脚本=櫻井圭記
絵コンテ=西久保瑞穂
演出=高橋順
作画監督=石井明治
天禄3年、如月。山賊“土蜘蛛”が奪った、天下に太平をもたらすという勾玉を奪回するため常陸国に向かった源頼光と、その家臣の渡辺綱。だが2人は土蜘蛛のアジトである洞窟に辿り着く前に襲撃を受けてしまう。その撃退には成功したが、頼光は負傷してしまう。そこで近くに人里を見つけ、そこの住民の援助を得ようと綱は提案する。頼光は、一刻も早く勾玉を奪回しようと主張したが、結局は綱の意見に折れた。傷口を洗うため、川に辿り着いた頼光が頭巾を外すと、その下から長い女性の髪が溢れ出す。頼光の本名は光。病床に伏せっていた、本物の頼光の妹だったのだ。
一方平安京では、楽師・万歳楽の舞を見ていた帝が突然発作を起こして倒れる。狼狽えた大臣達は、陰陽寮から安倍晴明を呼び寄せる。帝の発作は晴明の薬で収まったが、大臣達は「帝の先は長くない」と噂しあっていた。
さて、攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXでもやっていた各話解説をここでやってみようかと思う……。といっても、私は日本史には全然詳しくない。ということで色々調べながらこれを書いているため、色々と間違いやら突っ込み足りないところもあると思うが。
天禄3年といえば972年。平将門の乱が935~940年、藤原純友の乱が936~941という時代設定だ。当時は中央集権制が弱まり、律令的土地制度が崩壊するに従って地方の武士勢力がその存在を主張し始めていた。劇中では「疫病が流行し~」といったことが出ていたが、970年頃には疫病で死んだ人間の魂をなだめる御霊会として、祇園御霊会が毎年の恒例行事として行なわれるようになっていた。
当時の天皇は円融天皇。在位は969年から984年で、即位直後は11才だったため、太政大臣の藤原実頼が執政についた。970年に実頼が死ぬと、藤原
元々“御伽草子”とは、室町時代から江戸前期に作られた短い物語である草子の総称であり、その中に源頼光が主人公である『酒呑童子』などの物語も含まれる。そしてこの“お伽草子”というアニメは、源頼光にまつわる伝承を題材としたものだ。そもそも頼光の酒呑童子の伝承の成立は14世紀頃だが、当時の足利家が、自分の祖先である源家を英雄的人物にしたくて仕立てた話らしい。
実在の源頼光(本来は名の読みは「よりみつ」で「らいこう」は俗称だが、このアニメでは「らいこう」で統一されている)は948年から1021年まで生きた。アニメの設定だと頼光は18才、光は17才なのでここはちょっと年齢が狂ってくるが。さて、歴史上の源頼光は、武士というよりも多くの国司を経験して大量の富を蓄えた人物として有名である。摂関家との関係も深く、藤原道長 (966~1027)や、その父である藤原兼家に馬やら家具調度やらを献上している。頼光は武勇に優れ、都の武者としても知られたが、実際にそうだったのかは定かではない。代わりに源氏の武者的な側面は、後述する弟の頼信とその一族に受け継がれている。
頼光は
また頼光には源頼親や、源頼信(968~1048)といった弟がいた。頼親は大和源氏の祖である。そして頼信は河内源氏の祖で、1028~31年の平忠常の乱で活躍して源家の“武の家”としての名声を確立した人物なのだが、このアニメには出てこない。恐らく物語を頼光の伝説に集中させるためだろう。
さて、源頼光の土蜘蛛退治だが、これには実際に『平家物語』にそういう話があり、この物語を演じた能もよく演じられている(役者が手から蜘蛛の糸をばっと出すのをTVなどで見たことがある人は多いだろう
)。そちらではこのアニメとは異なり、その時に頼光が退治するのは本物の蜘蛛の妖怪で、旅人を地下の巣窟へ誘いこんでは生き血を吸っていたという。だが民俗学者によると土蜘蛛とは、大和朝廷の支配下に入ることを拒んだ土着民への蔑称だったらしい。このアニメで土蜘蛛がああいう土着の山賊として描かれているのは、その話を発祥にしている
(それとも話を原点に戻したと言うべきか)のかもしれない。
源頼光の土蜘蛛退治
渡辺綱は953~1025年に生きた武将で、後に頼光の四天王と称される人物。アニメでは綱は20才という設定なので、それから考えると年齢はだいたい一致しているようだ(数え年か?)。後に酒呑童子という「鬼」を退治することになる彼だが、その関係で全国の渡辺氏は、節分の豆まきなど必要ない、祖先に鬼より強い人物がいたのだから……という話があるそうだ。あと綱は自分の持っている刀を「鬼斬丸」と言っているが、伝承では彼の刀の名は「髭切(丸)」といったそうだ。もっともその刀は頼光より賜わった物のようだが。
夢枕獏の小説やそれを原作とした映画等ですっかり有名になった安倍晴明。このアニメでは「齢100才以上」と言われているが、史実の晴明は921~1005年に生きた(つまり85才で死んでおり、972年の段階では51才)。晴明は天文博士として、天文を読んで将来を予測する能力に特に優れ、天下の大事を極秘のうちに天皇に
直に報告する天文密奏を任されていたという。961年と994年に密奏をし、999年には天皇の法興院の行幸の日時の決定にも関わっている。
後世になると晴明はどんどん神秘化されていった。平安後期成立の歴史物語である『大鏡』では、花山天皇が出家して譲位することを予知したとある。鎌倉中期の『古今著聞集』では、並んでいた瓜の中から毒をもつものを選び出したとか、『古事談』だと花山天皇の頭痛を、野晒しになっていた天皇の前世の頭蓋骨を祭ることで治したとか、『今昔物語』では式神を家事に使っていたとかとにかく色々あり、今も昔も物語を作るにあたって便利なキャラクターであったのだろう。
パッケージ | 製品名 | 価格 | 備考 | 購入 | |
---|---|---|---|---|---|
お伽草子 DVD 1巻 限定版 | 6,300 | 1~3話収録。三つ折りケース仕様、映像特典ディスク、ブックレット付。 | amazon | 楽天 | |
お伽草子 DVD 1巻 通常版 | 5,040 | 1~3話収録。 | amazon |