ぴあによる、押井守監督への連続インタビュー“師匠たちに教えられたこと”、最終回はやはり押井氏が常に“師匠”と呼んでいる鳥海永行氏についてです。例のごとくブラウザから前後編閲覧可能。
押井守 師匠たちに教えられたこと(第9回) 鳥海永行【前半】 – ぴあ
いや、真逆です。師匠を裏切った形になった(笑)。僕を認めてくれていた師匠はあるとき、自分がやることになっていた新番組『太陽の子エステバン』で、監督補佐をやらないかと言ってくれた。「オレが上から見ていてやるから、お前がこのシリーズを回してみろ。実質的にはお前が監督をするんだ」というわけですよ。師匠の監督育成講座の最終章だよね。この企画にはぴえろも力を入れていたし、プロットもとても面白い。しかも1話で使えるセルの量も1万枚以上あったんじゃない? もちろん、僕もヤル気ですよ。
ところが! 今度はぴえろの社長の布川(ゆうじ)さんに呼ばれて「押井ちゃん、今度『うる星やつら』のTVシリーズをやるんだけど、監督やる?」って。僕は一瞬考え込んで「やります」と答えちゃってた。
しまった!とは思ったし、実際、師匠はむくれまくった。「オレはそんなこと、聞いてねえぞ!」というわけですよ。結果的に僕は『うる星やつら』のほうを選択したんだけど。
押井守 師匠たちに教えられたこと(第10回) 鳥海永行【後半】 – ぴあ
さっきの『オンリー・ユー』のときのことじゃないけど「誰もがものをいえない場では、最初に声を発した者の勝ち」ということとか「自分から辞めるな」ということも教えてもらった。つまり、主張が通らなかったから辞めた、辞めさせられたという体裁を保てということ。そうすればスタッフの信用を失わないし、むしろ意志を曲げなかったと賞賛されるかもしれない。平たく言っちゃえば「ケンカをふっかけて辞めろ」ですよ。これは大変、役に立ちました(笑)。
「勝てない勝負は、早々に逃げ出せ」もね。作品と心中する必要はないからって。あとは「やりたいヤツにやらせるな」も役に立った。「演出家であろうがアニメーターであろうが、自分のやらせたいヤツにやらせろ。それが監督のできることだ」というのもある。その考えが、師匠が才能のないと思った者を早々にクビにしていたことにも繋がるんだけどね。
こうやって並べていると、演出のやり方などを教えてもらったというより、監督としての生き方を教えてもらったことが分かってくる。監督としてどう振る舞うか。これを教えてくれたことが、最大の恩になるんじゃないかな。