【機動警察パトレイバー】_イングラム_を現実で搭乗/操縦できる機体の開発をスタートしたことをお知らせします。|MOVeLOT株式会社のプレスリリース
国内ロボット企業が機動警察パトレイバー「イングラム」搭乗実機を開発へ - ネット「夢が現実に!」 | マイナビニュース
「パトレイバーEZY」“搭乗/操縦できるイングラム”の機体開発スタート - AV Watch
すでにあちこちで報じられておりますが、実際に搭乗・操縦できる“イングラム”を、ベンチャー企業が開発開始し、2024年夏頃の一般公開を目指す、というニュース。
んで盛り上がっているところに冷や水をぶっかけるような話をしますね(私のいつものことですが)。
すでに何度も何度も延期され“早くて”2024年公開とされている『機動警察パトレイバーEZY』ですが、そのタイアップの一環としてでしょう、実際に「イングラム」を作るという話です。過去に何度も「デッキアップイベント」を実施しているのは、もとは実写版『THE NEXT GENERATION パトレイバー』撮影のために作られたモックアップで、キャリアー(輸送車)の台座を起こすことによって「起こす」ことはできますが当然自分では動きません。ですが今度は搭乗も、動作もするものを作ろうという話になっています。
すでに「人が乗れるロボット」はいくつか実現しており、そのひとつに『TNGパトレイバー』にも出てきたクラタスがあります(二足歩行ではありませんが)。
また、このクラタスはアメリカのロボット企業Megabots社から挑戦状を受け、実際に対戦したという話もあります。
そしてクラタスはAmazonにて「在庫1点」「1億2000万円」で出品されました(クリスマスセールとして9800万円になっていたこともあったらしい)。現在のAmazonの販売ページでは在庫切れになっていますが、本当に売れたのかどうかは不明です。クラタスを制作した水道橋重工が現在何をやっているのかもよくわかりません。
一方最近ではツバメインダストリという会社が、「アーカックス」という搭乗操作型ロボットの受注生産を開始したことが知られています。こちらは価格4億円。アーカックスはあらかじめビジネス展開を考え、超富裕層をメインターゲットとして、初めて実際に搭乗可能なプロダクトとして販売することで、新たなビジネスブランドを確立する
としており、主なターゲットである海外の超富裕層とはどんな人たちなのかというと、10億ドル(1,400億円以上)の資産を持つ人たちのことだ。その層は世界でも増加傾向にあり、それに比例して、フェラーリやランボルギーニといった超高級車の販売台数も伸びている。「その何%かを取っていきたい」と考えているという。
だそうです。
で、ここからはあくまで私見ですが、夢もキボーもない話になります。
まずこれらのロボット、二足歩行ではありません。それでもこれだけ金がかかっています。そして二足歩行がどれだけ技術的に難しいかを改めてここで書くまでもないでしょう。そして二足歩行にするならばある程度の「高さ(足の長さ)」が必用とされますが、「二足歩行」は「転倒しやすい」構造です。どっしりと落ち着いた形にしたら、すり足で歩くことすら難しくなりますし「じゃあ足にローラーを」とか言い出したら本末転倒。そして「高くなり、転倒しやすい」ということになれば、本当に転倒したら簡単に死人が出る大事故に繋がります。これに腕などの稼働する上半身パーツがついたらさらに重量もコストも上がります
「人が乗って操縦できる二足歩行ロボットを作れるか」と言ったら、まあ作れるでしょう。ですがいくら金がかかるかわかったものではありません。そしてこれが最も重要な点だと考えていますが「それを何に使うの?」という話になります。
近年ではベンチャー企業などが「こんなのを作る」というプロジェクトを立ち上げることは珍しくありません。ですがそれらは「難しいかもしれないが、それが実現できたら使い道がある」というものがほとんどであり、ゆえに出資者もリスクを認めつつリターンを期待して投資するのです。ですがこのイングラムは「何に使うの?」という疑問がまず出てきます(そもそも『ガンダム』の何分の一かというネームバリューの『パトレイバー』で……)。ツバメインダストリのアーカックスは「富裕層の趣味」あと別の記事では「遊園地などでの使用も想定」とあったと記憶していますが、要するに「(現時点で)実用性はない」と言い切ってしまっているわけです。「空飛ぶ自動車」以上に先行きが見えません。
「技術開発はロマンから始まる。月面着陸もそうだった」という人もいるでしょう。ですがあれは軍事などさまざまな分野への応用が可能だったことが最初からわかっていたのもあって、アメリカは国家として大量の予算をつぎ込んだのです。ロケットはそのまま弾道ミサイルの開発技術になりますし、宇宙船は偵察衛星などの技術に応用できます。ですがアポロ計画も、月面着陸という目的を果たした後に20号まであった計画は縮小されて、17号が最後の月面着陸となりました。
そして現在の宇宙開発は「いかに予算をかけずに行うか」ということが重要視されています。「火星着陸時に、エアバッグで全体を覆って機体を守る」という手法を採ったマーズ・パスファインダーなどがその典型でした。つまりは「火星に着陸して探査するという目的のためなら手段は問わない」という考えがあったのです。アポロ計画だって、従来想定されていたやり方を色々とひっくり返す発想が多数詰め込まれていました。アポロ月着陸船(LEM)は、それまでのSF作家などが全く想定していなかった形状でした。
ですが日本の大型ロボット開発は「手段も目的も問わないから、まず人間型にする」という全く逆のアプローチというか手段も目的も見失ったものであり、ここに「日本人に課せられたアトム、ガンダムの呪い」があるとも思っているのですが、要するに人間型ロボットに対する過剰な憧憬、崇拝、盲信です。「すべての理由を人型ロボット実現のためにこじつけて語り、具体的な必要性などを論じていない」のです(アニメ内などフィクションの設定ですらそうです)。
ツバメインダストリのアーカックスは「フェラーリなどの高級車を買うような大金持ちのうちのいくらか」が買ってくれることを期待しているようですが、フェラーリのよう当然公道も気軽に走れる(それも最高級の性能で)のとはわけが違うと思うのですが……。まあ私みたいな悲観主義者はどんなビジネスもまず悲観的に見てしまうんですけど。
話を「実際にイングラムを作る」に戻しましょう。そもそも“パトレイバー”は「レイバー(歩行ロボット)が多数稼働するようになって、レイバーによる事故や犯罪も多発するようになったため、パトレイバーが作られた」という設定ですが、ロボットによる事故も犯罪も、そんなのができる大型ロボット自体がない現在の状況からパトレイバーを作ろうというのだから完全に逆ですね。それに言うまでもないですが技術は繰り返し作ることで蓄積され、沢山作られることで量産効果も生まれて価格が安くなります。なのに劇中設定でも「予算食い」とされているパトレイバーをいきなり作るとは……しかも現在青写真も提示できていないのに1年で。「アニメ設定と同じサイズ、形状」にしないのであればどうとでもなるでしょうが……。
今回MOVeLOTが発表したのは、当然『パトレイバーEZY』とのコラボによる話題性を重視している面が大きいためでかでかとぶち上げたのでしょうが、はたして……。もちろん私も希望的には失敗で終わってほしくないんですけどね。
それよりも「中国に対抗できる、中国を抑止できる軍事力を日本は持てるのか」ということを考えるだけで憂鬱になる私です。
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