「指輪物語」名前だけなら大抵の人が知っているだろうし、その与えた影響の大きさも知っている人が多いだろうが、もう一度振り替える事にする。指輪物語(原題"The Lord of the Rings")は1954年に初めて出版された物語である。それは当時極めて異質だった。それは「本格的に大人向けに書かれたファンタジー(妖精物語)小説」だったからである。当時その分野は(今でもその傾向があるが)ファンタジーは子供向けの御伽噺であるという常識に挑戦するものであったからである。期せずしてそうなってしまった経緯はあるのだが、結果としてこの物語はそうなってしまった(その経緯については別のところで語るとする)。そして様々な議論を沸き起こした。賛成派はこの物語の感動を絶賛し、一方反対派は現実逃避などとこき下ろした。そしてこの本がアメリカで発売されると爆発的な人気を見せ、凄まじい状況となった(その辺の事については「或る伝記」に詳しい)。この作品の文学的評価はともかくとして、知名度の高さは御分かりになられると思う。
知名度だけではなかった、その影響力も凄まじかった。指輪物語の影響で「近代ファンタジー」が確固とした地位を得、そして「中つ国的世界観」も普及するようになる。例えば、テーブルトークロールプレイングゲームの「ダンジョンズ&ドラゴンズ」に登場する種族、エルフとドワーフは、正しく指輪物語の設定から取られている。それまでエルフもドワーフも小妖精、子供向けの物語に登場する妖精でしかなかったが(北欧神話などの土台はあるものの)、現在のようにしっかりとした外見、性格、由来などの設定を持った「種族」として描かれたのはトールキンの作品が始めてである。ダンジョンズ&ドラゴンズには「ハーフリング」という種族が登場するが、これは実はホビットそのものなのである。ホビットという名前が著作権の関係で使用できなかった為、指輪物語作品中で人間達がホビットを表わすのに使っていた言葉"Halflings"(日本語版では「小さい人」と訳されている)を使用しただけなのである。その為、名前以外の設定、即ち生活習慣や外見はホビットと同じになっている("Wizardry"ではホビットという名前がそのまま使われているが)。
これを初めとして、様々なTRPGや小説でトールキンの物語の設定が使われるようになった。今知られているエルフ、ドワーフ、ホビット、オーク、ゴブリン、トロル、エントなどは全てトールキンの設定が元になっている。またファイナルファンタジーですっかり有名になったミスリルも出展は指輪物語である。それらの原点を知るべきでもこの作品は読まれるべきなのである。