野良犬の塒
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野良犬の塒 押井守/プロダクションI.G作品 Wiki

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX

a stand alone episode
第1話 公安9課 SECTION-9

脚本・絵コンテ=神山健治
演出=河野利幸
作画監督=後藤隆幸

あらゆるネットが眼根を巡らせ
光や電子となった意思を
ある一方向に向かわせたとしても
“孤人”が
複合体としての“個”になる程には
情報化されていない時代…

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Story

夜、ニューポートシティにある高級料亭で、芸者ロボットが何者かにハッキングされ、外務大臣らを人質に取るというテロ事件が発生した。現場では警察と、荒巻の旧知の人物でもある軍の久保田が、指揮権を巡り対立していた。そこに現われた荒巻はこの事件を公安9課で解決することにする。素子、バトー、トグサは料亭内に突入して芸者ロボットを破壊、そしてそのロボットをハッキングし、外務大臣らを人質に取るよう指示した人間を発見、逮捕した。だがその人物は自ら自分の記憶を焼き消してしまったのである。そのため犯人は何を狙っていたのか、その男の上に黒幕がいるのか、判らなくなってしまった。実は料亭が占拠されたとき、外務大臣には軍情報部の久保田が送り込んだ内偵員が張り付いているところだった。外務大臣は最近、“非常時における外交及び軍事的戦術シナリオ”が記載されている軍の機密文章「一ノ瀬レポート」の開示を要求しようとしていた。久保田は機密情報を渡す前の相手の身辺調査のため、内偵を送り込んでいたのである。相手(この場合は外務大臣)がスパイなどとして、不正に機密情報を流そうとしていないか確認するためだ。だがその内偵の人物は、料亭に襲撃が行われた時負傷して意識不明。そして捜査を進めるうちにトグサらは、料亭内で死亡した北米産業振興会の人物の脳殻が行方不明なこと、そして料亭内の監視カメラの記録から内偵員が何かを目撃したらしいことを発見する。だが一体彼女は何を見たのか? 死亡した人物の脳殻の行方は? 内偵員を殺さなければならない理由とは? 外務大臣は一ノ瀬レポートを手に入れたがっていた。外務大臣が一ノ瀬レポートをどうしても手に入れたいのだとすれば……。そこでトグサは、料亭内で死亡した北米産業振興会の男性は、実はダミーの脳殻を乗せて殺されたように見せかけられていたであろうと考え、そして彼は、外務大臣と脳殻を入れ替えていたのではないかと推測する。もし一ノ瀬レポートを入手したい何者かがいたとすれば、外務大臣の姿をしていれば「開示要求」によって安全かつ確実に一ノ瀬レポートを手に入れることができる。その時丁度久保田から、外務大臣が一ノ瀬レポートを持ってアメリカへ渡るところだという情報を受け取った。直ちに9課は空港へ急行、外務大臣の専用機を差し止め、日本を離れる前に拘束に成功する。外務大臣~の姿をした男~の手から、恐らく本物の外務大臣のものと思われる脳殻を確保した。一ノ瀬レポートが国外に流出することの阻止に成功したのである。

Explanation

シリーズものの第一話というのは色々な性質を持つものだが、大体は大きく二つの性質が必要とされる。まず「観客を引きつける」。その作品の魅力や性質を第1話で表し、観客をその作品世界に引っ張り込み、「これは面白い、続きも見てみよう」と思わせるのである(そのために第1話にのみ多くの予算が注ぎ込まれ、それ以降の話は散々たる状況になるというのも良くある事だが)。この「観客を引きつける」という点において第1話を見てみると、攻殻SACでは「刑事物」という、神山監督が語ったこの作品の基本方針を主張するということが行なわれていると言えるだろう。派手ではないが料亭の突入シーン(銃撃戦あり)、そしてトグサの捜査(推理あり)、あとは「政治も絡んでくるぞ」というところだ。
シリーズものの第1話に必要とされることのもう一つは「説明」だ。登場人物や設定についての説明、解説を行なう。特に設定が複雑な『攻殻』の場合は、必然的に説明しなければならないことは幾つか決まってくる。

その中で最重要なのは「電脳」だ。電脳の設定は観客だけではなくキャストにとっても困りものだったそうで、ゲストの声優が「電脳での会話って何ですか」とよく質問してきたという。
電脳とは一言で言ってしまうと、脳を直接電気的なネットワークに接続することであり、脳同士がネットワークを介して情報のやりとりをすることもできる。電脳通信は無線でも有線でも可能だ。荒巻と久保田が敢えて有線で通信を行っているのは、電脳の設定を理解しやすくするためだろう。ところで「設定を理解させる」という点は置くとして、なぜこの時荒巻と久保田は有線で通信を行ったのか? 有線と無線の利点をそれぞれ上げると、以下のようになるだろう。

有線
無線に比べて高速の通信が可能
傍受される危険が少ない
無線
離れた相手とも通信できる
ケーブルを接続する必要がない

ここから考えると、恐らく荒巻と久保田が有線で通信を行ったのは、荒巻が、傍受されたくない機密性の高い話をしたいと思ったからだろう(実際にはその時にはほとんど会話も行なわれなかったが)。

電脳とは、電脳通信だけではなく電脳での情報処理も含まれる。GITSでは「目ではなく脳で見る電脳の映像」というものが描かれていた(例えばゴミ回収者を追跡するとき、素子が使ったナヴィゲーション)のに対し、やはりSACでは見た目のわかりやすさを重視したためか、電脳映像は、普通の視覚の上にポップアップウィンドウのように現れるという表現方法を行っている(電脳通信で相手の顔が目の前に現われるなど)。つまり電脳化するということは、視覚情報も電脳によって左右されるということであり、これは後のインターセプターの話に繋がる(電脳化だけではサイボーグとは言わないらしい)。
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次に「サイボーグ」。テロリストが素子に撃たれたとき、明らかにその(破壊された)足は普通の人間の足ではなかった。要するに「この世界には体を機械化したサイボーグがいるぞ」という説明だろう。ところでもし将来高度な義足や義手が実現したらどうなるか? 当然物に触れたときの触覚は必要だが、痛覚はどうか? 痛覚とは「体にとって危険なことがあるぞ」という信号なので、最低限は必要なものだ(例えば熱さを感じないとしたら、手を火に突っ込んだまま放置してしまう)。だが叫び声を上げなければならないほどの痛覚を与える機能が義手や義足などにあったらかえって危険だろう(その機能が暴走して身体に危害を加えかねない)。その点を考慮してか、押井守のGITSに登場した“実行犯”(公衆端末からハッキングを行なっていたグラサンの男)は、素子に手足を折られても苦痛の表情を見せなかった。しかしSACのテロリストはたっぷり痛がってみせている。恐らく「どうして痛がらないの?」という疑問を観客に抱かせないよう、「わかりやすさ」を重視したためと思われる。もっともシリーズ後半で、負傷した素子やバトーが出るシーンでは彼らはあまり痛がる様子をみせなかった。これは「高度な戦闘用のサイボーグである素子やバトーは痛覚がカットされている」と受け取るべきか。「シリーズ後半で設定になれた観客に、わかりやすい演出は必要ない」というのがあるだろうが。
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そして「光学迷彩」。これは『攻殻機動隊』といったら外せないものの一つである。光学迷彩の演出について今更だらだら書く必要はないと思うので、ちょっと別の点から光学迷彩について触れてみよう。攻殻の光学迷彩は、完全に「光が透過」している。つまりこれはもはや“迷彩”ではなく“透明”になっているのだ。だが仮にこの技術が実現したとしても、光学迷彩を使用した者は盲目状態になって周囲を見ることができなくなってしまっているのだ。“見る”ということは網膜で光を受け止めるということであり、光が透過するということは、光を受け止めることができず、光を知覚できないという事である。ニュートリノが地球を貫通していっても、誰も気がつくことができないのと同じ……といったら逆にわかりにくいか?
東京大学が光学迷彩(みたいなもの)を開発したというニュースを見た人は多いだろう(参考文献にしっかり攻殻機動隊も入っている)。だがこれは、実際には「透明にしたい人」に映画のブルーバックと同じような効果のある服を着せてみせ、特定のディスプレイを通してみることによって、そのブルーバックに対象者の背景の画像を上書きしているにすぎない。
東京大学 光学迷彩
東京大学で「透明人間」ハイテク・コート開発中
現在米軍などでは、新しい迷彩服の研究が行われている。それはカメレオンのように、周囲の色に合わせて迷彩の色が自動的に変わる迷彩服である。結局理論的に可能なのはこれが限界だろう。
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そして「脳殻」。サイボーグが一般的な世界で起こりうる犯罪を具体的に取り上げるため、「脳殻を取り替える」という今回の話が出てきたのだろう。サイボーグの世界では、外見と内面の差異はいくらでも表れる。年齢も、性別すらいくらでも義体により変更が可能だ。それを端的に表すエピソードと言えよう。

そして冒頭の素子の言葉、「世の中に不満があるなら自分を変えろ。それが嫌なら耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ」。これには大きな意味が込められているのがいずれ判る。

ところでヨタ話を幾つか。無線通信は、伝えたい相手以外に、他の誰が盗み聞きをしているか判らないので慎重にならざるを得ない。だがかえって有線通信では「傍受される危険がない」と、何でもぺらぺら喋ってしまうということを利用したスパイ事件があった。アメリカとソヴィエトの冷戦当時にアメリカは、ソヴィエトがカムチャッカ湾の海底に敷設したケーブルを発見、特殊な装置を取り付けて傍受を行った。この海底ケーブルは「傍受される危険がない」とロシア人が考えたため、暗号も使われず機密性の高い情報がばんばん流され、アメリカは貴重な情報を多数獲得したのである。攻殻に限らず物語の中では、「どんなに高度な暗号やセキュリティだろうと、ハッカーにかかれば絶対に破られる」という鉄則がある(そうしなければ都合良くシナリオを展開できない)。だが、到頭「絶対に解読不可能な」暗号通信が発明されたらしい。それが量子暗号だ。物体の位置を正確に知るためには、その物体に「触れる」必要がある。レーザーで位置を知るとしても、レーザーを「当てる(触れさせる)」必要がある。普通の物体の位置を探る場合これは特に問題にはならないが、極めてミクロな素粒子の世界では、これが重要な問題になる。素粒子の位置を計るためには別の素粒子を「当てる(触れさせる)」必要があるが、そうやって別の素粒子を当てた時点で、測定したい素粒子がその影響で動いてしまうのだ。従って素粒子の正確な位置をはかることは不可能であり、「素粒子は○%の確率でこの場所に存在する」という言い方しかできない。これが不確定性理論である。量子暗号はこの原理を利用している。通信を量子単位で送信すると、その通信が何者かに傍受された(つまり「触れられた」)時、直ちにその影響が現われるので傍受されていることが判るというものだ。
量子物理学を利用した暗号化技術
未来のネットの安全を保証する量子暗号技術
通信速度の向上も視野に入れた量子暗号技術

I.G - STAND ALONE COMPLEX - 第1話 紹介

第2話 暴走の証明 TESTATION 解説へ

Distribution

パッケージ 製品名 価格 備考 購入
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 01 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 01 6,300 第1話「公安9課 SECTION-9」
第2話「暴走の証明 TESTATION」
初回版は収納BOX及び公安9課IDカード付属。
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