄与している気がする。

だが現在のところ、「必要な情報をWebで得ることは、昔に比べて難しくなった」とはなっていない。これはひとえに、Googleの偉大さの恩寵だろう。ページ一覧がずらっと出てきてもどのサイトに一番情報があるのかさっぱりわからないディレクトリ型検索や、サイトの中にどれだけ特定の単語があるかだけで判断してしまい、内容は全然考慮してくれない昔のロボット検索と違い、ページの“重要度”を決めて評価するというGoogleの誕生はまさに革命だった。
さて、さらに混沌が増え続けるネットが腐海の中に埋もれてしまうことを阻止できるかどうかは、検索エンジンがさらにどれだけ進化できるかということにかかっているのだろう。はたして検索エンジンはネットのカオスに勝てるのか?