エロゲーがアニメ化されるというのは、かなり昔からよく行われていた。だがそれは18禁(もしくはR指定)OVAとしてのアニメ化で、当然アダルトビデオ的な“目的”のために作られたものであった。「18禁のゲームをアニメにするなら18禁になるのが当然ではないか」といえばもっともなのだが、これらのOVAではゲームのシナリオはちょっとなぞるだけ、あとは“行為”のシーンに費やされるという、「それらのゲームをアニメ化した」という点においてはあまり意味がないようなものであった。
だが、その状況に変化が訪れる。始まりは1998年に放映された『Night Walker -真夜中の探偵-』である。このアニメの原作となったエロゲーは1993年にPC-98用のソフトとして発売されたものだが(その後2001年にアリエルーフからWindows版が発売)、テレビ東京の深夜枠で、全12話のTVシリーズアニメとして放映されたのだ( もちろん全年齢対象)。これが初の、18禁ゲームのTVシリーズアニメ化として記録されている。一方同時期に、『同級生2』もTV放映されたが、こちらは先に作られた18禁OVAシリーズの濡れ場をカットし、全年齢向けとしてTV放映されたという変則的なものであった。
これらのアニメ化の反応はいまいちだったらしいが、1998年にはギャルゲー『センチメンタル・グラフティ』が、『センチメンタル・ジャーニー』というタイトルでTVシリーズアニメ化された。このアニメがかなり好評だった。恐らくこれが
実質的なエロゲのアニメ化時代の始まりは、1999年4月に放映開始された、AQUAPLUS(Leafの一般向けゲームブランド名)の『トゥハート』のアニメだった。これの場合、あくまでPS版全年齢向けゲーム『トゥハート』のアニメ化であって、PC版18禁ゲーム『To Heart』のアニメ化ではないということが強調されていたが(実際、これはPS移植版発売とのタイアップという要素が強かった)。
その後1クールか2クールの短期深夜アニメの乱立時代が始まると、この「エロゲーからのアニメ化」というのが常套手段になってくる。とにかくアニメ作品の企画が欲しい製作会社側と、アニメに憧れ続け「アニメのようなものを作りたいけど作れない」と思っていたゲーム制作者の思いが重なって生んだ結果であろうか。Leaf(AQUAPLUS)からは他に『こみっくパーティー』もアニメ化されたし、âgeの『君が望む永遠』やCIRCUSの『D.C.~ダ・カーポ~』がアニメ化された。更に『ぽぽたん』や『ヤミと帽子と本の旅人』という、特にゲームがヒットしたとは言えないものまでアニメ化されていく。しまいには同人18禁ゲームの『月姫』までTVシリーズアニメ化されたのだ。「既にヒットしていて、ネームバリューがあるゲームをアニメ化する」「PCのエロゲをコンシューマ移植にあわせてアニメ公開し、プロモーションとする」といった後発的なアニメ化ではなく、現在では、ゲーム制作時からアニメ化を意識したマーケティングというのも発生している。
2002年には、初のエロゲー・ギャルゲーの劇場映画化作品である『Piaキャロットへようこそ!! 劇場版 ~さやかの恋物語~』が公開された(非18禁ゲームを原作としたものでは『サクラ大戦 活動写真』が2001年に公開)。また2005年には、エロゲの劇場アニメ化2作目として『AIR』が公開されたが、その監督を、『巨人の星』や『エースをねらえ!』などの監督として有名なベテランアニメ演出家の出崎統が勤めるということで注目を集めている。また2005年には、女性向けボーイズラブゲーム『好きなものは好きだからしょうがない!!』のアニメ化も行なわれ、18禁ゲームのアニメ化はとどまるところを知らない。
1998 | 同級生2(※1) |
Night Walker -真夜中の探偵- | |
下級生 あなただけを見つめて…(※1) | |
センチメンタル・ジャーニー(※2) | |
1999 | トゥハート |
下級生 | |
2000 | サクラ大戦(※2) |
2001 | こみっくパーティー |
サクラ大戦 活動写真(※2) | |
2002 | Kanon |
Piaキャロットへようこそ!! 劇場版 ~さやかの恋物語~ | |
2003 | らいむいろ戦奇譚 |
グリーングリーン | |
D.C. ~ダ・カーポ~ | |
ぽぽたん | |
ヤミと帽子と本の旅人 | |
君が望む永遠 | |
真月譚 月姫 | |
2004 | 北へ。~Diamond Dust Drops~(※2) |
ゆめりあ(※2) | |
月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~ | |
Wind -a breath of heart- | |
To Heart ~Remember my Memories~ | |
下級生2~瞳の中の少女たち~ | |
魔法少女リリカルなのは | |
遙かなる |
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吟遊黙示録マイネリーベ(※3) | |
2005 | AIR(TVシリーズ) |
AIR(劇場版) | |
好きなものは好きだからしょうがない!!(※4) | |
らいむいろ流奇譚X ~愛、教ヘテクダサイ。~ | |
まじかるカナン(※5) | |
IZUMO -猛き剣の閃記- | |
こみっくパーティー Revolution(※6) | |
SHUFFLE! | |
D.C.S.S. ~ダ・カーポ セカンドシーズン~ |
(※1)OVAを編集しTVシリーズとして放映したもの。
(※2)元は全年齢対象ギャルゲー
(※3)元は全年齢対象女性向け恋愛ゲーム(乙女ゲーム)
(※4)元は18禁女性向けボーイズラブ(BL)ゲーム
(※5)以前18禁OVA版が出ていたが、全年齢TVシリーズとして再アニメ化
(※6)以前のTVシリーズとは別に作られたOVAをTV放映し、さらに追加でシリーズを制作
一応これらの前に『ときめきメモリアル』実写映画(1997)があるが、こちらはアニメでない上、ゲームの内容や設定などの原型をまるで留めていない映画なので無視した。
非18禁ギャルゲーのアニメ化も色々と行なわれた。前述の『センチメンタル・ジャーニー』の他に『北へ。~Diamond Dust Drops~』『サクラ大戦』などがそうである。女性向け恋愛ゲーム(乙女ゲームと言うらしい)としては、2004年に『吟遊黙示録マイネリーベ』のアニメ化などが決まっている。
また『シスタープリンセス』と『HAPPY☆LESSON』も、これらのアニメと同列に考えるべきかもしれない。「あなたのもとに、12人の妹がやってきました。しかもその妹はお兄ちゃんが大好きなんです!」「5人の若い女教師が、あなたの家にママとしてやってきました!」というエロゲー的世界観を体現したもののアニメ化だからだ。ただこれらは元はゲームではなく、電撃G'sマガジンの誌上企画から始まってアニメ化に至ったものだが。
では、これらのエロゲー・ギャルゲーがアニメ化される場合、どのようなアニメになるのだろう?
当然ながらこれらのゲームの世界観をそのまま持ち込むと、男主人公の周りに女の子が沢山いるというハーレムアニメの構図が出来上がる。そこでサブヒロインと主人公との話を所々に織り交ぜつつ、ゲームでのメインヒロインのシナリオを再構築してそれをアニメ版シナリオの主軸にしたものが一般的だ。
一方、主人公(男キャラ)を不在にしてヒロイン同士の交流だけで話を展開したものもある(『ぽぽたん』『ヤミと帽子と本の旅人』など)。
更には主人公を不在にした上で、1話ごとにヒロイン一人一人を個別に取り上げるオムニバス形式(『センチメンタル・ジャーニー』『北へ。~Diamond Dust Drops~』など)の作りのものもあった。
その中で『こみっくパーティー』は、あくまで主人公の同人作家としての経験と成長を描き、ヒロインは補助的な役割、もしくは背景にまで後退している、エロゲー原作としては珍しいアニメであった。
また『魔法少女リリカルなのは』は、元々『とらいあんぐるハート3~Sweet Song Forever~』(とらハ3)のサブキャラ・高町なのはを魔法少女にしてみたらどうなるだろう? というジョーク企画だった(『天地無用!』と『魔法少女プリティーサミー』の関係とか、『ソウルテイカー』と『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』の関係みたいなものである)。これは『とらハ3』の後に出た『リリカルおもちゃ箱』というゲームのおまけシナリオで再現された。それを、純然たる魔法少女ものアニメとして再構成したのが2004年に放映されたアニメ版『魔法少女リリカルなのは』であり、こちらもエロゲーの雰囲気の名残はほとんど留めていなかった。
一方、このように“エロゲーのTVシリーズアニメ化”が一般的になった現在でも、エロゲーの18禁OVA化というのは依然として行なわれている。だが「“ゲームの話をアニメ化する”ということを主目的にし、エロシーンはほんのちょっと取って付けただけ」というようなものも増えてきた(エロゲーにおけるエロシーンが主題でなくなってきたのと似ている)。そして『Piaキャロットへようこそ!!2 DX』や『みずいろ』などの、全年齢向けアニメにしてシナリオを重視したエロゲー原作OVAも登場している。
ところで、アニメになった時、もしくはコンシューマ移植された時に、声を当てているキャストの表記がごっそり変わることがある。本当にキャストが入れ変わることもあるが、「どう聞いても声は同じなのに、キャスト表記だけ違っている」ということがよくある。これは声優が「18禁版」と「全年齢版」で名前を使い分けているためだ。
「18禁のゲームに出演している」というとイメージ的に宜しくないということで、偽名を使ってエロゲーに参加している声優が多いのだ(声優本人は気にしていなくても、事務所が隠したがることが多い)。そのため全年齢対象の(エロのない)コンシューマ版もしくはアニメなら“表の名前”で出演する。そして「PC版とは別人です」「(声が同じに聞こえるのは)生き別れの双子、ということにしておいて下さい(※1)」などと白々しい対応がとられる。例えばNHKの某アニメで主役をやっていたある女性声優も、名前を変えてよくエロゲーに出演しているし、また男性声優でも、某アニメで走り屋を演じている有名声優などが、よく別名義でエロゲーに出演している。
もっとも、エロゲーが「立派なゲーム」として認知されるようになってきている現在、長崎みなみ氏、児玉さとみ氏、成瀬未亜氏などのように「エロゲーの声やってます」と堂々とイベントなどで顔も出す声優も増えつつある。そして「ボーイズラブゲーム」と呼ばれる女性向け18禁ゲームでは、普通のTVアニメにどかどか出ている有名な男性声優がそのままの名義で登場して、“行為の声”を演じていることも多いという。
続く。
原註