釣り人を乗せた漁船の船長が、他の船と無線で話している。そして画面に映る飛行機と空から降ってくる「何か」。これは「上空の飛行機がハゼを13号のためにばらまいているのだ」とか、「13号の餌のお化けハゼが一緒に輸送されていて、それが落ちたのだ」と思った人がいたようだが、あの漁船の周りにバラバラと降ってきたのは、墜落して行く飛行機の破片である(実際に事故があったとしたら、あんな風に破片は落ちないと思うが)。
今までのパトレイバーは、冒頭が戦闘シーンから始まっていた。これは冒頭で観客を物語に引き込むための常套手段だが、それに比べてWXIIIは漁船で船主が無線で野球の話などをしている。これは総監督の高山氏曰く、「このころだらだらとした日常を送っていたので、そのだらだら感を入れようと」という事だが。一応ここで、東京湾で魚が捕れなくなったという伏線が出ている。
草野球のピッチャーをしている秦。ここでピッチャー交代を告げられた秦が、何かを投げられて受け取ると携帯電話(PHS)だった。1999年以降の世界を描いたパトレイバーで初めてまともに登場した携帯電話。一番最初のパトレイバーが登場した時には、誰一人として携帯電話のここまで急速な発達は予測できなかった。一方で今でも人が乗れるような二足歩行ロボットは登場していないが…。未来技術を描くとはこういうものだ。手塚治虫は鉄腕アトムが作られるのを2003年としていた。
さてこのシーンに登場する携帯電話は一応城南署の物で秦の私物ではない、要するに、現在ほどには携帯電話が発達していない世界という設定で、そこで後に秦が公衆電話を使うシーンに繋がる。それについては後述。
ところで秦の背番号は8。これは13号とかけて「813」という洒落である。この「813」とは「怪盗ルパン 813の謎」(*1)から取られた洒落であり、他にも最後で13号が破壊するテレビカメラが8番カメラとか、冴子の娘の演奏が始まるのがテープの1分38秒からとなっていたりする。
ここで久住が初登場。「遺体って、これだけですか?」という秦の台詞。遺体が直接出てこない、比較物が少ないと分かり難いが、これは「死体袋に入れられた死体の大きさが小さい」つまり死体が食われているということを示している。
しかしここでわざわざ「着替えてから行けって言ってんだよ!」と叫ぶ久住。実に嫌な性格をしている。
冴子と秦のシーン。ぬけぬけと声を掛けた挙げ句車に連れ込む秦が何とも言えない。冴子の顔ではなく、うなじから画面に入れることに高山氏が拘っていたらしい。
そしてここでポイントとなる冴子のライターが登場。しかし「冴子が灰皿の方を見た」というだけで、冴子が煙草を吸いたがっていると見抜くというのはやはり少々無理があるだろう。それに秦は運転中だったのだが、にもかかわらずそれほどじっと冴子を観察していたということか? 一応秦の警察官としての洞察力を表すものとして残された。ところで秦だが、脚本では本庁出身のキャリアというエリートの設定だったが、その設定が触れられるところはカットされた。
後のシーンにも出てくる捜査会議。公開当時、「これは『踊る大捜査線』の真似だ」とか言われたらしいが、「(これが作られたのは)『踊る大捜査線』よりも前だったんだよ~!」と遠藤監督らが主張していた。 もちろんWXIIIはずるずると完成が遅れ、知っての通りになったわけだが。
後でもっと細かく描写されるが、妻子に逃げられて侘びしい男の一人暮らしの久住の自宅。そして恐らく唯一の趣味だろう、アナログレコードのハード。AVマニアからは「あのアンプとあのスピーカーの組み合わせは適当ではない」「久住の性格だったらアンプの組み合わせは……」と突っ込まれたらしいが、「聞くのは好きだけどそこまでは拘っていないという事で」と逃げていた。それを補足するように、あまり大事にされているとは思えないよれよれのレコード。「アニメーターさんが手で描いてくれたので、これ以上ないというほどよれよれになっていた」という遠藤監督の言葉。
一方の秦の部屋。独身警察官は本当は寮に入っているはずなのだが、どう見てもこの部屋は普通のアパートであると、とり氏らが自分で突っ込んでいた。それはともかく机上のパソコンの液晶ディスプレイが後々意味を持ってくる。
このスタジアムのモデルは、「取材(ロケハン)に行った当時の横浜国際競技場」である。更に裏設定ではこのスタジアムは、「埋め立て地にワールドカップのために建設が始まったスタジアムだが、ワールドカップを韓国に取られたため建設途中で放棄された」という。取材を行った時は、まだワールドカップの開催地が日本になるか韓国になるか決まっていなかったのである。
また背景に出てくるミュージシャンのポスター(NOVA)。この男二人と女一人は、秦、久住、冴子という男二人と女一人の暗示らしい。このポスターはこの後、最後のスタジアムのシーンや観覧車の所などでも出てくる。
巨大ハゼの魚拓に気が付く久住。ところでフランスでこの映画が公開された時には、ハゼという魚も魚拓という行為もフランスにないため、何が異常なのか理解されなかったという。単に大きな魚の絵と違うのか? と。
もちろんこのハゼは、(冴子が13号に与えていた)ニシワキトロフィンを吸収して巨大化したものであり、先に書いたように「13号の飼育用に特別に飼育されたハゼが飛行機の墜落によって逃げ出した」のではない。
その後久住らが話を聞いた漁船のオヤジは、映画冒頭に出てきた人物。その船の名前は第五海福丸。船の名前の由来は察しが付くだろう。このオヤジの冒頭の話も纏めるとこうなる。一時期東京湾では魚が(恐らく偶然の現象により)釣れなくなっていた。だがニシワキトロフィンを吸収したお化けハゼが一時期釣れるようになり、しかしその後は恐らく13号に食われたためまた魚が釣れなくなったという事である。
東都の玄関前、栗栖の前に立つ二人の男。一人は日本人だが、一人は白人(しかも隻眼)である。この後で宮ノ森が「大佐は何と?」と言っているが、この台詞から、あの隻眼の白人が軍人(恐らくアメリカの)であることが想像できる(客に想像して貰おうとしている)。日本の自衛官は「大佐」という呼び方はせず、(陸自の場合は)大佐に相当する階級は一等陸佐(一佐)となる。石原も一佐である。
それでこの軍人、全く名前は出てこないがコミック版ではパッケンジーという。だがこの名字、英語の名前には存在しないことが判明したそうだ。
宮ノ森が「後始末は…報酬はいつものところに…」という電話をしているが、これは後に出てくるヘルメス商事というダミー会社を「消し去る」処理の事である。飛行機の墜落と東都との間にあったヘルメスを断ち切ることによって、東都に手が触れられないようにしたものだ。
エレベーター内で栗栖が薬を飲むのは、持病を持っているというコミック版の設定を踏襲している。もっとも発作を起こして倒れる、コミック版のシーンはないが。
原註