既に気がつかれている方も多いだろうが、このギャルゲー・エロゲー講座のサブタイトルは、映像の世紀に由来している。しかし第4集にして、正しく 順番通りにタイトルをパロディすることができなくなってしまった。「ペリー・ローダンにしておけば良かったのに」と知人に言われたが。ともあれ本題に入ろう。
第1集で少し書いたが、1980年代はNECのPC-8801シリーズ、SHARPのX1シリーズ、富士通のFM-7シリーズ、松下・ソニー・サンヨーなどが互換機を出していたMSXシリーズなど、複数のメーカーがそれぞれ独自のパソコンを開発して出していた。それらのマシンには、現在のMacとWinの関係のように互換性はなかった。
例えばPC-88で発売されたゲームがあったとしたら、PC-88以外のハードを持つ人間は、そのゲームが自分の持っているハード用のソフトとして“移植”されるのを待たなければならなかった。当時“移植”とは、欲しいソフトが自分のマシンに出るのを“待つ”ものだった……。
さて、調教ものとか監禁ものとかの「まごう事なきエロゲー」に対し「恋愛ゲームにちょっとHシーンが付いただけ」のエロゲーはどんどん市民権(?)を獲得していき、やがてゲーム業界の前面に押し出されてくるようになった。その要因は、それらのゲームがコンシューマ(家庭用ゲーム機)に次々と移植されるようになってきたからである。
一番最初にエロゲーのコンシューマ移植が行われたのは、Elfの「ドラゴンナイト2」のPCエンジンへの移植だった。コンシューマとなると当然(一応は)低年齢層向けとなるため、元来あったエロシーンをカットしたり婉曲的表現にしてぼかしたりするといった処理が施される。そうやって移植されたのがPCエンジン版「ドラゴンナイト2」だ。この移植に際しPCエンジン版オリジナル要素として、PCエンジンのCD-ROM媒体(ROM2)を使用することによってキャラクターにボイスがついた。主役のキャラはなんと神谷明氏が演じていたのだ。
こうやって18禁エロゲーの“問題となる部分”をカットし(どのようにカットするかは対象ハードとそのゲームの年齢規定により異なる)コンシューマに移植するということがやがて頻繁に行われるようになった。「ドラゴンナイト2」の後はバーディソフトの「CAL」というゲーム、そしてElfの「同級生」のPCエンジンへの移植が行われた(こちらには千葉繁氏も出演している)。その後にはF&Cの「きゃんきゃんバニー」シリーズや、同じくF&Cの「Piaキャロットへようこそ!!」シリーズなどが次々と移植されていく。Leafの「To Heart」のPS移植である「トゥハート」では大規模なプロモーションが行われ、電車丸ごと一両を使った車内広告(ポスターには京本正樹を起用)などが話題になった。
市場がスーパーファミコン/メガドライブ/PCエンジンの3強時代から、プレイステーション/サターンの2強時代へと移って行く中で、末期のPCエンジンは、そのROM2の「ボイスが入れられる」という特製を利用して「エロゲー移植ハード」と化していった。そしてその後衰退するサターンも同じ道を辿り、PC-FX(もともとこれは明らかにギャルゲーを意識したハードだったが)も、そして現在のドリームキャストもこの道を辿っている。ドリームキャストの国内最終出荷が行なわれたのは2001年12月だが、2004年6月にも「月は東に日は西に~Operation Sanctuary~」のDC版が発売されており、9月には「パティシエなにゃんこ~初恋はいちご味~」が、10月には「水月~迷心~」の発売が予定されるなど、実にしぶとく生き残っている。
まず18禁エロゲーとしてWindows版でオリジナルが発売される。
その後、Win版のエロシーンをカットしたかわりに、非エロのイベントやグラフィックの追加や新キャラの追加が行われたバージョンが作られ、コンシューマへの移植が行われる(例えばドリームキャストに)。
その後、更にそれにイベントグラフィックを追加したりして、更に別のコンシューマ(例えばPS2)にもう一度移植される。
場合によっては、この「全年齢対象版」がWindowsに逆移植される(それに音楽CDやドラマCDなどの封入特典が付けられることも)。
すると、何故かマニアはそれらの全ソフトを(たとえハードを持っていなくても)買ってしまうのである!
このように、ハードを変えながら何度も何度もソフトの再利用が行われるようになっていき、マニアはそのたびにほとんど内容が変わらないゲームを何度も買い続け、金を貢ぐのだ。例えば「EVE~バーストエラー~」というゲームを例に挙げよう、最初PC-98で18禁エロゲーとして発売されたこのゲーム、グラフィックの全面描き直しとエロシーンのカットを行った後サターンにて全年齢対象(18歳以上推奨)のゲームとして発売された。そのベタ移植が(R指定で)Windowsで発売され、更にそれからグラフィックを描き直してPS2に(全年齢対象として)「バーストエラー・プラス」として移植された。それが更に、18禁シーンを追加してまたもWindowsに舞い戻っている。
同じソフトを何度も買わせるために、メーカー側も色々と小細工を呈している。ありがちなのが、後に発売されるソフトでは「イベントグラフィックの追加」「攻略できる女の子のキャラクター追加」だ。だが最近では「最初から2バージョン発売する」というパターンが増えつつある。
例えば「グリーングリーン」というゲームは、WinからPS2とX-BOXへの移植が行なわれ、その2機種のバージョン、X-BOX版「グリーングリーン ~鐘ノ音ダイナミック~」とPS2版「グリーングリーン ~鐘ノ音ロマンティック~」が同時に発売される予定だった。そしてPS2版とX-BOX版では、それぞれ別々の追加キャラが加わることになっていた。
ところが(X-BOXのユーザーが少ないと判断されたからか)X-BOX版の発売は中止となる。そしてX-BOX版「グリーングリーン ~鐘ノ音ダイナミック~」として発売されるはずだったものが、そのままPS2で発売されることになった。それなのに元々のPS2版「グリーングリーン ~鐘ノ音ロマンティック~」もそのまま発売された。つまり、PS2版で2種類の「グリーングリーン」が発売されてしまったのである。しかも、その2種類の違い「追加キャラは違う」というのはそのまま。要するに「追加キャラシナリオを両方ともやりたければ、両方のバージョンを買え」ということになってしまったのである。
「パティシエなにゃんこ」もDC版とPS2版が同時発売となるが、これも「キャラのエンディングが違うので、エンディングを確認したければDC版とPS2版を両方買え」ということになってしまった。
あとは、「特典の追加」である。例えばDC版とPS2版のゲーム内容が殆ど変わらなくても、例えば特典として封入されているドラマCDの内容が違うので、「両方のCDを聞きたければ両方のゲームソフトを買え」というパターンだ。これを「抱き合わせ商法」という言葉以外にどう形容したらいいのだろう?( もちろん「DC版とPS2版どちらを買っても内容は変わりません」というごく普通の移植の場合もあるのだが)
もはや“移植”とは「自分のやりたいゲームが自分のハードに移植してくれるのを待つこと」ではなく「自分のやりたいゲームが移植されてしまったら全て買い占めなければならないこと」になってしまったのである! 「その名がついているものは全て手に入れたい」というマニア心理に付け込んだ商売といえよう。
余談だが、エロゲーのPSへの移植の際には奇妙な現象が発生する。
これは伝聞の古い話なので現在は異なっている可能性があるが、基本的にはPS(つまりソニー)は、エロゲーのPSへの移植を認めていない。だが実際には多くのゲームが移植され発売されている。何故かというと、「ゲームのタイトルを変えて別のゲームということにしてしまえばOK」らしい。そのため、以下のようなタイトルの変更が行われている。
原題 | 移植タイトル |
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ONE 輝く季節へ | 輝く季節へ |
To Heart | トゥハート |
With You ~みつめていたい~ | 絆という名のペンダント |
水夏 ~SUIKA~ | WATER SUMMER |
D.C. ~ダ・カーポ~ | D.C.P.S. ~ダ・カーポ~ プラスシチュエーション |
君が望む永遠 | 君が望む永遠~Rumbling hearts~ |
グリーングリーン | グリーングリーン ~鐘ノ音ダイナミック~ グリーングリーン ~鐘ノ音ロマンティック~ |
モエかん | モエかん~萌えっ娘島へようこそ~ |
パティシエなにゃんこ | パティシエなにゃんこ~初恋はいちご味~ |
KanonやAIRのように、全く同じタイトルでPS2にエロゲーが移植されることもあるが、これは「先行して発売された他のコンシューマ版の移植だから、エロゲーの移植ではない」という理論の説と、「先にPCで全年齢対象版を出して、その移植である」という理論の説の二つがあるらしい。このように言葉を弄ぶことが続けられている。エロゲー業界では規制の点で更に多くの「言葉を弄ぶ行為」が行なわれているが、その話はまた後で。