13号に襲われるレイバー。ここで画面にちらっと13号のひれの部分が映っており、後で秦らの前でリプレイされる時にも映っている。映画館だと暗くてよく判らなかっただろうが。
ここで語られる、「壊れ方が不自然なコンテナ」。墜落の衝撃でコンテナが緩んだところ、13号が中からこじ開けて脱出したのだろう。
それでこの飛行機~13号の入ったコンテナを乗せていた輸送機~の墜落原因だが、監督らの想定によると「単なる事故」だそうで、別に13号が暴れたために墜落したというのではない。ゆうきまさみ氏の原作では墜落原因は13号と想定されていたらしい。
「やってられまへんわ」と、こてこての関西弁を話す作業員。高山氏によるとこれは、関西弁を話すこの「濃い」キャラクターを登場させて、この後に登場する特車二課の遊馬と野明(こてこてのアニメキャラ)が浮くのを軽減するためだそうだ。
そして野明と遊馬の二人が登場し、あの作業員が再び「やってられまへんわ」と、さっきと同じ事を話し始める。独自にやってきた久住達と、事前にアポを取り(多分)後藤に派遣されてきた野明と遊馬がぶつかったのだろう。
ところでパトレイバーに馴染みのないフランスで公開した時は、この野明と遊馬は全然浮いていないと思われ、一方で石原が非常に浮いたキャラだと思われたそうである。
秦の車に乗って戻る秦と久住。事故の映像について「ネットにそういうサイトがあるんですよ」という言葉が畑から出ているが、これは元々は「パソコン通信の知り合いに……」という台詞だったそうだ。脚本が書かれた当時、インターネットが普及しておらずその名を知るものがまだほとんどいなかった時代の名残であった。
ここで久住が冴子のライターを見付ける。画面には一瞬しか映らないしレタリングが判りにくいが、このライターには冴子のイニシャル、M.S.と入っている(取り敢えずS.M.とされるのは避けられた)。これが後で久住が、冴子と秦の関係に気付く理由の一つになる。
ここで冴子が見ているのはもちろん娘であるひとみのヴィデオだが、この場面では何を見ているのかはよく判らないようになっている。
ここで、冴子のキャミソール(?)の肩ひもの片方がずり落ちている色っぽさが強調されていた。
画像をダウンロードする秦。絵コンテではこのシーンは、このPC画面について「Win97の開発画面とNT4.0を元にでっち上げます」とある。やはりコンテが書かれた時期の反映である。Windows98は当初は97の予定だった。また脚本段階ではパソコン通信の画面を意識し、テキストのみの通信画面でどのように表現するかという指示がなされていたのである。
ここに出てくるガン細胞のサンプルは、直接語られてはいないものの「恐らくひとみのガン細胞だろう」(遠藤氏)。この講義で出ているスライドは、一応読むとそれなりのまともな文章になっているそうである。これは遠藤氏らのこだわりで、「自分がアニメや漫画を見ている時、新聞とかに適当な文字が並んでいるのが凄く嫌なので、自分が嫌なことは可能な限りしないようにしようと」という事だそうだ。「僕が(漫画家の)望月三起也が好きなのは、縞の服を描く時にスクリーントーンを張るんじゃなくて、一本一本手で縞々を、服の歪みに合わせて描いているから」
この大学での講義が「アルバイト」だったというのは後から語られるが、その前にも冴子の部屋にかかってきた宮ノ森の電話が「アルバイトの件が…」と話されていた。この辺は一回観ただけでは気が付くまい。「冴子がこの大学でアルバイトをしたのは、大学の設備を使いたかったからかも知れない」というとり氏の言葉。
さて大学でライターを冴子に返し、「口実です」とぬけぬけと言う秦。ところでこのシーンは出渕裕氏やゆうきまさみ氏が、「冴子に眼鏡をかけさせろ」「そして眼鏡を取った冴子の顔に、秦がはっとするシーンを入れろ」という「眼鏡っ娘萌え演出」を入れろと主張したが、断固却下されたそうである。
脚本ではこの直後に冴子と秦がデートするシーンがあった。ここでは、肥大化する都市をガン細胞になぞらえる冴子の話が行われていた。
前のシーンで秦がダウンロードしてきたものと思われる画像を見る二人。久住が秦を正視していないところ、ぶっきらぼうに「スローモーション!」などと言うところが二人の関係を良く表している。
ところでこの後も何度も出てくるディスプレイの映像だが、非同期縞が発生しているのがアナログディスプレイ、発生していないのが液晶ディスプレイなどと細かく分けられており、これが「誰が見ている画面か」を示している。また非同期縞だけではなく、ヘリコプターが出ている映像ではヘリのローターの所もちゃんと実際にカメラで撮影したように切れているそうだ。
あくまでこの作品は、「映画カメラがその場面を撮った」という事を想定して作画が行われており、非同期縞もその一つである。
ここに出てくるのが「桜の園」という演劇で、台詞を追うと、持っていたものを失ってしまった冴子の姿と重なるようになっている。本当はこの演劇の後には、この主人公の婦人の子供がここ(桜の園)で死んでいるという話も出ているが、これはネタバレとしてカットされた。
この演劇はシェイクスピアの「リチャード三世」から、「心を決めたぞ。俺は悪党となって、この世の楽しみを恨んでやる」という台詞の場面が使われるという構想もあった。
もちろんこれは冴子の怒りと憎しみと重なるものである。
ところでデートでこんな暗い芝居を見に行くように言いだしたのは誰かという説だが、これは高山氏は「秦が誘って失敗したと思った」という解釈で、遠藤氏は「冴子が希望した」という解釈らしい。どちらを取るかは観客の自由ということだ。
この演劇の後、秦と別れて一人の冴子が東京湾に向かって佇むシーン。ここで、冒頭秦の車に乗っていた時に冴子が持っていたトランクが出ている。これからこのトランクの中にある物を使って、13号にニシワキトロフィンを与えようとしているのだ。この謎のトランクの中身が何かは後に出てくる。