「こんな時に」と思われるかもしれませんが、こんな時だから敢えて書きます。以前試写で見せて頂いた『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』の感想です。
地震の被災者の方は、この映画を実際に見ることができるのはかなり先になるかもしれません。でもその日を楽しみにして、辛い時期を乗り越えて欲しいと思います。
まず、『SOLID STATE SOCIETY(SSS)』が3D化したことについてどうなったかについて。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(攻殻SAC)』シリーズでは、以下のようなキャラクターの主観視点での電脳画面が多数登場します(この画像を含め、以下のスクリーンショットはすべて参考用に2D版『SSS』から引っ張り出した物で、3D版のものではないことをお断りしておきます)。
3D映画を見たことがある人は、こういった電脳表示画面が3Dで見られることにより「本当に自分が電脳化したかのような感覚(画面効果)」が得られるであろうことは簡単に想像できると思います。その点についてはまさに期待通り、想像通りの映像でした。
その一方で、「2Dのキャラクターの画面と、3Dのカットはうまくマッチするのか?」「電脳画面だけ、浮いて見えるんじゃないか?」「キャラクターは書き割り状態になるのでは?」という懸念を抱いた方もいらっしゃると思います。ですがそんな懸念をする必要は、全くありませんでした。
まず『攻殻SAC』シリーズでは、車や思考戦車を中心としたCGオブジェクトが多数登場しますが、それらもちゃんと3D視になるように作られていました。
例えばこの冒頭の、車両がぞろぞろとやってくるシーンなどは「おおー、ちゃんと3Dだ!」と、ちょっと感動しました。
ではキャラクターはどうか? これも「書き割り」にならないように、しっかりと処理が施されていました。
当然ながらこのように、複数のキャラクターが登場し、立ち位置に差がある場合、ちゃんと奥行きがつけられております。また、キャラクターのアップのカットですが、
例えばこのように、キャラクターの横顔があったとします。すると「キャラクターの顔」「前髪の奥」「服の襟」など複数のレイヤー(層)に分けられ、それぞれに別々の奥行きがつけられています。そのため見事に他の3D映像に溶け込み「2Dのキャラクターだけが浮いている違和感」「2Dの絵が3Dになったことによる違和感」というものは、ほとんど、あるいは全く感じられませんでした。細部にまでこだわった3D化が行われていました。
また、2D版でも『SSS』を見たことがないという人も多いようなので、ストーリーについても簡単に触れます。
『SSS』は、『2nd GIG』の約4年後というストーリー設定になっています。草薙素子は姿を消しました。荒巻は健在ですが、現場ではトグサがリーダーシップを取るようになっています。
その中で「傀儡廻(くぐつまわし)」の事件が発生します。押井守監督によって映画化された『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の「人形使い」を連想させますが、最終的には全く違う方向へと話は進んでいきます。その一方で「傀儡廻」という名前だけではなく、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』に対するオマージュが多数含まれております。
私が最初に『SSS』の2D版を見たとき、『イノセンス』がバトーの映画になっていたのとは対照的に、多数の登場人物にそれぞれ見せ場が用意されており、ファンサービスを強く意識した作りになっていると感じました。元々『SSS』はOVAとして作られたのですから当然といえば当然なのですが、ファンサービス作品であるが故、「家で個人で、お気に入りのシーンを何度も見るという鑑賞方法に適している」という印象でした。
ですが3D化されたことによって、「最低一度は、映画館で3D版を体験しておかないとならない映画」に昇華したと言えます。
遅かれ早かれ『SSS』の3D版Blu-rayは発売されるでしょうが、それがいつになるかはわかりません。それに、個人での3D再生環境が整うのもまだまだ先でしょう。だからこそ映画館の“大画面で”、3Dになった『SSS』を体験してほしいと思います。
最後に、『SSS』とは直接関係ないことを付け加えたいと思います。
被災者のために、募金などを行うのはもちろんいいことです。ですが「今、映画を見るような娯楽に金を使うべきではない」などとなると、映画関係の仕事に就いている人の収入が減り、その人たちが使うお金が減り……と、連鎖的に経済が停滞します。経済とは、お金の循環です。経済が停滞することは、被災地だけではなく日本全体にとって良くないことです。日本の経済が停滞すると、当然ながら被災地の復興が遅れます。
ですので皆さん、映画館に行ってこの映画を楽しんでください。そして被災者の方も、その日が来ることを楽しみにしていてください。私も、この映画を含め多くの娯楽が楽しめる日が、皆さんに少しでも早く戻ってくることを願っております。
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