押井守、『1917 命をかけた伝令』について語る

立東舎より、押井守監督の映画評集『押井守の映画50年50本』が、電子書籍版を含めて発売されましたが、それを記念して押井氏が今度は『1917 命をかけた伝令』について語っております。

押井 美しい戦争映画だと思った。戦争映画を形容する言葉としては矛盾しているんだけどさ。撮影は本当に見事だった。川辺のシーンとか、自然が美しかったよね。こんなに綺麗な戦場があるんだなって。もちろんカメラマンのロジャー・ディーキンスが美しく撮っているからなんだけどさ。それでいて、その川辺に死体がゴロゴロ浮いていたりする。美しいだけじゃなくて、凄味のある映像だった。あとはやっぱりね、自然の美しさも含めて、ロケ撮影のよさが出ていると思った。クリストファー・ノーランの『ダンケルク』(17)もそうなんだけど、戦争映画はお天道様の下で撮るべきなんだよ。ロケ撮影は、雨で中止になったら日本でも1日100万円単位でお金が飛ぶので、プロデューサーは総じてロケ撮影を嫌がるんだけどさ。僕が『ガルム・ウォーズ』(16)でカナダに行ったときも、僕らがスタジオを探してるときにローランド・エメリッヒが『ホワイトハウス・ダウン』(13)を見学に行った撮影スタジオで撮っていた。カナダでいちばん大きな撮影スタジオをまるごと借り切って、ホワイトハウスを実寸で、もちろんパーツに割るんだけどさ、屋根とか応接室とかを、大工さんが600人がかりで造っていた。で、背景は全部ブルーバック。屋内撮影だから、景色は、あとで合成する。オープンセットで空の下で撮ればいいじゃんと思ったんだけど、「天気が怖いから」と言っていた。「雨で中止になるくらいなら、合成の手間暇のほうが安い」という話だった。あれだけの規模になると、1日100万円じゃ済まないからね。

──それはそうですよね。

押井 大作になればなるほど、屋内撮影にならざるをえないんだなと思ったし、『ガルム・ウォーズ』も当初は「オール屋内撮影にしてくれ」と言われたんだよ。CGを合成して作っていくタイプの映画だったから、もちろんブルーバックを使うんだけどさ、来る日も来る日もブルーバックばっかりで、頭がおかしくなりそうだったよ。オール屋内撮影では無理だと分かりきっていたから、「8日間だけロケをやらせてくれ。やらせてくれないなら日本に帰る」とお願いして、8日間だけロケを敢行したんだけど、最高だった(笑)。本当にたのしかった。ロケをやってはじめて、合成に意味が出てくると思っているし。だからロケをやってよかったと思っているんだけど、エメリッヒは『ホワイトハウス・ダウン』の屋内撮影を1年がかりだからね。よく耐えたなと思うよ。