GyaOでI.G大野大樹氏制作のアニメを公開中

WACOM プレスリリース デジタル・アニメーション制作に新しい試み 「Cintiq 21UX」の直感的な描画・操作で作業効率を向上

一般的にアニメーション制作は、静止原画の描き起こしから動画映像の編集までを多くの作業工程に分割し、それぞれ異なる担当者が行っていますが、この作品は試験的に「Cintiq 21UX」だけを使用した環境で、1人の制作者が制作したものです。

この作品は、大手アニメーション企画制作会社である株式会社プロダクション・アイジーの大野大樹氏が制作した「ヒトモドキ」で、「GyaO」のオリジナル・ショート・アニメーション・シアター「a-i-r」(エア)において10月6日より配信されています。

WACOMといえば黄瀬和哉氏が出演するCMが公開されていましたが。

さて、通常は鉛筆によって紙に描いているアニメ原画だが、タブレットを使用して直接描くことの利点が先のページには書かれている。だがここで触れられていない点がまだある気がする。

常々私は「アニメのDVDにフルHDは必要か?」と考えていた。Blu-ray版『イノセンス』『AIR』Blu-ray DVD-BOXなどの発売が予定されているほか、いくつかのアニメでBlu-rayもしくはHD-DVDでの発売が予告されている。また、BSディジタルや地上波ディジタルなどでの放送を前提として、マスターをHDで作成するTVシリーズアニメ作品も増えている。
だが、それ以前に一つの物理的限界があった。それは「どんなに画質が良くなろうが、所詮(CGではない)アニメは、アニメーターが紙の上に鉛筆で書いているものであり、紙の大きさの限界や鉛筆の細さの限界という物理的制約を受ける」という点である。つまり、画質が良くなっても、「線の、鉛筆で描いたための粗が見えるだけ」になる可能性があるのだ。以前私は、IMAXシアターで『イノセンス』を見たことがあったが、その時にもこの「鉛筆で描いた線が判ってしまった」というのを経験している。『イノセンス』のように、TV用サイズよりも大きな、劇場用サイズの原画用紙の上で作画したアニメですら、だ(ただし『イノセンス』はCGの解像度が高いので、HDで見る価値は十分あると思う)。

最近のTVシリーズアニメは16:9のワイドサイズで制作されることが多いが、その時も「通常のTV用の原画用紙の、上下を切っただけ」というケースが多い(以前に聞いた話。最近はどうだろう?)。つまりその場合は、従来のアニメよりも小さいサイズの紙の上に描いた絵を、HDに引き延ばしているという本末転倒なことをやっているということになる。そうなると当然、余計に「鉛筆の線の粗」が見えてくるだろう。また、単純に「細かいところまで見たくなるほど密度の高い絵を描いているのか?」という問題もあるし、さらに背景については現在も筆で描くケースがほとんどなのだから、余計に粗が見えてくる。
そもそも、現行のDVDは次世代DVDプレイヤーでも再生できる。つまりLDからDVDに移行したときのように「もうLDを再生できるハードがないから、ソフトもDVDに買い換えよう」という需要は見込めない。今後「一度DVDで出したアニメを、Blu-ray(もしくはHD-DVD)で再販する」というケースが増えてくると思うが、そのうちのどれだけがHD画質に堪えうるものか……(あるいはHD画質はおまけにすぎず、新規映像特典などによって買い換え需要を引き出そうというのか?)。

もちろん次世代DVDの売りは解像度の高さだけではない。最近のアニメはフィルタ処理を多用しているが、発色の良さという次世代DVDのメリットは、その点においては存分に生かされるのではないかと思う。また、高ビットレートで保存できるからノイズが少なくなるという点もあるだろう。だが、そこまでいくと話が複雑になるし、当初の話題から逸れるので省かせて貰う。

解像度と線の話に戻ろう。「HD画質に堪えるため、でかい紙に絵を描く」といっても簡単にはできない。そうすると当然作業量(=コスト)が上がるし、「アニメーターの机の大きさ」という物理的限界がやはり邪魔をする。そこで最初の話、「タブレット上で描いてすべてをディジタルデータとして扱う」ことをすれば、この「鉛筆の線の荒さ」という問題が解決できるのかもしれない。また、原画をベクトルデータとして扱うことができれば、以前より拡大縮小にも強い原画にすることができるかもしれない(ベクトルデータにしたからといって単純に拡大縮小しても大丈夫になるわけではないが、こちらの話も省かせて貰う)。

さて、長々と憶測を書いたが、セルの色塗りの現場から絵の具と筆が消えたように、またアニメの撮影監督が、従来の撮影台の前から姿を消して、現在ディスプレイの前に座っているように、ついにアニメーターも、鉛筆をタブレットペンに持ち替える時期が近づいているのではないかと思う。