再びこの舞台。しかしこの石原一佐というキャラクターは強烈だ。制服を着ていてもコートを着ていても、一発で判るキャラであり、劇場版二作目の荒川に匹敵するだろう。そういえば荒川も自衛官だった。
そして石原にカードと航空券を渡される来須。来須を遠ざけることで、事態のもみ消しを図っている。コミック版では、冴子が13号を助けたという知らせを聞いた来須が発作を起こして倒れたのも、この応接室だった。
非常に重要なシーン。冴子のロッカーを開けたら、秦と冴子が最初からあった時に持っていたトランクが転がり落ちる。そしてその中身。
ニシワキトロフィンの瓶はちゃんと説明されているが、しかし画面に映っているもので何の説明もないものに、DATプレイヤーに水中スピーカー、そしてアンプがある。
つまりは冴子はこのDATプレイヤーで「子守歌」のテープを再生し、それを水中スピーカーから流して13号を呼び寄せ、そしてニシワキトロフィンを与えていたということである。
このトランクが画面に映るのはほんの一瞬、しかもDATプレイヤーなどは色が黒いので、映画館などでは何なのか見分けにくい。普通の映画では、こういう「事態の核心を発見したシーン」はダイナミックに描かれるものなのだが、WXIIIではそういう演出は極力排されている。
管理人が鍵を開けた後、少し躊躇してから冴子の部屋に入る秦。そして中には更に鍵のかかった扉がある。
普通こういうアパートの構造ではこんなところに鍵のかかったドアはないだろうが、「禁断の場所」を演出するために敢えて、室内に更に鍵のかかったドアが作られたのだろう。あるいは冴子にとって本当の「(他人には)禁断の場所」という意味なのかも知れない。
純和風の岬家でしかも庭に鯉の池付き。この場所がどこなのかは不明だが立派な家だ。敢えてこういう和風の家にしたところに演出意図が見える。
ここで冴子の父が、池で手を叩いて鯉に餌を与えている。「音で呼び寄せて餌を与える」という事から、冴子がどうやって13号に餌付けしていたかということとの関連を持たせてあるのだが、普通そんなところに誰も気付きはしない……。
流されるホームヴィデオの映像は非常に凝っており、映像の荒さやハンディカメラの手ぶれなどが表現されている。監督が「モニター」の表現に気を使っていたことが判る。
このホームヴィデオのピアノ演奏は鍵盤のミスタッチなども表現され、DATの子守歌よりは少し下手な演奏になっている。DATの演奏会は、恐らくひとみの生前最後の演奏を収録したものだろう。
冴子が残したDATを調べる久住達。ここで、クラブの音やレイバーのモーター音と比較するところを調べている。
この「子守歌」のDATテープ、そしてシャフト製レイバーのモーター音、そしてクラブのアナログレコードの音、最後にイルカの声。これらの音に、共通する高周波のノイズがあった。「子守歌」を聞いていた13号は、そのため他の音にも引き寄せられたのである。
何故冴子が「子守歌」を実験室にいた頃の13号に聴かせていたかだが、遠藤氏の解釈によるとその頃から冴子の狂気があったわけではなく、純粋に目が見えない13号に対して興味本位に聞かせてみたのではないか、ということである。
そして岸田の「お化けハゼからニシワキトロフィンが……」に対して「ご苦労」と淡泊な久住。既にこの時点で久住はニシワキトロフィンから興味を失っていた。そして階下で項垂れて待っていた秦に対し、頷いて結果を伝える久住。
ここでシーン26にも登場した、複数の場面をフラッシュバックで見せるという演出が再び行われている。
作戦会議のシーン、良く見ると後藤の隣に福島特車二課長もいるのが判る。「特車二課は何をすればいいんでしょう?」という後藤の質問に対し「あちゃ~」というような芝居をさせている、そうだ。
「射撃はそちらの方が慣れている、おまかせしますよ」という台詞。何故ここで自衛隊が処理しないのかと思った人もいるだろうが、この自衛隊は「知事の要請による災害出動のため実弾は撃てない」という事であり、それを説明する台詞も脚本にあったのだがカットされてしまった。ついでにとり氏がいうには「日本の市街地での発砲経験では一番の太田に任せた」という話らしい。
この少し後に出てくる、久住が持ち込んだDAT。良く見ると「子守歌コピー」と書かれている。遠藤氏によると、これは岬家にあったテープとはDATのメーカーが違うことに作画の段階気が付き、それで最初から描き直す代わりに「コピー」という事にしてしまったという。コピーを使うことは不自然ではない、むしろ自然なので幸運な偶然だった。このようにWXIIIでは幾つか「作画ミスから生じた偶然」というのがある。秦が左利きなのも、冒頭の野球シーンで裏トレスして左右反転したために生じた偶然だったりする。
もちろん以後のシーンはそれに合わせて全て秦が左利きに作画されたわけだが。
スタジアムの石原の「あんたらと同じ事をやるんだ」という台詞だが、これは撮影のshotと射撃のshotをかけた台詞でちと分かり難い。その石原が制服ではなく私服を着ているのは、石原は「その場にいないことになっている」人間で、公式に派遣された人物ではないという事の現れ。石原はこの作戦の正規の指揮官ではないのである。
第二小隊勢揃いのシーン。「スタッフロールには山崎ひろみの名があるのに、山崎の台詞がないじゃないか」という話だが、実はここでの勢揃いの「はい!」で、山崎もちゃんと喋っている。山崎役の郷里大輔氏はこの映画ではどちらかというと、別キャラの自衛官の台詞を喋っている方が多いが。