『ケルベロス 鋼鉄の猟犬』のフィギュアが海洋堂より発売

なんで今?

押井守氏曰く“一部の人々に強烈なフェロモン”を発し続けてているという、いわゆる“ケルベロス・サーガ”(後付けの名前)に出てくる強化装甲服「プロテクトギア」。未だに人気があり、特にワンフェスのコスプレでは必ず目撃報告が上がるほどですが(いつもご苦労様です)、またもやフィギュアが海洋堂より発売されます。しかも『ケルベロス 鋼鉄の猟犬』バージョンが。このタイトルを聞いて「ああ、そんなのあったな」と思うでしょうか、それとも「何それ?」と思うでしょうか。ともかく『鋼鉄の猟犬』バージョンのプロテクトギアが、オリジナルの黒だけではなく、白と赤のカラーバリエーションも含め、1体12,100円にて2023年12月発売予定、海洋堂のサイトでは現在予約が行われています

amazonでの予約も始まりました。若干安いですが色は黒のみ。

プロテクトギアは、もともとは「特撮番組のかぶり物みたいなのがほしい」というネタ的な話から、映画『紅い眼鏡』のために作られたものですが(もともと『紅い眼鏡』は千葉繁氏のファンクラブ向けボイスドラマという企画から始まって話が大きくなり、映画になったものです)、出渕裕氏がデザインしたそれは完全にドイツ軍風意匠でした(低予算で造形したこともあり、胸には電卓を仕込んでいて「カネがないから弾数と予算の計算をしながら戦っているんだ」とか言っていたそうですが)。ともかくそのドイツ軍風デザインに合わせて「アメリカではなく、ドイツに占領された日本だからこういうものになった」などと世界観についても後付け設定がどんどん増えていきます。『犬狼伝説』『犬狼伝説 紅い足痕』『ケルベロス 地獄の猟犬』『人狼 JIN-ROH』と作品によって微妙にデザインもデザイナーも変わっていますが、ともかく“ドイツ軍風”デザインは継承されていきました。

そして、ラジオドラマとして『ケルベロス 鋼鉄の猟犬』が制作されました。これはまだネットラジオが普及していない2006年に文化放送からの深夜地上波ラジオとして配信されたものです。さすがにラジオっ子でなかった私は(北海道にいたため関東の文化から隔絶されていたというのもあり)「わしらはあの頃は、放送時間になったら必死にラジオのアンテナを伸ばして良い電波を掴もうとしながら聞いていたものじゃ……」という思い出話もできず「ラジオドラマなんて需要あるの?」と思ったものでした。

このドラマ、一応ネット配信も行われたのですが、“一部プロバイダーを使用するユーザーのみ視聴可能”という物凄く変則的なものでした。ネット配信での課金視聴システムなどができていなかった当時の苦肉の策だったと思われますが、運良く私はその「一部プロバイダー」を使っていたためネットで聞くことができたのですけど、「あれ? この内容前にやってなかったか? 今回は再放送?」かと思ったら「押井氏が、すでに書いたことを忘れて同じネタのウンチクを繰り返し書いてしまった」という事態も発生しました。「東部戦線の話はほぼ史実通りに進むが、結末は異なる」という事前の発表を聞いて「まさか末期にドイツが原爆開発に成功して無理矢理ソ連との停戦に成功したというオチじゃないよな」と思っていたら本当にそうなったという展開に拍子抜けし、「なにこの、強引に話を終わらせるための『あなたを愛しているの!』ってセリフ!? いままでウンチク語っていただけだろそんな恋愛心理描写どこにあった!?」と唖然としたという記憶などが残っております。他にも何かあったかもしれませんがなにせ大昔のことなので、ともかく私の記憶ではそんな感じです。

そんなグダグダもあったためか、当初は本作のアニメ化や映画化も目論まれていたようですが、結局『鋼鉄の猟犬』はCDすら出ないまま現在聞くことは不可能の、幻の音源と化しました。榊原良子氏や大塚明夫氏など実力派声優が出演していたのですが……。それが辛うじて小説として世に出て、現在も手軽に読むことができるのが『ケルベロス 鋼鉄の猟犬』です(絶版にならない電子書籍って素敵!)。

ともかくともかく、ラジオドラマ『鋼鉄の猟犬』のために末弥純氏によって新たなプロテクトギアがデザインされました。それが今回フィギュア化されたもので(立体化自体は前例あり)、「プロパガンダのための儀仗兵的装甲服」という設定から、甲冑寄りなデザインになっております。しかしオリジナルのラジオドラマはもう聞くことができないのに、プロテクトギアだけ生き残り続けるとは何というか。