立東舎より8月に発売される『押井守の映画50年50本(仮) 』に掲載予定のコラムが更新されています。押井氏が『逆襲のシャア』を評価していることは結構知られていますが、そのことについて。書籍にはWebに掲載されたもののロングバージョンを収録とのこと。ところで『逆襲のシャア』もUHD BD版が出ていたんですね。
押井 そもそも伊藤くんはなぜ『逆襲のシャア』を見に行ったんだろう? 当時『機動警察パトレイバー』の最初のOVA(89-90)の脚本を書いていたから、参考になると思って見に行ったのかもね。その伊藤くんがボロクソに言ったから、興味が湧いた。だから見に行った。見たら、ちょっと驚いた。「富野さん、遂に本音で作ったんだ!」ってね。この『逆襲のシャア』は、富野さん会心の1作だと思うよ。このあとも『機動戦士ガンダムF91』(91)とかを作ったけどさ、これがいちばん富野さんらしいというか、富野さんの本音がモロに出ている。それは何かといえば、シャアの「人類を粛正してやる」という台詞のことだけど。僕はすごく気に入った。富野さんはそこまで人類に絶望しているんだなって分かったから。
押井 根性が曲がっているという表現は正しくないけど、富野さんは「アニメ屋ごときが」とか「自分は作家になれなかった人間ですから」とよく言うでしょ。「所詮はおもちゃ屋の宣伝映像を作っているだけですから」とかね。むかしはアニメーションという業界自体が社会の吹き溜まりではあったんだよ。挫折した人間が寄り集まって傷口を舐め合っている感じだった。そういう意識が横行していた時代だったし、富野さんはその意識をいまだに引きずっている人。僕がアニメ業界入りした頃もそうだったんだけど、僕はその自嘲的な意識がイヤでイヤで耐えられなかった。「なんでそんなコンプレックスを持たなきゃいけないんだろう?」と僕は思っていたし、いまもそう思っている。自分の仕事にもっと自信を持っていいはずだよ。う〜ん。だから、富野さんのことは好きだけど、「会いたいか?」と言われると、微妙だね(笑)。会って、ケンカになったこともある。うちの姉ちゃん(最上和子)が2007年に上野の大ロボット博で舞踏をやったときに、富野さんが見に来てたんだよね。そのとき、ちょっと揉めてケンカになった。
──ええ!?
押井 本当にケンカになった。わめき合いに近かった。「うるさい!」とか言って。それでね、もう会うこともないかなと思っていたんだけど、しばらくしたら富野さんが後ろから近づいてきてね、「押井ちゃ〜ん、さっきはゴメンねぇ」って抱きついてきた。──爆笑。
押井 猫なで声で(笑)。しょうがないので「もう分かったから。離してよ」って言って仲直りした。
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