実は幻ではない『ニルスのふしぎな旅 劇場版』劇場公開

「劇場版をいまさら劇場公開とは?」と思われる人もいるかもしれませんが。

まず『ニルスのふしぎな旅』は、1980年からNHKで約1年間TVシリーズとして放送された、セルマ・ラーゲルレーヴの原作をもとにしたアニメです。制作はスタジオぴえろ(現ぴえろ)で、押井守氏が“師匠”と呼んでいる鳥海永行氏がチーフディレクター(監督)を勤めました。押井氏は鳥海氏のもと各話演出で参加しており、「予算も時間もたっぷりあって、天国のようだった」「色々なことを試せた」と語っています。また、押井氏が音響監督の斯波重治氏や、声優の千葉繁氏、玄田哲章氏などと関わるようになったことで、後に『紅い眼鏡』がつくられるひとつのきっかけになったとも言えます。

そして、先に書いたとおり『ニルスのふしぎな旅』はTVシリーズとして作られたアニメですが、総集編的な内容の劇場版も制作されました。とはいっても絵は新規に起こされていて非常に贅沢な制作だったそうですが、スポンサーの事情で結局劇場公開されませんでした。ただ、VHS、LD、DVDなどが発売・レンタルされており、NHKでTVスペシャルとして放送されたこともあるので、見たという人も多いでしょう。そのため「幻の劇場版」と一部のニュースサイトなどで書かれているのは、正確とは言えません。

ともかく、その『ニルスのふしぎな旅 劇場版』が、1月31日から2月6日にかけて渋谷アップリンクにて、恐らく初めて劇場上映されることになりました。スクリーンで上映されるという意味では貴重です。

『劇場版 ニルスのふしぎな旅』 - 上映 | UPLINK

この劇場版も監督は鳥海氏ですが、押井氏によると鳥海氏はこのころニルスに飽きていたため、実質的な作業は、劇場版でも演出を担当した押井氏がほとんど行ったそうです。もっとも劇場版の内容は、あくまで児童文学をなぞったTVシリーズのメインストーリーを追っているので、“押井守色”はほとんどありません(逆にTVシリーズで押井氏が担当した話の中に、そういう要素が強く出ている話があります)。