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川井憲次ナイトショウ

川井憲次ナイトショウ
2003年3月15日に行なわれた、Kenji Kawai Cinema Anthorogy ~押井守実写作品集~押井守シネマ・トリロジー/初期実写作品集の発売を記念して行われた川井憲次ナイトショウのリポートを。
当然ながらこれは川井憲次氏のイヴェントであり、野良犬の塒守備範囲から正確に言うと外れるが、非常に面白いイヴェントだったし折角なので書けるだけ書きたいと思う。以下メモの状況があまり宜しくなかったので間違いがあるかもしれないが、ご了承願いたい。

「川井憲次を囲む場を作ろう」という事で企画されたこのイヴェント。会場のロフトプラスワンは居酒屋で、出演者も来客者も飲み食いしながら進められるという形のトークショーである。「まずありがとうございます。こういう形でのライブは初めてで、どうなるかわからないんですが、出演者共々ただの酔っぱらいショーになって情けない姿をさらけ出すことになるかもしれませんが(笑)、お付き合い下さい」という川井氏の挨拶で始まった。

最初のゲストは、ビクターエンタテインメントの佐々木氏。MAZDAカレッジサウンドフェスティバルというコンテストに佐々木氏と川井氏が出場したのが切っ掛けで知り合ったという(当時川井氏は四割減の体重だったとか)。その後川井氏はバックバンドをやりながら活動していたが(三ツ矢雄二氏のバックバンドを音響の浅梨氏が聞いて、そして押井氏に繋がることになる)、それで初めて川井氏が担当したのが、ビクターから出たCOSMOSピンクショックというアニメである。
佐々木「我がビクターが惨敗を喫した(笑)VHDというメディア(*1)で出ていたソフトです(笑)。箱の中にゴキブリが入ってしまうって有名で(笑)」「川井さんと一緒に歌も歌いました(笑)」
それから高橋留美子原作の「人魚の森」「一ポンドの福音」や、藤島康介原作の「逮捕しちゃうぞ」などの音楽を担当した。
佐々木「例えばTVシリーズとかで40曲とか発注しますよね。それで作中で使われなかった曲はお金が支払われないんですけど、僕はかわりにウナギをおごるという話をして(笑)。『すみません、ウナギでお願いできますか?』って(笑)。僕が始めたんですが、僕の後輩にも脈々と受け継がれています(笑)」
川井氏と佐々木氏は年賀状をやりとりする中だという。
佐々木「それが小学生以下の、『うんこ』とかそういうので(笑)」
川井「それをかもメールで送ってるんです(笑)」
佐々木「それで僕がそんなひどい年賀状を作って送ったら、宛名を書いていなかったんです(笑)。それでその年賀状の差出人をビクターの会社で出しちゃったんですよ(笑)。それでそれが戻ってきて、本社の総務の方にまわっちゃったんです(笑)。そこから部署の女の子の方に言っちゃって、その女の子しばらく口きいてくれませんでした(笑)」
音楽のレコーディングでは、その曲の頭には「M-40」などとミュージックナンバーが声で吹き込まれてから音楽が始まる。音響監督はそれを聞いて音楽を入れていくわけだが、
川井「ただ『M-1』とか言ってもつまらないので、コントを入れるようにしたんです(笑)。それが『ダイガード』あたりでかなり成熟してきました(笑)」
それでそのテープの一つが実際に再生された。

「ん~、ん~」
「(ノックの音)おじさん、まだ?」
「まだ~」
「おじさん、トイレ長いよ、うんこでしょ?」
「ん~、うんこじゃない!」
「おじさん、長いって!、うんこでしょ!」
「ん~、うんこじゃない!」
「長いよ、おじさん! おじさん、M-39でしょ!」
「そうだ、M-39だ!(曲始まる)」
佐々木「こんなのを音響監督は選曲するたびに何度も何度も聞かされるんですよ(爆笑)。うんざりしますよ(笑)」
川井「いや、でも期待される音響監督の方もいらっしゃるんで(笑)。パトレイバーとかではこれを考えるのに徹夜したりしました(笑)。ほんと馬鹿みたいですね(爆笑)。シンセでSE選んで、マイク一本で作るんです(笑)」
佐々木「『我々は、ついに瞬間移動を目撃した!』というので始まるテープがあったりするんですが、音がLからRに移るだけです(笑)。『うんこじゃない!』とか言いながら凄く悲しい曲が流れたり(笑)、5秒くらいの曲に2分くらいコントが入っていたり(笑)、M-1からM-40まで連作になってたり(笑)」
川井「ミキサーのFさんと一緒に声入れて作っているんですが、Fさんって色々やっている人で、トーキング・ヘッドでもコーラスやったり、ガンパレード・マーチでは『芝村重工~♪』とかって歌ってます(笑)」
桑島(司会)「ミニパト第二話の『ホッス!』もFさんなんですよね」
佐々木「真面目な話もしましょう(笑)。川井さんは音楽が良いのは当たり前だけど、演出のことを理解できる作曲家なんですよね。フィルムが何を要求しているか理解している。音楽家と演出家というのはボキャブラリーが違って、その通訳みたいなことをするのが僕の仕事なんですが、川井さんは通訳がいらない作曲家の一人です」
佐々木「そういえば田中公平さん(*2)が『ゆけゆけ憲ちゃん』って曲作ってましたよ(笑)。歌も入ってて、川井さんの『宵越しの銭は持たない感』が出ていて良かったですね(笑)。公平さんも来てくれれば良かったんですけど」
川井「そうしたら公平さん一人で喋って終わりですよ(笑)」
佐々木「ダイガードの時には、公平さんと川井さんの二人の作曲家にお願いするという、普通なら失礼なことをお願いしてしまったんですが、打ち合わせの時に公平さんが『ワシはこの曲とこれとこれとこれをやる。川井君はこれ、これな』(笑)」
川井「僕は『はい』って言うだけでした(笑)」
佐々木「『良い曲はワシが書く、これは悪者だから川井君だ』って(笑)」
川井「結局僕は悪者とコミックしかやってません(笑)」

ここで佐々木氏はガオガイガーファイナルの打ち上げイヴェントに行くため退場、そして次のゲストの三ツ矢雄二氏が登場した。
三ツ矢「いつだったかよく覚えていないんですが、バックバンドとして(川井氏を)紹介して貰ったのが最初ですね。一時期は毎日のように一緒にいたよね、麻雀やったり(笑)」
三ツ矢「僕のバックバンドやって貰ったり作曲して貰ったり、ミュージカルをやったときに音楽を担当して貰って、一緒に旅回りにも行ったりしていたんですがこの人営業上手で、僕が誰かを紹介すると、次には僕抜きでその人と仕事して、僕の手を離れているんです(笑)。抜け目がない(笑)」
三ツ矢「この人今でこそこんな顔でこんな髪でぶくぶくしていますけど(笑)、昔はまあ顔はこのままですけどもっと痩せてたんです。それで僕が昔写真集出したんです、すみませんあの頃声優ブームに踊らされてて(笑)。それでこの写真集なんですが……(ヌード写真のページで)あ、これ僕のケツです(爆笑)。それで僕と友達の写真を一緒に撮るというので、これですね、痩せてるでしょ? って(川井氏に)あんたのショーなんだからあんたも喋んなさいよ!(笑)」
三ツ矢「川井さんはまったりしていて、僕はせかせかしているから合うんでしょうね、二人ともせかせかしていると血圧上がりますから(笑)。今度18年ぶりにミュージカルを再演するんで、久し振りに一緒に仕事をすることになりますね。これでまた川井さんの仕事の幅が広がる(笑)」
川井「広がるでしょうね(笑)。キングレコードの社歌も作りましたよ、『きんきんきんぽこ、キングレコード』って(笑)」
三ツ矢「ギャラの何パーセントか振り込んで貰いたいくらいですね(笑)。『誰のお陰で仕事が出来ると思ってるんだ』って(笑)」
三ツ矢「川井さんはこちらが無茶な注文してもきちっと作ってくれるんですよね。『五拍子の曲作って』といったらきっちり作ってくれるし。川井さんの曲って、最初はすごく歌いにくいというか、思いもよらないような音というか、すごく違和感があるんです。でも歌っているうちに気持ちよくなってくるんですよね、不思議な音程とか、慣れてくると耳障りが良くなってきて。風呂に入ったときに出てくる鼻歌が川井さんの曲だったり。そういうときは振り返って『川井ィ!』って言うんです(笑)」
三ツ矢「うちにもVHDのCOSMOSピンクショックありますよ(笑)。機械が無くてゴキブリホイホイになってますけど(笑)」

そして三ツ矢氏に変わって登場したのが、俳優として音響監督として川井氏と付き合っている千葉繁氏である。
千葉「最初に川井さんと仕事をしたのがデビルマンですね。僕も音響監督初めてで、最初タイミングとか全然判んなくて」
川井「普通曲がオーダーされるときは『M-1 明るい感じ M-2 跳ねる感じ』とか、状況をメニューで説明されるんですけど、千葉さんのメニューは『ケツから松茸』とか『今夜は未亡人』とか(笑)。全然何を作ったらいいのか判らなかったですね(笑)」
千葉「凝縮したイメージでオーダーするんですね(笑)。『脳みそからウジが湧く』とか(笑)。それで川井さんが一生懸命オーダーをパソコンで打ってるんですけど(笑)、段々嫌になってくるんですよね、無意味さに(笑)」
千葉「アニメーションのスタジオって大体みんな暗いところなんですけど、デビルマンは山中湖の畔の音楽スタジオで、凄くいい環境なんですよね、冷蔵庫開けるとビールが入ってたり(笑)。音楽ってこんないいところでやってるのか~って」
川井「たまにだけです(笑)」
千葉「その素晴らしい環境の中で、川井さんがギターの弦をわざとチューニングバラバラにして一生懸命引いたりとかしてるんですよ。収録中ぎゃあぎゃあ笑いながらやってました、それが最初ですね」
千葉「その次が御先祖様万々歳! ですけど、これもスタジオが良かった。スタジオ入るとパンク系のロック少年みたいなのが一杯いるんですよ(笑)。リハーサルスタジオの一角に録音スタジオがあって、『僕ら場違いだなあ』って(笑)。それで明け方までやってたんですよね」
千葉「スタジオが三畳くらいの広さしかなくて(笑)、機材で狭くて人を跨いで入らないとならない(笑)。それで14インチのテレビが上の方にあって、押井さんが椅子がないから立ったまま上を見ながら1941(*3)やってたんですよ(笑)、5時間も6時間も(笑)」
桑島「ファミコンですよね?」
千葉「ですね、1989年かな? もうそんなになるんですね、その頃90歳の人はもう死んでますからね(笑)」
千葉「それでスタジオで、川井さんが途中でいなくなっちゃうんですよ。煙草持ったままものを考えているような風だけど、意識がどっかイっちゃってるんですね(笑)。それで『憲ちゃんイっちゃってますね』とか話すんだけど(笑)、二時間くらい帰ってこない。それで煙草も火が消えちゃって。それで二時間後に唐突に『それは……』とかって川井さんが喋り出すんですよ(笑)、本人の中では繋がってるんです(笑)。でも僕らはその二時間の間にご飯食べにいってたりして(笑)。それで川井さんが『あれ、煙草消えてる』って。僕らが『煙草消えちゃってるからなあ』と川井さんの指の煙草を新しいのにすり替えておいたんですけど(笑)。だから火が消えたんじゃなくて最初から点いてないんですね(笑)。それで火を付けようと思ったら、ライターの火が点かない、部屋が狭くて酸欠で(笑)。ヤバいです(笑)」
そして、紅い眼鏡の話になる。
千葉「(DVD-BOXで見直して)いやー、久々に自分のヌード見ました(笑)。あれ前バリも張ってないんですよ(笑)。記録の女の子がしっかり僕のモノを見てしまいました(笑)」
千葉「川井さんと初めてお会いしたのは紅い眼鏡の試写の時だったと思うんです。その時僕は別の知り合いの作曲家を連れていたんですが、彼がショック受けてましたね、『これはいい』って。僕も川井さんは天才だと思います。僕は音楽のことは全然判ってないので『肛門からキノコ』みたいなオーダーになるんですけど(笑)、それであんな鮮血が出るような曲を作ってくれるんですから(笑)」
それから、話は不帰の迷宮の事になった。
千葉「あの企画は全く野放しでしたね(笑)。当時アスキーでしたけど、それで行ってペラ紙一枚の企画書見せたら、7秒くらいで『……よろしゅうおま。いくらかかりまんの?』(爆笑)。それで『脚本が上がったら編集の方に見せれば良いんですよね?』と言ったら、『あたしら本よめまへん』(爆笑)『書いてくれたらOKです』でチェックも何もなしに好き放題やってました(笑)」
千葉「あれは(リレー方式で)まず押井さんが脚本を書いて、それからプロの脚本家の伊藤さんががっちり書いて、その後で僕が書いて全てをぶち壊してしっちゃかめっちゃかにしてました(笑)。順番が悪かったですね(笑)。僕が書いたのを押井さんに戻すんですが、押井さんから泣きの電話が入ってくるんですよ。『何で8畳の畳の島があるの?』『いや、八畳島』(笑)。『なんでその島の地下に27個のトイレがあるの?』『いや、あるんだからしょうがない』(笑)。『なんでヤカンの中に閉じこめられるの?』『いや、入っちゃったものはしょうがない。ちゃんとオチ付けてね、夢オチにしたら駄目だからね』(爆笑)」
千葉「収録現場で、永井一郎さんが寝不足で元気がなかったんで、ロックンロールを歌って貰おうとしたんです(笑)。徹夜で一日で歌を書いて、それで川井さんに曲付けて貰ったんです(笑)。第一声の『へいみんなボケてるか~い!』をやってほしかった(笑)。ボケているんだけど俺は本当は現役だという深層意識を出したかった(笑)。永井さんにかなりの回数歌って貰いましたね。こういうお馬鹿な、世の中のためにも何にもならないものが楽しいですね(笑)。もうやりにげですよ(笑)」
千葉「川井さんと言えば、スタジオで浴衣姿でいるんですけど、前を紐を結ばないでガムテープで留めているんですよ(笑)」
川井「紐だと前がはだけてきて、最後に紐だけになっちゃうんですよ(笑)。それで面倒だからガムテープでびーっと(笑)」
千葉「それでスタジオ歩いているんですよ、危ないっちゅーねん!(笑) 他に川井さんとは『どうしようもないビデオを見よう会』でけっこう仮面のビデオとか一緒に見たり(笑)、温泉で射的したりと色々やりましたねぇ(笑)」

次に入れ替わって登場したのは、押井守氏、若林和弘氏、西村純二氏。これは「川井憲次の麻雀仲間」だそうだ。
まずは押井氏。「僕は本来週末は熱海に帰っているんだけど、普段表に出たがらない、表に出るのがおっくうな川井君の珍しいイヴェントなので、土曜にもかかわらずやってきました。僕と川井君との付き合いは音楽が30%くらいで、あとは関係ないところで付き合っているんだけど」
そして音響監督の若林氏が自己紹介しようとしたとき、いきなり押井氏が酒をぶちまけて、プレゼントの色紙と三ツ矢氏が置いていった写真集を汚してしまう。
若林「これくらい大丈夫です、僕は麻雀の時にお茶漬け吐いたりするんで(笑)」
若林「川井さんとどっぷり付き合ったのがブルーシードですね。それからだんだん濃い付き合いになって、気付いたら麻雀卓を囲んで(笑)。打ち合わせと言って麻雀したり(笑)。僕は大体川井さんに焼酎を届ける係ですね(笑)」
そして次に西村氏。「一応麻雀だけじゃなくて川井さんと仕事もしてます(笑)。劇場は逮捕しちゃうぞ一本だけですけど(笑)。あとはなんやかんやと麻雀ですね(笑)。『こんなこととてもやって貰えないよなあ』という事まで川井さんにやって貰って、ああ麻雀やってて良かったなあと(笑)。『川井憲次の音楽は値段じゃない』と押井さんは言いますよね」
押井「僕が川井君に仕事頼むときは大体安いか高いかなんだけど、安いときは底なしに安い、高いときはそれなりに。でもそれで答えが変わるわけじゃない。予算に関わらず川井憲次が作品を面白がるかどうかなんですよね。基本的には時間が無いお金が無い何も無いと言うときに予想外のものが上がってくる。基本的には現場で何をどう思いつくかですね」
押井「くだらないことのつきあいが重要で、それで現場で同じ気分にすぐ慣れるんですね。『ああいう感じ』といってすぐに伝わる。何回一緒に温泉行ったかと言うことも大事(笑)。そういう付き合いの延長線上にあるんです。僕の映画に関する限り音楽は川井君との共同作業ですね、他の監督とはちょっと違うんじゃないかな。ミニパトは川井憲次の自己パロディというものになりましたね、あの演歌は僕は違うものを想像していたんだけど」
桑島「僕はたまたまその時見学していたんですが、画面に合わせて演歌が流れた途端にスタジオが大爆笑になりましたね(笑)。ダーツのど真ん中にどかんと当たったみたいで気持ちよかったですよ」
押井「いつもど真ん中というわけではなくてたまには落ちるんだけど(笑)。あの船のシーンでは、最初の打ち合わせでは軍艦マーチだったんですよ。まあ川井憲次の軍艦マーチだから普通のものが上がるわけはないと思っていたんだけど(笑)」
若林「演歌は腹痛かった(笑)。スタジオでみんな笑っているとき、川井さんが一人だけほくそ笑んでいました(笑)」
押井「演歌はパト2でもやったんだけど(思ひでのベイブリッジ)。『劇中でカラオケ用の曲を作って欲しい』『どうせ作るなら演歌にして歌も入れよう』って。それで当時売り出し中の新人演歌歌手を呼んだんだけど、一緒に演歌の鬼みたいなおじさんがついてきて(笑)。向こうは真剣勝負なんですよ、仮にも映画の歌ですから。こっちは冗談のつもりなのに(笑)、向こうは目つきから何から全然違って、詩の一句一句を解釈していくんです。川井君は最初は笑っていたけど段々青ざめて(笑)。今更冗談ですとは言えないし怖くなって(笑)。終わったときはほっとしました(笑)。それでCD出したら売れちゃってオリコンにも入って(笑)」
押井「他にもジャズのふりしたり演歌のふりしたり、真剣にやっている人が見たら怒りそうなことやって(笑)。攻殻でも香港のアイドルの女の子呼んで歌作ったんだけど(『毎天見一見!』 攻殻機動隊OSTに収録)、香港から取材が来たりして。でも本編では市場のシーンで薄ーく入っているだけ(笑)。やはり第三者が入ると違ってきますね。特に演歌方面は怖いな、と(笑)」
押井「僕が川井君に初めて会ったときは他の人と同じ印象でしたね。『本当にこいつで大丈夫かな』(笑)。とにかく異様に軽かった。僕の音楽家のイメージと全然違いましたね。お洒落でもないし気難しそうでもないし、煙草吸ってギターちゃらちゃら弾いて(笑)。曲を聴いた瞬間落差に目眩がしましたね(笑)。僕が音楽の人とみっちり付き合ったのは川井君が初めてだけど、語弊があるけど音楽は不謹慎じゃないと作れないですね(笑)。僕らの仕事自体そうだけど、美しい曲でも冗談言いながら作るとか、作るものと精神状態は必ずしも一致しない、いや一致してはいかんのだと(笑)。これだけだらだらいい加減にやりながら曲が上がるんですから(笑)。それから音楽の素人の僕でも口出すようになりましたね」
西村「『逮捕しちゃうぞ 劇場版』で、橋が爆破された直後に流れる曲があるんですが、あれは試写が終わった後に『あそこ音楽が無くて寂しいよね』という話をしたら『じゃあ作りましょうか』って川井さんが言ってくれたんですよ。それで公開まで後一ヶ月というとき、試写の後に曲を作って貰ってダビングし直すということをしてるんです。劇場公開が5.1chだから、この曲は2chのバージョンが存在しなくてサントラに入っていないんですよ。我が儘放題やってて、やはり麻雀はやっておくもんだなあと(笑)」
西村「僕が紅い眼鏡を見た時にヘリのところの曲が凄く気持ちよくて、『押井さんいいなあ、ああいう音つけたいなあ』って思っていたんですけど(笑)。逮捕はスタジオディーンで作ったんですが、ディーンと川井さんって全然繋がりがなかったんですよ。でも僕が一方的に川井さんの名前挙げてわーわー言っていたら、『まあいいかぁ、お前も次映画作れるか判らんし』って通りました(笑)。結果には当然満足だし、紅い眼鏡よりかっこいいと思ってます(笑)」
押井「麻雀はいつからやっていたか記憶がないんだけど。ビデオのパトレイバーの頃から?」
若林「スーパーヅガンという麻雀アニメをやったんですけど、スタッフが麻雀知らないので教育と言って麻雀やってたのが始まりのような気がしますが(笑)。コミックは台詞の中に麻雀牌の絵が入っていて、それを『イーピン』とか『サンマン』とか牌の名前で読まなければならないんだけど、オーディションの時に某声優がが麻雀判らないから牌のところ全部飛ばして読んじゃった(笑)。飛ばすなよ! せめて『なになに』とかって言えよ!(笑) オーディションにならなかったですね(笑)」
若林「麻雀は大体押井さんが七割勝って、残りの僕らで一割ずつくらいですね。押井さん負けがこんでくると上目遣いになって『楽しくやろうよ~』って(笑)。これが出ると『やったぜ!』って思いますね(笑)」
押井「麻雀のエピソードは山ほどあるけど、話せないね(笑)。ワカ(若林氏)は毎晩焼酎だし」
西村「僕は麻雀の時には飲まないんですけどね。少牌(*4)するから(笑)。チョンボ(*5)もやったな(笑)」
ところで会場には高田明美氏も来ていた。「前回は楽屋の方にいたんですけど、ステージの様子がよく分からなくてあまり楽しめなかったので、今回は観客席で見ることにしました(笑)。私は画集のCD-ROMとかで川井さんに音楽をお願いしたり、あとは年賀状のやりとりもしています。こちらは平和で美しい年賀状です(笑)」
川井「ワカさんはオーダーが例えば『笑い30%、シリアス70%』とかって、非常にやりやすいですね」
千葉「すんません(笑)」
川井「あ、ああいう抽象的なのも好きですよ(笑)」
千葉「僕は川井さん以外にもあんな感じでオーダーするんだけど、一人だけ怒った人がいましたね、田中公平って人が(笑)。『こんなメニューで僕に何を作れと言うのか!』って(笑)。でもそのあとで、僕の方が年上だって事が判明したんですね。そうしたらそれ以後そのオーダーでOKになりました(笑)」
川井「アヴァロンの時は困りましたね、『10分の歌物作って』って押井さんに言われて、『画はどうするんですか?』って聞いたら『画はこれから作るから』って(笑)」
押井「セルジオ・レオーネっていう西部劇撮ってる監督がいるんですけど、その監督が音に合わせて画を撮っているんです。それで僕も一回やってみたかった。川井君とオーケストラという難しい組み合わせだけど、それで川井君の音楽に関する譲らない一線というのが見えた気がした。普段から温泉行ったり麻雀したり、チンドン屋の曲も作ってくれる人だけど(笑)、それでもそういうのがね。10分も演奏しているとテンポがずるずるになって大変だったと思いますよ。僕は反省してないけど(笑)」
川井「KILLERSは2曲だけって聞いて、嬉しいな、楽だなと思っていたらそのうち1曲が16分(爆笑)」

川井氏は、リングで有名な中田秀夫監督作品の音楽も担当している。
川井「中田さんは最初ニコリともしない、怖い人だなーと思ったんですけど、デモテープを気に入ってくれてそれでやることになったんですよね。それで収録の時にFさんがギャグをいつも飛ばしているんだけど、中田さんもよく見たら笑っているんですよ(笑)。それで中田さんがギャグを言ったんです。でもその時その場にいた人間の誰も、それがギャグだと判らなかったんです。そうしたら中田さんが『あの、今僕ギャグを言ったんですけど』って(爆笑)。それで打ち解けましたね(笑)」
押井「僕はリングはある人に借りて見たんだけど」
川井「『ある人』って僕ですよ!(爆笑)」
押井「夜に見たら、怖くて部屋の電気全部付けたまま朝まで過ごして、朝になってやっと寝た(笑)。僕は怖い映画は見ない人なんだけど、川井君が他の人とやった映画は大体見てる。川井君が他の人と、僕よりいい仕事してないかなって(笑)。でも今のところ僕との仕事が最高だね(笑)。ただ川井君、リングは良かったけど、普段からもっと仕事選ぼうよ(笑)」
川井「だって見てから選べないですよ(笑)。最初は話聞くだけだし」
押井「人が良くて仕事断らないから、その人の良さに付け込まれてるんだよね(笑)。僕は付け込んだ後にちゃんとフォローするから(笑)」
川井「ブラッディー・マロリーは監督からメールを貰って、アヴァロンがカンヌで公開されたとき、その帰りにパリに寄って監督とお会いして、それでお話を聞いて『面白そうだな』と思って受けたんです」
高田「カンヌからパリって、素敵ですねぇ(笑)」
川井「カンヌからはパリを通らないと帰れないですよ(笑)」

そして最後にゲストとして登場したのが、井上喜久子氏。「私はらんま1/2で初めて川井さんにお会いしたんです。私が『お姉ちゃん』って呼ばれているのも、らんまで三姉妹の仲で一番お姉ちゃんの『天道かすみ』っていうキャラをやったからなんですが、それでスタジオでもずっと『お姉ちゃん』って呼ばれて、それが今でも続いていて、お姉ちゃんで押し通してます(笑)」
井上「らんまで一番最初に歌ったのは『うちの天道道場~居候~♪』という歌でした(『乱馬ランバダ★RANMA』、らんま1/2 TVテーマソングス コンプリートに収録)。その後で歌暦歌かるたというアルバムをやったんですが、それが本っ当に楽しかった」
川井「歌かるたね、50曲作りました(笑)」
井上「それでその後私のアルバムをお願いするようになったんです。私と川井さんは生きてる次元が違うみたいな感じで、私の作る詩は童謡みたい詩で(笑)、それに仕方なく曲もくっついてきて下さっているんですが(笑)」
井上「私は普段小さいテープレコーダーを持って歩いているんですよ、スパイみたいに(笑)」
川井「今時そんなスパイはいません(笑)」
井上「それで町とかで歩いているとき、詩とメロディを思いついたらその場で吹き込むんです(笑)。それを川井さんに渡して曲を作って貰うんです」
川井「喜久子ちゃんのテープ聴いていて面白いのは、背景がはっきり判ることなんですよね。ああ今電車乗ってるなとか(笑)、京急だなとか(爆笑)。それで段々キーが下がってきて、歌い始めと歌い終わりで半音下がっていたりするんですよ(笑)」
井上「それで譜面を作る時に『ミですか~? ファですか~?』って聞かれたら私が『ファです~!』って答えるんです(笑)」
桑島「フジテレビの某サイコロを振る番組でらんまの曲がずっと使われ続けていますよね」
川井「あれは僕が作曲したんじゃなくて編曲しただけなんですが、スタジオでらんまの曲の収録が『終わった~! さあ片づけるか』ってほとんど片づけ終わった後に、僕が『そういえばオープニングテーマのアレンジいらないんですか?』って言ったら『いる~っ!』(笑) それで一台だけシンセ組み立て直して収録しました(笑)」
桑島「そんな急場しのぎで作られた曲がその番組で延々と使われ続けていたんですよね(笑)。この話を聞いたとき非常に面白いと思って、いつか語りたいと思ってました(笑)」
それかららんま1/2で監督を務めていた西村氏、音響の手伝いをしていた若林氏、らんまのアニメオリジナルキャラである佐助を演じていた千葉氏が再登場。
井上「らんまは、お豆を煮る話が印象に残ってますね(第91話『夢の中へ』)。夢の中の話でもう訳が分からなくなっちゃって、最後に私が『お豆が煮えましたよ~』って出てきて現実の世界に戻るんです。私一人がいいところ取っちゃって(笑)」
井上「私、佐助さんが大好きです。小太刀に色々言われながら精一杯頑張っている佐助さんが大好きで(笑)」
西村「今だから言えますけど、らんまは3年目くらいでかな、そこで監督がいなくなっちゃって(笑)それで誰か監督やらないかって声かけまくったんだけど誰もいなくて、結局僕がやることになりました(笑)。アフレコ現場には必ず行くようにしていて、楽しかったですね。予告編も僕が書いたし」
井上「千葉さんとか、大林隆介さんとか(天道早雲役)緒方賢一さんとか(早乙女玄馬役)のアドリブがすっごい面白くって、私の台詞が『ご飯ですよ~』とか一言だけだったりするのに、マイクの前まで行っても笑いをこらえてしゃがみ込んで、何も言えずに戻ってくるとかよくやってました(笑)」
若林「あのおじさん連中ね、仕事と思ってないですから(笑)。千葉さん、最初のリハーサルと本番で全然違うこと行ったりするし(笑)」
千葉「前の日にネタ考えていたりするんだけど(笑)、一回言ったら飽きちゃうんですよ(笑)。らんまは私も歌いましたねえ、歌ったというか叫んだというか(笑)」
井上「ああ、あの屋根の上でちゃんちゃんってやるやつ!(歌かるた収録『忍び音頭』)」
川井「あれは茶碗だったかコーヒーカップだったか忘れましたけど、それを本当に箸で叩いて音録りました(笑)。マイクを手元にグーって近づけて、僕は息も出来ない(爆笑)」
井上「川井さんってそういう芸……」
川井「芸?(笑)」
井上「あ、いや、そういうちょっとした……」
川井「つまんないもの?(笑)」
千葉「喜久子ちゃん、言うたびにドツボにはまってない?(笑)」

ここで惜しまれつつも時間いっぱいなのでイヴェントが終了。ゲスト全員のサインが入った色紙と、三ツ矢氏(らんま1/2では東風先生を演じている)が「こんな物に今更価値無いと思いますけど、魔除けにもなりますから(笑)」と置いていったサイン入り写真集がプレゼントの対象になった(川井氏が写真集のセミヌード写真を井上氏に見せて、井上氏が「きゃー!」と目を隠しながら逃げまどうという事態も発生)。
そして最後は来場者の一人一人を挨拶と握手で送り出した「いい人」の川井憲次氏である。

原註

  1. ビデオディスク(VD)の企画として、ビクターのVHDとパイオニアのLD(レーザーディスク)という二つの規格が争っていたが、1984年にソニーがLDを採用したのを切っ掛けに他社も追随、LDのみが生き残った。
  2. 作曲家。『勇者王ガオガイガーFINAL』『機動武闘伝Gガンダム』『オーバーマン キングゲイナー』などを手掛けている。『サクラ大戦』が第17回 日本ゴールドディスク大賞 アニメーション・アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞している。
  3. カプコンから発売された、太平洋戦争を題材にしたシューティングゲーム。
  4. 麻雀は牌が14個なければ上がれない。一枚捨てて一枚拾ってを繰り返して上がりを目指すのだが、拾うのを忘れていたりして牌が少なくなってしまった状態を少牌しょうはいといい、その状態では上がることが出来なくなって、他人のプレイを見ているしかなくなる。これとは逆に牌が多くなってしまうのは多牌たーはいといい、その時点でチョンボとなる。
  5. 上がれない状態で上がりを宣言してしまったりとか、ルールに反することをやってしまったときはチョンボになってしまう。この時は得点にかなり大きなペナルティを食らう。

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