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あの決定的な敗戦から××年――
占領軍統治下の混迷からようやく抜け出し、国際社会への復帰を図るべく「高度経済成長」の名の下に強行された急速な経済再編成が、その実を結びつつある一方で、この国は多くの病根を抱えていた
わけても強引な経済政策が生み出した失業者の群れと、その都市流入によるスラム化を温床として激増した組織的凶悪犯罪は、これに対処すべき自治体警察の能力を超え、深刻な社会不安を醸成していた
自衛隊の内政への干渉を抑え、合わせて、国家警察への昇格を目論む自治警内部の動きを牽制すべく、政府は第三の道を選択する事になる。首都圏にその活動範囲を限定しつつ、独自の権限と強力な戦力を保有する国家公安委員会直属の実働部隊。首都圏治安警察機構、通称<首都警>の誕生である。
その迅速な機動力と強大な打撃力で、首都を舞台に治安の番人としての栄誉を独占し、第三の武装集団として急速に勢力を拡大した<首都警>。しかし当面の敵であった武装強盗や暴力団に変わり、組織された反政府勢力=都市ゲリラが抬頭するに及んで状況は大きく転回することになる。
様々な立法措置によって非合法化を余儀なくされた政治団体、わけても<セクト>と俗称される武装集団と<首都警>の中核をなす「特機隊」との闘争は苛烈をきわめ、時に市街戦の様相を呈することもしばしばであり、激しい世論の指弾を浴びた。
峻厳な正義の守護者への賛辞は権力の走狗への呪詛に変わり、相対的安定=繁栄への期待に向けて流れ始めた世情の中で「特機隊」は急速にその孤立を深めつつあった。
強化服と重火器で武装し、<ケルベロス>の俗称で犯罪者たちを震えあがらせた特機隊の精鋭たちもその歴史的使命を終え、時代は彼らに新たな、そして最終的な役割を与えようとしていた。
押井氏がバンダイビジュアルとのミーティングに呼ばれ、その時提示されたのが攻殻機動隊の企画だった。だがその時押井氏の鞄の中には提出されなかった企画書があり、それが犬狼伝説のアニメ化の企画だったのである。
そして攻殻機動隊が完成に近付きつつある頃、再びこの企画が動き出した。当初は当時コミック化されていた全6話をOVAでやるという話だったのだが、どうせならしっかりしたものを作ったほうが良いということになり、劇場版ということになった。それなら新たに脚本を起こさねばならなくなるが、押井脚本の押井監督作品というものにバンダイビジュアル等が難色を示した(押井氏が暴走するのを恐れたのだろう)。いつも押井監督作品で脚本を書いている伊藤和典氏は『犬』には手を出さないことにしているし、押井氏は別の人に、氏自身の世界であるこの物語のの脚本を任せる心算も無かった。そこで押井氏は自分が脚本を書くかわりに監督は別の人に任せろという条件を呑み、そこで監督として白羽の矢が立ったのが、『OVA版』犬狼伝説のうちの1話を任されるはずだった沖浦啓之氏である。
沖浦氏はOVAから突然劇場作品になったことに驚き躊躇した。そこで沖浦氏は押井氏に、「若いキャラクターを出す事」などの脚本に対しての注文を付けたのである。恐らく押井氏はその要求を拒むだろうから、そうすればそれを口実にして監督を降りる心算だったらしい。
ところが押井氏はその脚本についての要求をあっさりと呑んでしまい、沖浦氏も後には引けなくなった。押井氏は脚本を上げると後のことには全く関与せず沖浦氏に任せ、こうして押井守原作・脚本、沖浦啓之監督の映画『人狼 JIN-ROH』が作られることになる。
…というのが色々な雑誌などに掲載された情報を元にした、人狼製作の経緯のようだ。
映画は1998年末には完成した。だが配給の問題で公開はずるずると遅れることになる。松竹の経営危機やDTS対応映画館(人狼はDTSで収録された)の確保の難しさなどがその原因であったらしい。
一方、釜山ファンタスティックアニメーションフェスティヴァル(韓国)、99年ベルリン国際映画祭(ドイツ)、ファンタスポルト 1999(ポーランド)、ブリュッセル国際ファンタジー・SF・スリラー映画祭(ベルギー)、アンシー国際アニメーションフェスティヴァル(フランス)、UCLA(カリフォルニア大学ロスアンジェルス校)アニメフェスティヴァル(アメリカ)、シンガポール映画祭(シンガポール)、モントリオールFANT-ASIA映画祭(カナダ)と世界各地の映画祭で公開され、ファンタスポルト 1999ではJury's Special Award(審査員特別大賞)及びAward for the Best Anime(最優秀アニメーション賞)を受賞され、その他の映画祭でもいろいろ賞を獲得。1999年12月にはフランスで公開されてル・モンド(Le-Monde)の一面に写真付きで紹介され、2000年2月にはドイツでの公開も決定した。
日本では毎日新聞の毎日新聞映画賞でアニメーション賞を獲得することになる。他のエントリー作品が全て既に公開済みなのに対して、人狼のみが未公開という状況の中での『珍事』であった(規定で、ノミネートできるのは公開された作品のみとなっているのだが、アニメに関してだけは実験アニメなどの為の配慮だろう、公開前の作品でもエントリー可能となっている)。
アニメーション部門選定委員日本の一般に対する初公開は、嘗て『ケルベロス 地獄の番犬』が公開されたゆうばり国際ファンタスティック映画祭となった。劇場公開は2000年初夏にテアトル新宿、テアトル梅田、名古屋シルバー劇場を始めとしたテアトル系で、そしてミニシアター系を中心として公開。上映が非常に好評なため、当初の予定より大幅に公開館は拡大された。
石上三登志、おかだえみこ、島村達雄、鈴木伸一、登川直樹、長谷邦夫、三留まゆみ、森卓也、渡辺泰アニメーション賞「人狼 JIN-ROH」(バンダイビジュアル/プロダクション・アイジー)
ほかの参加作品は、「MARCO 母をたずねて三千里」「上京物語」「のび太の結婚前夜」「クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦」「ハッピーバースデー 命かがやく瞬間」「ゼノ かぎりなき愛に」「ホーホケキョ となりの山田くん」「しらんぷり」。アニメーション映画賞は投票の結果、「人狼」に決まった。独創的な成果を評価する大藤信郎賞は、全員一致で「老人と海」のペトロフ監督らに贈られることになった。
【選評・アニメーション映画賞】実写ではもはや再現不可能な昭和30年代を舞台に“もうひとつの戦後史”を大胆かつ冒険的に描きだした「人狼」はアニメーションにおける事件である。その圧倒的な画力と構成カ、そしてアニメならではのカタルシスは、ジャバニメーションの最高峰と言っでも過言ではないだろう。原作・脚本は「攻殻機動隊」の押井守監督だが、これは天才アニメーターと呼ばれた沖浦啓之(1966年生まれ!)の恐るべき初監督作品であり、押井アニメヘの挑戦状でもある。沖浦自身が言うように「20世紀最後のセル・アニメ」であることにも注目したい。(三留まゆみ)
現在DVDが発売中。因みに人狼LDは、バンダイビジュアルが発売する最後のLDメディアとなった。
2000年5月26日朝日新聞夕刊に掲載された人狼の紹介
アニメ「人狼」、仏から逆上陸
「攻殻」作画の沖浦啓之、初監督
6月3日から東京・新宿で「絵の力で勝負」「攻殻機動隊」などの作品で知られるアニメ監督・押井守の原作・脚本による映画「人狼」が、六月三日から東京のテアトル新宿で公開される。監督は、「攻殻」で作画監督を務めた沖浦啓之。二年前に完成していたが、国内では公開に至らず、先に日の目を見たフランスでヒットした個性的なアニメ作品だ。昭和三十年代に似た架空の東京を舞台に、対ゲリラ特殊部隊隊員と少女の恋を、ち密な演出と重厚なアクションで見せる。
全身を装甲で固め、重武装で反政府組織と戦う「特機隊」の隊員・伏一貴が主人公。目の前でゲリラの少女が爆死、その姉との出会いが、彼の内面に変化をもたらすが―。
「主人公伏は、特機隊というやっと見つけた自分の居場所にふと疑問を抱く。違う場所だったらどうだっただろうか? アニメ業界という居場所を見つけた僕らに引き寄せて、押井さんの脚本を解釈してみた」と沖浦監督は語る。
「攻殻」で細密な絵作りに力を発揮した沖浦監督は、これが初演出作。装甲や銃器の描写はリアルだが、キャラクターの顔はあえて「平板」にした。「影をつけてごまかしたりせず、線も少なくして、動きで細かい感情や性格を表現したかった。今のアニメに多いパターン化した演技は、徹底して避けました」
一九九八年に完成したものの、派手さを廃したスタイルと独特のタッチから、一般受けが危ぶまれ、なかなか公開に至らなかった。ところが、昨年十一月に先行公開されたフランスでは、熱心なファンに支持され三カ月のロングラン上映に。
「出来には満足してる。『これを見ないで何を見るんだ』というくらいの思いはあります」。アニメーターとして培った職人的な技巧が、隅々まで生かされている。
「僕らも観客も、なぜアニメが好きかといえば、描いた絵が好きだから。それなら、その絵の力を見せようと思った。ハリウッドが実写映画の中でどんな映像も作り出せる今、アニメは手で描いた絵の持つ力で勝負するべきなんじゃないか」
パッケージ | 製品名 | 価格 | 備考 | 購入 |
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人狼 JIN-ROH DTS edition | 12,800 | 5.1chDTS音声とドルビー・サラウンド音声収録。スタッフインタヴュー・メイキング収録DVD及び脚本、絵コンテ集付属。2001年12月21日までの期間限定生産。 | ||
人狼 JIN-ROH | 5,040 | 5.1chドルビー・ディジタル音声(日本語及び英語)とドルビー・サラウンド音声、日本語字幕及び英語字幕収録。 | ||
人狼 JIN-ROH オリジナル・サウンドトラック | 3,045 | 作曲 溝口肇 |
編著 | プロダクションI.G |
出版社 | 青心社 |
ISBN4-87892-192-7 | |
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出版社 | 角川書店 |
ISBN4-04-853219-7 | |
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