「クリル(千島)列島を日本に返すつもりはない」というプーチンのメッセージを無視し続ける日本のマスコミ

もう何度も何度も、数えるのが馬鹿馬鹿しいくらい繰り返されてきたのですが。

プーチン露大統領:北方領土問題で妥協点見いだせる-インタビュー

タイトルでは交渉が進むかのように見せておいて、本文中のプーチンの発言、

同大統領は1956年の日ソ共同宣言によって4島をめぐる対立はほぼ解決していたものの、「日本側がその順守を拒否し、その後ソビエトが基本的に無効にした」ことで状況が変わったと指摘。

この発言を無視しています。要するにこの共同宣言での「平和条約締結後に、歯舞群島と色丹島を引き渡す」ということはない、つまり「2島だけでも返還するつもりはない」と言っています。さらにプーチンは過去にも何度も「クリル諸島(千島列島)は、第二次大戦の結果ソ連(ロシア)の領土になったことを認めるべきである」と日本に要求しています。

なぜか日本とロシアの“北方領土交渉”では(実際には交渉というレベルですらないと思いますが)いかにも「進展するぞ」という煽りをつけたような見出しのニュースばかりです。そのほうが「お、いよいよか?」と思って視聴者に見てもらえると思っているからでしょうか? ですが真実は全く逆です。プーチンは島を日本に返す気は全くありません。彼が欲しいのは、日本からの北方領土などへの投資だけです。

そもそも現在のプーチン政権下でのロシアは、過去には越えていない一線を越えました。それはウクライナからの、クリミア半島の奪取と併合です。要するに武力をちらつかせ(時には堂々と行使し)ロシア系住民が多い地域を、本国(ウクライナ)政府も、その他多数の国々の承認も得ないままロシア領としたのです。クリミア半島は、黒海とアゾフ海を結ぶ場所にある戦略的拠点であり、この二つの内海を抑えるのに重要な場所です。そのためソ連崩壊後、クリミア半島がウクライナの土地となってからも、ロシアはウクライナから租借してクリミアに海軍基地を置いていました。

ですがウクライナが西側に接近し、NATO加入も目指そうとすると、ロシアは行動に出ます。元々この地域はロシア系が多かったため“住民の意思”という名目の元、力尽くでクリミア半島を抑えました。もちろんクリミアの住民投票の結果がどうであろうと、それだけで土地が別の国に行ったり独立国家になったりすることは国際的に認められていません。分離独立が国際的に認められるのは元の国が承認した時で、例えば国際的にも認められているスーダンからの南スーダン独立は、“一応”当時のスーダン政府自体が独立を認めたからです(“一応”というのは、それまでに内戦と和平合意があったからですが)。承認無しにいちいち“住民が望むから”と独立を認めていたら「国に税金を支払いたくないから独立する」というようなことが、下手をすれば個人単位で起こってしまいます(実際にそんな個人もいますが、もちろん違法です)、さらに多民族国家や複数宗教がある国家などなら、すぐ分裂、はては内戦に発展しかねません。ですから今回のロシアによるクリミア半島併合をウクライナはもちろん認めませんでしたし、ウクライナの法でも、クリミアの勝手な独立というだけでも違法です。

で、この問題と北方領土問題がどう繫がるか。要するに「ロシアは力で奪った領土を手放さない」ということです。そもそもそれ以前、第二次大戦で戦勝国となったソ連は勝ったのをいいことに、ヨーロッパの地図を都合良く書き換えました。ポーランドの国土の東側をソ連領にする、“ポーランドを西にスライドさせて、ソ連領を増やす”ということをやってのけたのです。同様にソ連は、“ドイツに協力した”という名目でフィンランドからも領土を奪っています(もともとはフィンランドがドイツに接近する前、ソ連が先にフィンランドを侵攻したのですが。いわゆる冬戦争です)。

そんなわけでソ連(ロシア)は、「力で奪った土地は自国の領土」という姿勢を貫いています。まあこれは、ローマ帝国のころより続く幾たびの戦争でころころ国境線が変わっているヨーロッパの歴史性もありますが、ともかく同様の理屈で「敗戦国である日本に領有権を主張する資格はない」というわけです。そもそもソ連は、サンフランシスコ平和条約に調印すらしていません。だから、「昔から日本の領土だった」といった歴史的経緯なども、どうでもいいのです。

そして日ソ共同宣言が行われた1956年、ソ連は日本を「反米国家にして在日米軍を撤退させ、東側に引き込む」ことを狙っていました。その餌として北方領土が使われたわけです。ですがこの可能性が皆無となった今、日ソ共同宣言での歯舞と色丹返還の話もなかったものにしようとしている(ロシアに言わせれば日米安保の改定で“日本が共同宣言を遵守していない”)わけです。

さらに千島列島は、オホーツク海を囲む“天然の海の壁”であり、千島列島の最南端である北方領土は、クリミア半島と地政学的に近い状況であると言えます。もしこれらの島を失えば、“オホーツク海をすぐアメリカの潜水艦がうようよし始める”とも言われています。さらに、この領土問題でロシアが弱腰な姿勢を見せれば、クリミア半島でも後ろに引かざるを得なくなるという懸念も向こうにはあります。ですからロシアが北方領土を手放すことは、少なくとも現プーチン政権下では“絶対にありません”。

なのにどうして、これらの現実を無視して、マスコミは“北方領土問題は進展する”ような幻想を書き続けるのでしょうか……。