北朝鮮情勢について

5月25日に北朝鮮が核実験を行い、さらに地対艦型と思われるミサイルの発射実験を行ったという報道が行われていますが、一連の事件について少々。

すでに何度も言われているとおり、この北朝鮮の行動は、武力をちらつかせながらアメリカなどから譲歩を引き出すことにあります。この時期に行われたのは、タカ派として知られていた共和党のブッシュ政権から、“対話”を重視するとしているハト派の民主党オバマ政権に変わったためであり、オバマ政権からならより譲歩を引き出しやすくなったと北朝鮮は踏んでいるからでしょう。

それで現在各国は、制裁をどうするだの何だのという話をしているわけですが、重大な問題が一つ。それはどこの国も、北朝鮮という現在の国家の崩壊を望んでいないということです。

「目の上のたんこぶである、その存在が危険な国には武力侵攻して現政権を潰し、その後に新しい政権を作ってやればいい」ものすごく乱暴な表現ですが、そんな感じでアメリカはアフガニスタンおよびイラクを攻撃しました。アメリカからしてみれば「独裁者が圧政を敷く政権を潰し、その後にその地の人々のための民主的な政権を作る手助けをする」ということですが、それがいいのか悪いのかを考えるのはこの記事の目的ではないので置いておきます。

北朝鮮に話を戻しますが、アメリカあるいは韓国、もしくはその双方が北朝鮮を攻撃し、朝鮮半島が「民主的な政府の元に」統一されれば、北朝鮮問題は消滅するようにも思えます。ですがそんなことは誰も望んでいません。

まず韓国は、「南北統一は民族の悲願」ということになっているので口にこそ出しませんが、現在は朝鮮半島を統一しなければならない羽目になることを望んでいません。かつての韓国は朝鮮戦争の後「もし北朝鮮が再び攻めてくるなら、反撃して今度こそ我々の手で朝鮮半島統一を達成してやる」という気負いでした。ところがその韓国は、1990年の東西ドイツ統一を見てしまったのです。このドイツ統一は、実質的には西ドイツが東ドイツを吸収した形になったわけですが、東ヨーロッパの中でもっとも工業化が進み経済状態も良かったとされる東ドイツを吸収するのにも、西(統一)ドイツ政府は経済的に相当な苦労をしています。そんな有様だったのに、東ドイツよりも悲惨な状態である北朝鮮を、韓国が吸収することになったら? それは現在の韓国政府にとっては、想像したくもない事態です。

また、北朝鮮との間に長い国境線を抱える中国も、朝鮮半島統一を望んではいません。北朝鮮が韓国に吸収されるとなると、中国は西側の国と直接国境を接することになります。つまりアメリカとの緩衝材・防波堤である北朝鮮が消滅することにより、国防上の大きな負担を強いられます。

今回の核実験問題でどんな制裁が行われるにしろ、韓国と中国がこのような姿勢である以上、「北朝鮮の現政権を崩壊に導く可能性のある制裁」は望めないことになります(なにしろ中国には安保理での拒否権もあります)。アメリカも韓国の意向を無視することはできないので、たとえ現在のアメリカ政権がどんなタカ派であったとしても、アメリカによる北朝鮮攻撃も望めません。

以上の理由により、私は北朝鮮問題については非常に悲観的です。北朝鮮問題が解決するとすれば、現北朝鮮政権が内部崩壊を起こしたとき以外にありえないと思えるのですが、ではどんな状態になれば現北朝鮮政権が崩壊するのか? かつてレーガンは、軍拡競争にソ連を巻き込むことによってソ連経済を疲弊させました。それがペレストロイカとソ連邦内部崩壊に繋がったのですが、同じようなことが北朝鮮で起こりうるとは私には思えません。

そして1980~90年代、ソ連の崩壊を望んだ国はありましたが、今は北朝鮮の崩壊を望む国はないのです。つまりは延々と核とミサイルによる北朝鮮の恫喝、それに対する“援助”などという名目での上納金支払いが続きそうです。

その状況の中で、日本が取り得るべき選択には何があるかについては、また機会があったら書きたいと思います。