野良犬の塒
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EVERY MAN A TIGER トム・クランシー 暁の出撃

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ストーリー

1991年湾岸戦争。ヴェトナムにおいて誇りを失ったアメリカ軍。この本はその中でもアメリカ空軍が再生し、中東の空に戻ってきた物語である。前作『熱砂の進軍』と同様に、ヴェトナムでの挫折と敗北を経験し、そして中東での戦いで指揮官を務めることになったチャック・ホーナー将軍から見た湾岸戦争を描く。

解説

この本の主題は湾岸戦争の航空戦だが、トム・クランシーと並んで共著者になっているチャック・ホーナーの経験したヴェトナム戦争の事についても書かれている(これは前シリーズの『熱砂の進軍』と同じだ)。そしてこれを読んでいると改めて我々が、ヴェトナム戦争のことを何も理解していないということを思い知らされる。ヴェトナム戦争は『アメリカの帝国主義的干渉政策』等という左側の人間の言うような単純なもの(大方の日本人はそれを信じているが)ではなかった。ヴェトナム戦争の政治情勢は第二次大戦よりも遥かに複雑で、ヴェトナム戦争を簡単に説明しようとする人間がいたとすれば、そいつは何も知らないか嘘吐きのどちらかだ。

湾岸戦争に関する新聞記事を手当たり次第に読んでいた(私のような)人間ならチャック・ホーナーの名前は見覚えがあるかもしれない。シュワルツコフが司令官に着任する前に、先遣として派遣部隊の指揮官になっていた空軍中将である。そして彼がサウディアラビアに大量のアメリカその他の軍を投入するに当たって解決しなければならなかった多くの問題が書かれている。
例えば宗教についてだ。イスラム教圏での女性の地位については言うまでも無いが、アメリカ軍には多くの女性兵士が含まれ(全体の10~20%)、車まで運転するのである(イスラムでは女性が車を運転するのは禁じられている)。例えばこの問題については女性兵士は勤務中は制服を着ており『女性』ではなく『兵士』であるから車を運転することもありうる、だが勤務中で無いときには『兵士』ではないのでイスラムの考えを尊重し車を運転することはしない、というようにホーナーとサウディ側とで事が決められていった(ホーナーは中東の文化等に通じていた)。

『TVゲームのような』航空戦の背後には何があったのか? 実際の戦争では、爆弾を落す位置を決めたらそこまで飛行機を飛ばして落すだけというわけには行かない。ATOと呼ばれる綿密な計画が必要なのだ。その目標は爆弾を落すに値する目標か? 今破壊しなければならないのか、それとも後回しにしても良いものか? そこの防備は? リスクに似合うだけの価値のある目標か? そこを攻撃する手段は? どの機種にどういった種類の兵装で向かわせるべきか? その航空機は何処から持ってくるか? 何時に出撃して何時に目標に到達するか? その機の支援は? 空中給油の必要は? 同時間に味方機が同じ場所にいて空中衝突する危険は無いか? 天候は? 脱出は?
湾岸戦争においてはATOは、作戦計画の平均二日前に立てられていた。その二日の間で状況は勿論変化する。その間に部隊が移動したり、天候が変化したりする可能性もある。そういった事が発生したら勿論計画を変更しなければならない。ゲームとは違うのだ。

映像的に派手な為に選ばれる、ニュースに出てくるTV画面の映画風の映像とは違う戦い、空軍の戦いの本質というものが見えてくるだろう。

出版情報

トム・クランシー 暁の出撃
著者 トム・クランシー
チャック・ホーナー
訳者 白幡憲之
出版社 原書房
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