野良犬の塒
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DEBT OF HONOR 日米開戦

上巻表紙 下巻表紙
注意 新潮文庫の余りに愚かなタイトル訳を無視し、ここでは『名誉の負債(日米開戦)』『大統領命令(合衆国崩壊)』と正しい訳を使用しております。

ストーリー

アメリカとロシアは遂にICBMを全廃、こうして核の時代は終わりを告げた。
一方ある日本自動車の事故により、アメリカ世論は一斉に動き出す。そして「貿易改革法」という法律が制定され、日本自動車の一斉締め出しが始まり、日本は経済的に窮地に立たされる。
そして日本の財閥の巨頭矢俣頼造。1944年サイパンの生き残りである彼が父祖の島の奪還とアメリカへの復讐を決意した時、世界は新たな冷戦の構図を映し出す。

解説

「日米開戦」などという巷に溢れるいい加減な架空戦記、もとい妄想戦記的といえる商業主義な邦題にされてしまっており、この作品を極めて安っぽい感じにさせてしまっているが、原題はDEBT OF HONOR、即ち「名誉の負債」である。
サイパン島の生き残り、日本の政府を動かす財閥の巨頭である矢俣頼造は、サイパン島を再び日本の領土とする事を目論む。そして新たな貿易法により日米関係が険悪化する状況下でこの計画を実行に移した。自衛隊によるマリアナ諸島の電撃的占領、そして奇襲による米機動部隊の封じ込めである。

過去のこの手の作品、アメリカと日本が戦争を行なうというのは良くあったが、大抵いい加減な戦力比、非常識な決断を下す司令官、SFとも魔法ともつかない超兵器等が出てくるのが良くあるパターンであった。しかしクランシーはこのテーマを実にリアルに描いている。それは日本が軍事的政治的経済的奇襲によってアメリカを「戦えない状態」に置こうという物である。この作品ではまた現在のアメリカ人の日本観というのも現れていて興味深い。

この作品もライアン・シリーズに当たり、ライアンやクラークといった人物が活躍している。この作品ではライアンは国家安全保障問題担当大統領補佐官として、様々な問題を解決しようと尽力している。また日本語訳はEXECUTIVE ORDERS(邦題 合衆国崩壊)はこの作品の続編に当たる。

この作品からは日本語版の出版は文藝春秋から新潮社に変わっており、訳も長らくライアン作品の翻訳を行なっていた井坂氏ではなくなっている。個人的には極めてこれが残念で、この作品の訳では違和感というか、何かそういった物を感じており、井坂氏の訳が見事だったという事を現す結果となってしまった。

更にこの作品は本国、即ちアメリカでは出版はWITHOUT REMORSEの方が先であり、DEBT OF HONORは出版は後である。だからこの作品をこれから読もうとする人は、それにあわせて「容赦なく」を先に読むほうが望ましい。どうも私には新潮社の態度そのものがいい加減に思える。例えば下巻表紙のF-117だが、この作品にはこの機は登場していない筈だが……。

出版情報

日米開戦
著者 トム・クランシー
訳者 田村源二
出版社 新潮社
上巻 amazon.co.jpで購入
下巻 amazon.co.jpで購入

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