『モダン・ウォーフェア2』のシナリオについて「なんでこんなトンデモシナリオになった!?」

ゲーム市場に色んな記録を打ち立てているCALL OF DUTY : MODERN WARFARE 2(MW2)』ですが、以前、私の『MW2』評を希望された方がいるので、遅ればせながら書いてみました。

まず、なぜ私が前作『CALL OF DUTY 4 : MODERN WARFARE(MW)』を気に入ったかという点について。

日本のゲームで、特に戦争を題材にしているとありがちなパターンなのですが、ゲーム中に長々と「ゲーム制作者からプレイヤーに対する説教」が始まったり、「ゲーム制作者の、戦争の起こる社会に対する愚痴」を延々聞かされたり、戦争の悲惨さやら愛の大切さやらを延々語られたりして「いいからとっととゲームを進めさせろ」「敵の演説をぼーっと見ていないでさっさと倒せ」と思わずにはいらない私は、日本のその手のゲームから手を引いてしまいました。

しかし『MW』は、ストーリーの合間合間にムービーやデモが差し挟まれているものの、必要以上に余計なことは語らず、可能な限りゲームプレイを阻害しないよう配慮され、その中でいかにドラマティックにシーンを演出するかが重視されています。映画で例えると『ブラックホーク・ダウン』のような雰囲気と言えるでしょう。「戦争の悲惨さ」など聞き飽きたことを聞かされることなく、無駄な間を挟まず、とにかく「戦闘の激しさ」を描いているところに私は惹かれました。

さらに『MW』の演出は、徹底的に一人称視点にこだわっています。ゲーム中で操作するプレイヤーが変わることはありますが、視点はあくまで一人称視点。ゲーム内のデモも一人称視点で、「プレイヤーが処刑される」デモのシーンまで一人称視点。そのためプレイヤーとの一体感をさらにドラマティックに感じることができます。私はこれら雰囲気を体験版で感じ、実際に製品版を購入しプレイしてみたら、想像以上によくできていたゲームだったのでした。

で、『MW2』についてですが、これからの文章は『CALL OF DUTY 4 : MODERN WARFARE』『CALL OF DUTY : MODERN WARFARE 2』のネタバレを激しく含んでいるのであらかじめご了承ください。

前作のシナリオをおさらい

前作『CoD4:MW』のシナリオを簡単に書くと、

  • イギリス特殊部隊SASに新人として配属された"ソープ"マクダビッシュ軍曹は上官のプライス大尉たちと共に、ロシアからの核兵器密輸阻止のため、核兵器が積まれている貨物船を襲撃する。(SAS"ソープ"マクダビッシュ視点)
  • 中東某国でクーデターが発生、アル=フラニ大統領は捕らえられて処刑され、独裁者アル=アサドによる反欧米政権ができる。(アル=フラニ大統領視点)
  • ロシアで「かつてのソ連のような強国」を目指す、超国家主義の台頭による内戦が勃発。SASはその中でロシア穏健派の軍と協力し、超国家主義の中に潜伏していた諜報員ニコライの救出に向かう。(SAS"ソープ"マクダビッシュ視点)
  • アメリカ軍がアル=アサドを捕らえるため中東に侵攻する。(アメリカ海兵隊ジャクソン軍曹視点)
  • アル=アサドの核兵器による自爆で米軍は大損害を受け、ジャクソンも死亡。(アメリカ海兵隊ジャクソン視点)
  • だがアル=アサドは自爆したのではなく逃げていた。SASはニコライの情報により、アル=アサドが潜伏しているアゼルバイジャンに侵入し、アル=アサドの身柄を確保。アル=アサドがザカエフから核兵器を手に入れたことを突き止める。(SAS"ソープ"マクダビッシュ視点)
  • ザカエフは15年前、チェルノブイリで核物質を手に入れようとしていたところを、SASが阻止のために襲撃した男だった。(SASプライス視点による回想での戦闘)
  • ザカエフはロシアの内戦において、超国家主義派のリーダーになっていた。SASとアメリカ海兵隊は共同で、ザカエフが占拠したICBM(核ミサイル)基地を襲撃する。(SAS"ソープ"マクダビッシュ視点)
  • アメリカに対するザカエフのICBM攻撃阻止に成功したが、ザカエフは見つからなかった。ザカエフ配下の超国家主義者の反撃のため撤退を余儀なくされたSASと米軍部隊は、仲間が次々と倒れ、武器も弾薬もなくなる。その時ついにザカエフが現れる。マクダビッシュは、瀕死のプライスが投げてよこした拳銃でザカエフを射殺。その後マクダビッシュは、穏健派ロシア軍に救助される。(SAS"ソープ"マクダビッシュ視点)

こんな感じです。ストーリーは「SASによる視点(15年前の回想の中での戦闘も含まれる)」と「中東に侵攻した米軍による視点」の2つがあり、その2つが最後には綺麗に一つに融合します。このシナリオは非常に良くできていて、そのまま1本の映画にすることも可能だと思ったほどでした。そしてリアリティという点においても、現実にあり得る要素が様々盛り込まれていました(いくつか「あれ?」という点はありましたが)。

前作のレベルと比較したら、『MW2』はトンデモシナリオ?

2009年ゲーム界の最優秀脚本賞、ノミネートされたのは?:Kotaku JAPAN, ザ・ゲーム情報ブログ・メディア

ここで『MW2』が「ビデオゲーム脚本賞候補」に上がっていますが、正直私からすると『MW2』のシナリオは「前作のシナリオはまっとうだったのに、今回はなんでこんなトンデモになったの?」でした。

『MW2』のシナリオを簡単に書くと……

  • 結局ロシアでは、ザカエフを崇拝する超国家主義者が実権を握る。
  • アフガニスタンでの戦闘。戦闘終了後、第75レンジャー連隊アレンは、シェパード司令官に目を付けられ、タスクフォース(TF)141にスカウトされる。(アレン視点)
  • ロシア国内に、アメリカの人工衛星と、人工衛星に搭載されていたACSモジュールが墜落。アメリカとイギリスの合同部隊TF141(SASマクダビッシュも所属)が、ACSモジュールの回収に向かう。(TF141"ローチ"サンダーソン視点)
  • ロシア人テロリストであるマカロフの一味の中に潜り込んだアレンは、マカロフが巻き起こすロシアの空港での無差別銃撃テロに、テロリストの一員として同行する。だがアレンはマカロフに正体を見破られて殺され、このテロはアメリカ人の仕業であることにされる。(アレン視点)
  • ロシア軍はACSモジュールをコピーし、テロの報復としてアメリカ本土を奇襲。ヴァージニア州に空挺降下。本土のアメリカ軍は迎撃と住民の救助に向かう。(第75レンジャー連隊ラミレス視点)
  • シェパードの命により、TF141はマカロフをつり出すため、マカロフが最も憎んでいるが、現在ロシアの囚人になっている"収容者627号"の身柄確保のため、ペトロパブロフスクの収容所へ向かう。収容者627号とは、かつてSASにいてザカエフと戦ったプライス大尉だった。(TF141"ローチ"サンダーソン視点)
  • アメリカ本土のレンジャー部隊は、ロシア軍に占拠されたワシントンDCへ向かう。(第75レンジャー連隊ラミレス視点)
  • TF141とプライスはアメリカ本土のロシア軍の動きを止めるため、ロシアの原潜基地に潜入。ロシアの弾道ミサイル原潜(SSBN)の中に入り込んで核ミサイルを発射。(TF141"ローチ"サンダーソン視点)
  • 核ミサイルがアメリカ上空の宇宙空間で爆発する。(国際宇宙ステーションの宇宙飛行士視点)
  • 電磁パルスの影響で、すべての航空機・ヘリは墜落。ロシア軍の動きは低調になる。その間にアメリカ軍レンジャー部隊はホワイトハウスを奪還。(第75レンジャー連隊ラミレス視点)
  • TF141はマカロフを捕らえるため、マカロフのアジトを襲撃。マカロフは発見できなかったが、マカロフのPCから情報を入手。(TF141"ローチ"サンダーソン視点)
  • 入手した情報を持ち帰ろうとしたTF141だが、実はTF141に命令を下した米軍シェパード司令官とマカロフは通じていた。シェパードはサンダーソンたちを殺して情報を奪い、TF141を抹殺にかかる。(TF141"ローチ"サンダーソン視点)
  • TF141の生き残りとなった"ソープ"マクダビッシュとプライスは、マカロフに「お前もシェパードに消される」と伝えてシェパードの部隊とマカロフの部隊を戦わせ、またシェパードの居場所をマカロフより聞き出す。(TF141マクダビッシュ視点)
  • マクダビッシュとプライスは、シェパード抹殺に向かう。(TF141マクダビッシュ視点)

こんな感じなんですが……。色々とツッコミどころが。

ACSモジュールって何?
まずACSモジュールですが、これは実在しないものですし、劇中でも具体的な説明がされていません。とりあえず「アメリカの人工衛星に搭載されていた」「ロシア軍はこれをコピーして、アメリカの人工衛星の監視をかいくぐり、本土を奇襲した」となっています。そんなわけでACSモジュールとは、人工衛星に搭載されたIFFのようなものと連想できます。ですがロシア軍はACSをコピーしただけで、SOSUS弾道ミサイル早期警戒システムまで無力化しています。人工衛星だけならまだしも、地上のレーダーや海底のソナーまで無力化とは……「天才ハッカーひとりが、アメリカ軍を完全に機能停止に陥れる」というような感じの、あまりに陳腐すぎる話です。『MW』はもっと地味でリアルな、地に足の着いた話だと思っていたのですが……。
ロシア軍がワシントンDCを占拠?
ロシアは空港テロの報復として、その翌日にアメリカ本土に奇襲攻撃し、アメリカ本土に空挺降下、ホワイトハウスなどを占拠しています。あまりにも行動が早すぎますし、政治的に考えると、いくらロシア国内のテロリストの中にアメリカ人がいたとしてもアメリカ政府による攻撃とは言い切れませんし(そもそも目的は?)、さらに(アメリカの海外基地を攻撃とかならまだしも)ロシアがアメリカ本土を攻撃なんて考えられません。「911テロのあとの、アメリカ軍によるアフガン侵攻」とはわけが違います(アフガニスタンの当時のタリバン政権は、911テロ以前から、国連安保理によるビン=ラディン引き渡し要求をずっと断り続けていました)。それにロシアがワシントンDCに直接攻撃したとしたら、ロシアはアメリカからの核攻撃による報復を受ける可能性も考えなければなりません(それもACSモジュールのコピーで無効化されたというのでしょうか?)。
しかも、テロの翌日にいきなりアメリカ本土を攻撃となると、当然船での部隊輸送は間に合わないので、攻撃部隊(兵士だけではなくヘリに装甲車に対空砲まであります)はすべて空輸となりますし、ゲーム中の描写もそうなっています。空輸でそれだけの攻撃部隊を用意するだけでも大仕事ですが、そもそもロシア軍に、一体どれだけの空輸能力があるのでしょう? NATO諸国を迂回しつつ、ワシントンDCを占拠できるだけの部隊を乗せた輸送機をロシア本土から飛ばすなんて無茶すぎます。また可能性として、事前にキューバに部隊を集結させておいたということも考えられますが、そうすると絶対に1日では実行不可能です。
またさらに軍事的なことを言いますと、ロシア軍が部隊をかき集めてワシントンDCを一時的に占拠することは可能としても、その後が続きません。補給が空輸だけで追っつくわけはないし、どう考えても大西洋の制海権をロシア海軍が握れるとは思えません(これもACSで何とかする?)。そうなるとロシア軍は最終的には補給が続かずアメリカ軍に包囲されるわけで、ロシア軍のワシントンDC占拠は、片道切符の神風攻撃にしかなり得ないのです。まともな軍人の考える作戦ではなく、たとえ米ソ冷戦時代でも、こんな作戦を考えたソ連の軍人はひとりもいなかったでしょう(指揮の混乱を目的として、ヨーロッパでの全面侵攻と同時に行う、少部隊によるアメリカ大統領への奇襲攻撃ならあり得たかも?)。結局は、とにかくゲーム上でワシントンDCやホワイトハウスを戦場にしたかったから、無理矢理設定が作られたものと思われますが、それにしてももうちょっとましなシナリオ展開があったのでは……。シークレット・サーヴィスのひとりを主人公にして、テロリスト相手にホワイトハウス内で銃撃戦でもよかったと思うんですけど……。
回収されない伏線 「大統領はどこに行った?」などなど
先に書いたように劇中では、米軍がホワイトハウスを奪回するという話があります。またホワイトハウスに向かう兵士たちが「大統領は無事だといいが」と話す場面もあります。ところがその大統領がどうなったのか、劇中では全く語られていません。話に出てくるのはNORADにいる国防長官だけです。まあ仮に大統領がNORADかあるいはE-4B(NECAP)などに避難していたとしても、前線の兵士がそれを知らないというのはおかしくはないんですけど、これだけ大規模な事件が発生して、大統領について一言も物語で触れられないというのはどうなんでしょう。
また、ヴァージニア州でロシア軍を迎撃していた第75レンジャー連隊は、シェパードの命令で、ある重要人物を救出に向かいます。ですがその人物は救出が間に合わず死亡していて、その人物が持っていたブリーフケースだけが回収されました。で、この重要人物、結局何者だったのか語られません。現場の状況からすると、「アメリカ軍の合い言葉を知っていたロシア人の前に、出て行ってしまったところを殺された」ようです。だとするとこの人物は「マカロフとシェパードの連絡役のような人物だった。シェパードはロシア人にアメリカ軍の合い言葉を教え、口封じのために殺させた」とも考えられます。でもそうすると、シェパードが救出を命じた理由がわかりません(兵士を差し向けず、放っておけば良かったのですから)。また、回収されたブリーフケースの中身についても、結局劇中では触れられていません。
そして「マカロフが最も憎む人物」「マカロフをつり出す餌にするために救出された人物」である「収容者627号」ことプライスですが、結局マカロフとの確執など全然話に登場しません。シェパードがすべての黒幕であったとするならなおさら、彼が収容者627号の救出を命じた意味もわかりません。シェパードは、本気で627号をマカロフを始末するときに使う餌にする気だったのでしょうか? でもゲームではシェパードは、マカロフより先にプライスを殺そうとしているので、収容者627号を本来の目的で使おうとしていません。
誤訳以前にシナリオが変?
日本語版『モダン・ウォーフェア2』では、誤訳の問題が何度も取り上げられています『モダン・ウォーフェア2』のあれこれをスクエニに聞いてみたではスケジュール上、開発と同時進行でローカライズが進むため、翻訳しているストーリーが翌日には没になっていたり、収録した音声がリテイクになったりは日常茶飯事と書かれており、翻訳担当者がゲーム内容およびシナリオをちゃんとチェックできなかったことが誤訳の主因のようです。ですが原文を見ても、なんだかシナリオが変だと思われるシーンがあります。
例えば「ラプターを救出しろ」という任務があります。ラプターといったらF-22戦闘機ですから、「墜落したラプターのパイロットを救出する」ということだと普通は思います。ところが現地に行ったら墜落していたのはF-22ではなくヘリコプター。そして「Raptor」は人のことで、しかもパイロットではなく背広姿です。では誤訳だったのかというと、原文でも「I got a visual on smoke coming from the crash site. That's where Raptor went down.」というセリフになっているようです。
つまり「ラプター」とは戦闘機ではなく、ヘリに乗っていた重要人物の暗号名ということになりますが、シナリオ的にも軍事的にも、戦闘機のことと混同しやすいコード名を付けるのは適当とは思えません。そして結局この重要人物「ラプター」が何者だったのか、ゲーム中では明かされません。原文を見ると、戦闘機のラプターと人物名のラプターが混同されている気もします。先に書いた「回収されない伏線」などと合わせて考えると、元々ゲームのシナリオチェックが正しく行われていないように思われます。
そんなに簡単に核ミサイルが発射されていいの?
プライスは、電磁パルスで戦争を止めるため、ロシアのミサイル原潜の中に侵入し、核ミサイルを発射します。しかし、映画『クリムゾン・タイド』などで描かれているように、ひとりの狂った人間が勝手に核戦争を始めないよう、(特に潜水艦では)核ミサイル発射には、複数の人間の同意が必要とされる複雑な手順があります。ですがプライスは、簡単にロシア原潜を乗っ取ってミサイルを発射してしまいました。しかもミサイルの爆発地点を、電磁パルスが発生するように変更までしています。お話を都合良く進めるためと言ってしまえばそれまでですが……。
ロシア軍を止めるために電磁パルスを使うって……
先に書いたように、プライスはロシア軍を止めるため、核爆発を起こして電磁パルスを発生させました。しかし、核戦争も想定して作られた兵器(特に航空機)は、電磁パルスに対してある程度の耐性があるように作られていると言われています。その一方で民間のコンピューターなどは、電磁パルスに耐えることを考慮されていません。つまりロシア軍の機能が停止するほどの電磁パルスが発生したら、その地域の民間インフラは壊滅、発電所もパソコンも医療機器も何もかも動かなくなるでしょう。下手をするとロシア軍の攻撃よりでかいダメージを民間インフラに与えることになり、その復旧だけでも少なくとも数年かかります。軍事施設だけを対象にしたロシア軍の攻撃よりもひどい“無差別絨毯爆撃”となります。
シェパードの目的が無茶苦茶すぎる
結局今回の事件の黒幕はシェパード将軍だったということになります。ではなぜ彼がこんな事件を起こしたのか? 先に書いたように(『MW』の良い点であった)「キャラが長々と演説しない」を守り、シェパードが自分の動機を延々と語るシーンはありません。シェパードはほんの少しの言葉で漏らすだけですが、そのセリフによるとどうやら「マカロフに、アメリカ人によるものに見せかけたテロを起こさせる。その報復としてロシアにアメリカ本土を攻撃させることにより、アメリカ人の団結力と愛国心をあおる」のが目的であったようです。しかし、一介の将軍が世界を敵に回し、ワシントンDCが破壊され、核戦争の危機まで発生する上記のようなことを「愛国心を高める」ためだけに行った、というのはあまりに突飛すぎでは……。それに、「テロの報復としてロシア人が攻撃してきた」のをアメリカ人も信じたら、アメリカ人の愛国心もどうなるというのでしょう。「ドラマティックにするため、無理矢理裏切り者を作った」ように見えてなりません。

で、ゲームとして『MW2』はどうなのか

今まで『MW2』のシナリオをつついてきましたが、それは『MW』に比べると『MW2』のシナリオがあまりに大ざっぱで「とにかく前作よりスケールを大きくし、ドラマティックにしなければ」という意識に振り回されたのではという感じがしたからです(それだけ『MW』のシナリオが良かったということでもありますが)。ただ『MW2』が狙った「ドラマティックな展開」についてはかなり成功していると思われます。特にラストシーンの、シェパードとの戦いの演出などは素晴らしいものがありました。

ではシナリオのことは置いておいて、ゲームとして『MW2』はどうだったのかというと「『MW』から大して進化していない」というのが私の印象でした。この「進化」とは、例えばAIの動きですとか、グラフィックですとか、音響のリアリティ、マップの作り込みなどといった、ゲームのシステム的な点のことです(ちなみに私はまだマルチプレイはやっていないので、そちらの点についてはわかりません)。そして私がプレイしたのはPS3版やXBOX360版ではなくPC版だったのですが、「退化」と思われる要素もあります。例えばFPSによくあるPEEK動作、つまり「物陰から体の一部だけ出してのぞき込む」という動作ですが、『MW』ではできたのに『MW2』ではできなくなっています。さらにPC版でも前作では可能だった、MODやデティケイテッドサーバ(ユーザー独自の拡張)という、PC版ならではの遊びもできなくなりました(そのためボイコット運動も起こりました)。PC版に限って考えると、『MW2』は『MW』より明らかに退化しています。

PCでFPSが遊べなくなる日も近いのか……

PEEK動作の廃止、MODやデティケイテッドサーバの排除は、『MW2』のメインターゲットがコンシューマ機ユーザーであるということの現れでしょう(コンシューマ機のコントローラーでは、PEEKの操作はしにくいでしょうから)。実際、『MW2』の売り上げのうち、PC版はわずか3%。また『Crysis』を制作したCryTekなども、PCだけでのゲーム販売を止めると発表しています。私としては「マウスとキーボードの入力でないと、FPSのプレイはできない! まともに照準も合わせられずストレスがたまる!」という人間なので、断然PC派なのですが……(マウスとキーボードに対応したコンシューマ機FPSもありますが、コントローラーユーザーとの対戦バランスなどを考える必要もあるので、完全対応は難しそうです)。

私は以前は『RAINBOW SIX』『GHOST RECON』といったFPSが好きでした。これらのゲームは(特に『RAINBOW SIX』は)「戦闘開始前に、じっくりと作戦を立てる」必要があり、失敗を繰り返しながら最良の作戦を見つけていくのが好きだったのです。

ところが最近の、PCではなくコンシューマ機をメインターゲットに移した『RAINBOW SIX』『GHOST RECON』では、そのような作戦要素がどんどん失われ「ただドンパチするだけのFPS」になってしまいました(作戦立案などは、カジュアルなコンシューマ機プレイヤーには向かないからでしょう)。

このまますべてのFPSはコンシューマ市場にあわせて作られることになり、やがてはPCゲームからFPSが消える日も近いのでしょうか……。

ところで銃撃戦ゲームって人に悪影響を与えるの?

話は逸れますが、最近、銃の乱射事件が起こる度に「ゲームの影響だ」「暴力ゲームを規制すべきだ」という言葉が登場します。そのたびに「なんで映画はいいのにゲームは駄目なのか」などという反論も登場します。

では「なぜ映画は良くてゲームは駄目か」という点ですが、少なくとも「登場人物とプレイヤーの一体感」は、確実に映画などよりもゲームの方が高いと思われます。映画は三人称ですし、映画の登場人物を視聴者が操作することはできません。ですがゲームは一人称のものが多くあり、キャラクターを自分が操作できます。そのため「映画とゲームで、どちらが人に影響を与えやすいか」といったら、それはゲームの方だと思います。

ですが、ゲームをやっている人なら誰しも思うことがあります。例えばFPSをやっていてプレイヤーキャラが撃たれ死んだとき、レースゲームをやっていて車がクラッシュしたとき、「これがゲームで良かった」と。まともな人間ならそう考え、実際にゲームと同じことをしようとは思わないはずです。それに例えば、高いところから飛び降りても平気で立ち上がる。他人を殴っても自分の拳は全く痛めない。そんな「デメリットのない、嘘っぱちヒーローの登場する」映画の方が、人に勘違いや悪影響を与える可能性もあります。

結局愚かな人間は、どんなものにだって影響を受け、バカなことを行う可能性があるのです。