ここでりゅうじんに対戦車ミサイルを発射する陸自隊員。何らかの故障のためにりゅうじんの13号誘導用のスピーカーが切ることが出来ず、りゅうじん乗員は海自の司令部に武器使用許可を求めた。だが陸自の司令部が武器使用不許可を介入し、そしてりゅうじんのスピーカーを止めるためだけに対戦車ミサイルを発射という派手な手段を使った。
遠藤氏「これって乗員生きてるんでしょうか?」
高山氏「死んでるよ」
という話らしい。まあレイバーなんかに対戦車ミサイルをぶっぱなしたら……。一応死んだという事は描かれておらず、「生きていると思いたい人は思える」演出になっている。
13号が音におびき寄せられて上陸してきて、音のするレイバーを順番に弄ぶわけだが、先に書いたようにこの13号は備蓄基地に現れた時に比べ足が発達しており、又腹が出ていて妊娠線も見えるのが判ってくる。単体で妊娠までして(後に出てくる)乳まである13号は哺乳類なのか両生類なのか爬虫類なのか一体なんだ? と、とり氏が言ったところ、遠藤氏が「怪獣です」の一言で片付けた。
そして後藤、久住らの画策で、冴子の娘のテープが再生されると画面も映る。このメガビジョンとは音声にシンクロした画像を自動的に再生するものだ。この場所でミュージックヴィデオの撮影準備をしていたスタッフがそのままにしてあったものが起動してしまったのだろう。この後で8番のカメラが13号に破壊されるのだが、ディスプレイが8番カメラの映像になった時には(カメラが壊れているので)ノイズになっている(スタジアム最後のカット)。
後藤達はこの画面の明かりが、光を避ける13号を逃がしてしまうのではないかと危惧して画面を切ろうとするが、画面を切ると(13号の餌の)音声まで一緒に切れてしまうというので、それで後藤は「もっと(画面を)暗くできないか?」と指示している。劇中では一度も「光を避ける」という性質については言及されていないが演出・設定方針は貫かれており、後藤達もその性質については知っているということになっている。恐らく備蓄基地での行動に関する秦と久住の報告、それと最初にりゅうじんで写真撮影した時の行動などから気がついたのだろう。また「音に反応する」という性質についても、篠原や進士らをほっぽって、発砲した自衛隊員に襲いかかる所などで表現されている。
後藤と久瀬が、敢えてオリジナルのテープを使った理由だが、オリジナルのテープを使った方が13号を呼び寄せるのに効果的だという実質的な理由の他に、全てを秘密裏に進めて闇に葬ろうとする自衛隊に対するささやかな抵抗という意図もあるようだ。この13号をおびき寄せる音楽を演奏していた
最後に火炎放射器で焼き殺される13号。防護服に身を包んだ隊員を白人だと思った人がいて、「米軍が後始末に来たのだ」と思った人がいたそうだが、これも“偶然”で、スタッフは特に「白人にしよう」という意図は無かったそうだ。
そしてレイバーのカウルが外れて出てくる13号の乳。遠藤氏にとっても高山氏にとっても、これが初めての「乳揺れアニメカット」だそうである。遠藤氏は助監督という「よくアニメにある謎の役職」で劇場版『ストリートファイターII』に関わり、それで春麗の胸が揺れまくっていたじゃないかという指摘があったが、そちらは実質的には遠藤氏はほとんど関わっていないそうだ。ついでに言うと、『ストII』初号試写にて春麗の胸が何回揺れていたかを数えていたカプコンのスタッフがいて、遠藤氏は「ゲーム業界って不思議だなあ」という感想を抱いたとか。
私は東京国際ファンタスティック映画祭でWXIIIが初公開された時、このインターネットの画面で笑い声が上がったのを覚えている。
この画面、あの巨大掲示板だと思われたのだが、実は監督らにはその意図はなかった。当時監督らは2chの事は知らず、単にネットの掲示板を描こうとした時、偶然あの巨大掲示板と同じシステムの掲示板の画面を使っただけだという事である。
そしてこの画面を見ているのは誰かというと秦である。画面が非同期縞の発生していない液晶であること、ブラウザや画面のデザインが、最初に出てきた秦のPCの画面と同じであることからそういえる。秦が、恐らく自分で流した13号の噂(これも、全てを闇に葬ろうとする事へのささやかな抵抗)がどんどん広まっているのを見ている、という形だそうだ。
コミック版ではマスコミにも“怪物”の存在が明かされているが、映画では(恐らく13号の“製造”に自衛隊が積極的に関わっていたため)“怪物”の存在は隠蔽された。実質問題としては、あの怪物の捜査や退治に関わった警察官、自衛官の人数を考えると、とても隠蔽は無理だろう。
アイスキャンディーを食べる久住と後藤。「まだこんなものあったんだ」という後藤の表情。これは黒澤明の『野良犬』に対するオマージュということだが、実はこの三色アイスが大論争になった。LOFT/PLUS ONEで行われた「パトレイバー、WXIIIから見るか? ミニパトから見るか?」において、すっかり酔っぱらっていた高田明美氏が「三色アイスは縦に分かれているものだよ! そうじゃないと味が混ざらないじゃない! ただ三つのアイスを順番に食べるのと同じじゃない!」と劇中のアイスに異議を唱え、それに対して遠藤氏が「いやだって三色アイスってそういうものでしょう? チョコレートを食べて、口直しにバニラを……」という論争に発達し、ゆうきまさみ氏が強引に「三色アイスにもこのように色々な解釈があるんです」と話を叩き終わらせた。
先の「誰がネットに怪物の情報を流したか」という点についてだが、「三色アイスを食べていたから秦、久住、後藤の三人が情報を流した」という謎な推理の仕方をしていた人もいたらしい。
そしてライターで煙草に火を付ける秦。このライターの赤いことから、これが冴子のライターであるということを連想させるが、実は最初は脚本にはその意図はなくて、たまたま「赤く塗ってしまおう」とされたらしい。
このエピローグだが、当初脚本ではコミック版を踏襲し、冴子が死なずに記憶喪失になるという展開となって、秦がその状態の冴子に会うが彼女は秦のことを覚えていないという結末になっていた。だが高山氏はその「少女漫画的な」「『時をかける少女』みたいな」展開を嫌って冴子を殺すことにした。しかし出渕裕氏は最後までそれに抵抗していたという。