本日より開催された東京国際アニメフェアにて、『宮本武蔵-双剣に馳せる夢-』製作発表会が行われた。ステージには原案・脚本の押井守、監督の西久保瑞穂、プロダクションI.G代表取締役の石川光久、主題歌を歌う泉谷しげるが出席。以下に、ステージでのトークの内容を紹介する。
ほとんどまとめないで掲載したので多少読み辛いかも知れないがご了承願いたい。
―この企画が立ち上がっていった経緯を話して頂けますか?
石川「この作品は、ジョージ・ルーカスの音響スタジオの、スカイウォーカー・ランチに2年前に音響作業で行ったときにですね、押井さんが『超大作の映画を作りたい』『これでお金を儲けたい、儲けるんだ』と(笑)深夜朝方まで延々と語ったときにですね、この宮本武蔵というのは出ていなかったんですね(笑)。出なくて翌日、スカイウォーカー・ランチのスタジオに車で移動するとき、『宮本武蔵の五輪書をやりたい』と言ったのが、この企画の決定された流れなんです。だから押井さんが10時間話したことよりも、車の中で話した10秒で決まった企画で、当たる企画とはこういうものかなと思いますね」
―10時間の間に話された「お金を儲けたい」以外の内容は?
石川「それはこの場ではちょっと言いづらいんですが(笑)、それを含めて『宮本武蔵』に全部注入してくれたと聞いています」
―今ちょっとした宮本武蔵ブームですが、なぜ五輪書を題材に選ばれたんですか?
押井「武蔵は昔から好きだったんですよ。宮本武蔵を知っている人は沢山いるけど、吉川英治の『宮本武蔵』を、はたしてどれだけの人間が読んでいるのか。若い人は1割にも満たないと思う。吉川英治の書いたものがどこまで本当なのか、個人的に色々調べたり読んだりしているうちに、今言われている武蔵の話はほとんどが嘘なんだとわかったんです。本当の宮本武蔵をやってみたい、五輪書にしても、ちゃんと読んでいる人はほとんどいないはずだから。読んでいたら『バガボンド』もああいうものになるはずがない(笑)」
―五輪書を個人的に読まれていたんですか?
押井「好きで読んだんですけど、元々武蔵という人間に興味があって。武蔵が左利きだったとか、生涯妻帯しなかったとか、書画としても名が残っているとか、誰かに似ていると思うんです。女嫌い、左利き、万能の天才、ダ・ヴィンチだよ。武蔵というのは、日本のダ・ヴィンチみたいな人間だった。今でいう土木工学とか、建築にも詳しかったし、絵も描いたし彫刻もやったし。ただの剣術家じゃなかった、本人もそう書いているんだから。それが日本人で、かつて存在したダ・ヴィンチみたいな天才なんです。日本人というのは一つのことを極めるのを大事だと思っていて、万能人というのは日本ではあまり尊敬されない。たとえば監督でもアニメ一筋とか動画一筋でやる宮さんみたいな人は尊敬されるけど、僕みたいに、アニメもやれば実写もやれば舞台もやれば小説も書くという人間は尊敬というか尊重されない(笑)。でも宮本武蔵は万能人だった。日本には万能人が尊敬される時代もあった。そういう時代背景の中で、今の日本人には考えられないような話をしたかった。
武蔵は、みんな映画のイメージで長い刀を持っていると思っているけど、実際には小刀使いだった。なぜあれが出てきたのかとかと調べたらぼろぼろ面白い話が出てくるので、やってみたいと思ってた。
さっき石川が『車の中で言った』というのは嘘で(笑)全部日本で考えた。『儲かる映画を作ろう』という話なんて一度もしてない(笑)。武蔵の映画をやるんだったら、本当の武蔵をやりたい。吉川英治でもなければ『バガボンド』でもない。
武蔵は本物の天才であると同時に、ずっと浪人だった。ずっと就職しなかった、仕官していなかった。元々五輪書という書物、マニュアルなんだけど、それ自体就職のため、プレゼンスのために書いたわけで、そういうことが沢山あった。宮本武蔵から始まって、侍ってどういうものになったのか、どこまでいければいいかと思った」
―アニメ作品ですが、ある意味ドキュメンタリーのようですね
押井「僕はドキュメンタリーのつもりでやったんです。ただ、普通のドキュメンタリーではありえない、本人がいなんだから。『今(武蔵が)居たらこうなんじゃないか』という形で描くのも面白いんじゃないかと思ったけど、やっぱりアニメで動かしてほしいという話もあったので、今(プロモーション映像を)見たら僕の想像以上に動いているんです。僕は『動かすな』つったんだけど(笑)。だから僕が書いた脚本を、西久保がどう変えたのか知らない」
―かなりびっくりする話もありましたが、西久保さんは驚かれましたか?
西久保「まずですね、押井守から上がったシナリオに、第一稿に"決定稿"と書いてあったのが一番びっくりしたんですけど(笑)。『あれは(脚本を)直さない、直すなら西久保の方でコンテで全部直せ』と言われ、それが一番びっくりしたんですけど。あと中身も押井守が言ったように、多岐にわたって、だいたいしょっぱなが西洋の騎士の話から(始まり)、最後が戦車まで出てくる(笑)。宮本武蔵のドキュメンタリーなんですが、実際シナリオでは、70分のうちの65分くらいが全部うんちくだったんです(笑)。まさにうんちくアニメを作ろうという押井守の魂胆がありまして。
まあ僕のほうは前に『立喰師列伝』という作品で一緒に仕事をしたとき、『さすがにこれだけうんちくがあるのは嫌だな』と主任演出として思ったので、それをもうちょっと見やすく面白くしようという感じで今回の映画になったというところです。多分押井守にしては凄い不満に思うところが多々あると思いますけど、一応『好きにしていい』と言っていたので『まあいいか』と考えて、とりあえず面白く見られるものを作ったというところです」
―プロモーションは凄いアクションですね。
西久保「実はまだ作っているところで、本当のアクションシーンがほとんど入っていないと思うんですけど、押井守のうんちく劇に、あとこちらでいわゆる剣劇を(足した)。語ったものに対して剣劇とか、剣劇をやって語るとかいう形式にしたので、剣劇がずいぶん増えたというところです。中身とは関係ないですけど、今回剣劇に浪曲を全部乗せて、音楽剣劇みたいなシーンを作っているので、そこは楽しんでもらえるんじゃないかと思います」
―主題歌は、監督から泉谷しげるさんにオファーされたということですが。
西久保「さっき押井守が言ったように五輪書がメインの話なんですけど、五輪の書はちょうど(武蔵が)60歳から亡くなる62歳くらいの間に書いていたということなんで、泉谷さんも同じくらいの歳で、あと僕の中では、さっきちらっと見えたCGのキャラクターが、60歳くらいの宮本武蔵として設定したキャラクターなんですけど、僕の中では泉谷さんに似てるかなと(笑)」
泉谷「そんな理由か!(笑)そういう理由だったのか!(笑)」
西久保「本当に、昔僕も(泉谷は)『春夏秋冬』の頃から知っているアーティストで、60歳越えてバリバリやっているところが(武蔵と)シンクロするかなと思って、ぜひお願いしたいというところです」
―泉谷しげるさんは、あまり押井作品はご覧になっていないと思ったら、実際には凄くご覧になっているそうですね。
泉谷「押井守より詳しいです(笑)。さっきも楽屋でうんちく言ってましたからね。本人は呆れていると思いますけどね」
―今までご覧になった押井監督の作品で、特に好きな作品は?
泉谷「もうほとんど大丈夫ですけど、自分の中では『イノセンス』と『アヴァロン』が凄い好きですね。まあこの人(押井)の作品というのは、何が凄いかというと、絶対忘れられないシーンがある。(頭に)張り付いちゃうんですね。普通エンターテイメントは見たら忘れるんだけど、困ったことに『イノセンス』が(頭の中に)出てきちゃうんですよ。とんでもない人だなと思っていますね」
―この話を受けられたとき、最初に考えられたことは何ですか?
泉谷「まず押井さんとI.Gがうまくいっているのかということが、そっちの方がまず気になって(笑)。楽屋を見たらかなりうまくいってないですね(笑)。やらなきゃ良かったと思ったけど(笑)、それはともかくとして、宮本武蔵自体は同じ時代に生きていないので、大好きだけど諸説色々あるじゃないですか。『本当は卑怯者だったんじゃないか』とか。吉川英治さんの美化された世界と今通じるのかというところがありますね。好きだけど、吉川英治さんの世界は好きだけど、パターン化しちゃってるんでしょうね。古典になりすぎちゃって、宮本武蔵を押井さんがやるっていうんで(自分は)盛り上がって、これを他の人がやるなら(企画に)乗ったかどうかわからないですね。押井さんがやるなら乗っちゃおうと。
自分のテーマでは、宮本武蔵というよりは今に置き換えて、アスリート。ある地位とか、技能の凄いところに行くには、やっぱり『恋したいだろうけど我慢しないとならない』とか、『戻ってきたときに女は居ない』みたいな、そういうことをやらないと無理じゃないかと、そういう孤独感が押井さんにはあるんだろうなと。ただ監督はこちら(西久保)なので、押井さんを振り込めて、好きに作ってもらった方がいいんじゃないかなと、割と自由な発想でやってもらったんじゃないかな」
―プロモーション映像を見たとき、いい意味で裏切られたという点があると思いますが、泉谷さんはそこまで想像されて主題歌を作られました?
泉谷「ありがたいことに最近のセンスというか写真を、ほんのちょっとした絵コンテを見せてもらったんです。『なんにもねえ』というのはどうなのかと(笑)。そこは権力使ってよこせと(笑)。出してくれて、(見てみたら)『おおっ』とか、『やっぱすげーなあ』と、一枚の記憶力といいますかね。これは相当気合い入れないといけないなというんで、5分で作りましたけど(笑)」
―最後に、一言ずつお願いします。
泉谷「この映画はやっぱりいつ公開すると明記されていないんで」
―あ、6月ということです。
泉谷「『いい加減にしろ』と、そういう感じですね(笑)」
―6月です(笑)。
泉谷「記者の人たちも『無駄足じゃねえか、いつやるんだよ』と(笑)。やっぱり映画というのは発表してから出来上がるまで凄い時間がかかるので、かなりいいものになると思うので、早くやる日教えてよ(笑)。一番最初に見に行きますから(笑)」
石川「押井監督とI.Gの仲、まあ腐れ縁は……(この日発売の泉谷のライブDVDのチラシを取り出し)ああこれですね、泉谷さんから『これ絶対宣伝しろ』と言われていまして(笑)、泉谷さんの作品はすべてメイサクとケッサクと。メイサクというのは迷う作と、ケツはケツのケツ。武蔵は間違いなくメイサクとケッサクになると確信していますので(笑)」
西久保「とりあえず今回は押井守のうんちくと、さっき言いましたように音楽に剣劇を合わせて、ミックスした面白いものを作りましたので、よろしくお願いします」
押井「多分僕が考えていたものとだいぶ違っていると思うんですが、西久保のやることなのでいいものに仕上がっていると思います。僕が監督をやらない方が良かったと思います。そういう意味では(自分に監督をさせなかった)石川が正しかった。僕自身も完成を楽しみにしています。いつか自分の手でも武蔵をやってみたいとは思っています。そのときは実写でやりたいと思います。そういう機会があるかどうかわからないですけど、そんなにかからないでできると思う、2億円くらいでできると思うので、機会を待っています、よろしくお願いします(笑)」
なおこのときに公開されたPVは、東京国際アニメフェアのプロダクションI.Gブースにて公開されている(その中に、謎のCGの爺さん武蔵なども入っている)。東京国際アニメフェアの一般公開日は3月20日と21日。
©2009 Production I.G/宮本武蔵製作委員会
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