伏せ字、規制音、モザイクだらけの日本のフィクション世界

といっても18禁作品のことではありません。Twitterでだらだら書いたネタを、せっかくだからちょっとまとめて加筆してみました。

前に『クリミナル・マインド』(アメリカのサスペンスドラマ)を見ていたら、子供が「(ハロウィンで)スパイダーマンのコスプレは嫌だ」「だってスパイダーマンは実在しないもん」などと言う場面があった(アメリカでは、ハロウィンは大人がコスプレして遊ぶものではない)。

こんな感じでアメリカのドラマ、小説、映画では、実在する他作品や企業名、商品名などといった固有名詞がぽんぽん出てくる。そういう細かいところがリアリティを出すのにも役立っているし、場合によってはギャグにもなると私は思う。

だが日本でおなじことをやろうとすると絶対にストップがかかる。例えば先のセリフだが「『スパイダーマンは嫌』ってスパイダーマンをけなしていることにならないか?」「『スパイダーマンは実在しない』って子供の夢の否定になるんじゃないか?」と。本気の皮肉、批判は当然として、ギャグや比喩で言っているものであっても、特に「ネガティブに聞こえるかもしれない」表現には臆病と言って良いほど慎重で「抗議されるんじゃないか」という懸念から社内でチェックが入る。実際アニメの『瀬戸の花嫁』では、単なるギャグ、パロディに過ぎなかったのに、仮面ライダーのキャラが出てきたところ「著作権侵害」とクレームが来て放送中止になったり、BD・DVDでは修正させられたりしたことがあった。

そんなわけで、何かの別作品を挙げるとしても、今じゃ名前をもじったものとかモザイクされているとか、規制音や伏せ字が入ったものばかりになり、そのまま出すんだったらいちいち許可取れ許可取れと面倒くさいことぶなってしまった。例えばアニメで、劇中の人物が別作品のコスプレをしている場合などでも、(版元が他社の場合)クレジットに「協力:●●社」とか出ていなくても、念のために断りを入れているということもある。昔のアニメを見ると、モブシーンなどを見たらアニメーターが好き勝手にいろんなキャラを描いていたものだが……。

そして、別作品、別会社の名前やキャラの映像などを出すとき、まともに相手会社にチェックされるとなると「どんなシーンで使われるのか」「否定的に描かれてないか」と脚本からチェックされて、非常に面倒くさい。また「使っていいですか?」とお伺いを立てるときも、相手会社の担当の人がどれだけ裁量、権限があるかにもかかってくる。相手会社が話のわかる、良い意味でいい加減なところだったら「気がつかないふりをするので好きにやってください」で片付けられることもあるのだが、今では視聴者が監視者になって、何かのパロディを見つけるとTwitterなどで、パロディ元の原作者に「クレジットに名前なかったけど、これ、許可申請来たんですか?」などと、すぐ報告を始めてしまう。場合によっては原作者が全く気にしない表現だとしても、視聴者が勝手に腹を立て「こんな扱われ方良いんですか!?」と尾鰭をつける。そうなると原作側も何かのアクションをしなければならない羽目に陥る……とまた物凄く面倒くさいことになってしまう。そのため、本当に出すなら必ず許可を取ってクレジットに入れろ……という形になってしまった。私は制作現場にいたわけではないのでリアルにその苦労を味わったことはないが、ちょくちょく小耳に挟む。とにかく架空の登場人物の主観、好みでもネガティブ表現は駄目と、特にネガティブに聞こえる可能性がある表現に関しては、日本は徹底的にうるさいのである。

こんな感じで面倒くさい事態が発生するため、たとえギャグでもパロディでも、他社の実在商品などの固有名詞を使うのは躊躇され、とにかくもじるとか規制音とかで隠すパターンばかりになってしまった。そして、1回ある作品のパロディが出ると「これはパロディにしていいんだ」という共通認識が出来上がり、あちこちでおなじパロディが使われまくるという現象も発生している(これは「誰にでも通じるお約束表現を求めるから」というのもあるが)。

これが私からすると、非常につまらないと思うのである。例えばアメリカのドラマや小説を見ていると「スタートレックみたいに簡単にいくか!」というような台詞がよく出てくる。スタートレックはアメリカでは広く知れ渡っており、ついでにスタートレックは、何かというと転送装置で決着がつくというネタにかけたものだ。だが日本の作品で「水戸黄門の悪役みたいだ」などという台詞をきいたことがあるだろうか? 似たような表現がされるとしても「時代劇」とか何とか言って、固有名詞を出さずに誤魔化しているだろう。

こうして、何気なく見ている作品に、実在するマイナーな作品のタイトルが出てきて「自分だけが気づくことができる喜び」というのもあったのだが、今ではそういうのもすっかりなくなってしまった、と老人の私は思うのである。昔の作品では、劇中の登場人物が例えばWindows派かMac派かで言い争うような場面もあったが、今それをやろうとしたら、規制音かもじりばかりに修正され、結果的に何を言っているのかわからない、となっているケースも時折見る。

以上、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』Blu-rayが家に届いたときに思い出したことでした(ビューティフル・ドリーマーは東宝の映画のため、東宝作品のキャラがモブなどであちこちに出ているという側面もあります)。